笑い方を忘れた令嬢

Blue

文字の大きさ
上 下
46 / 71

捕縛

しおりを挟む
 向こうに気付かれないようにと、離れた場所で待機している竜たち。
「こんな後方で麓の行動がわかるものなのですか?」
思わず聞いてしまうアリアンナに、ジルヴァーノは穏やかな顔で頷いた。
「ロワにはここでも十分、あちらの様子がわかるので大丈夫です」
「ロワはやっぱり凄いのですね」

アリアンナの言葉に気を良くしたのか、銀の竜がアリアンナに鼻先を擦り付ける。
「凄いのね、ロワは」
そう言って鼻筋を軽くこするように撫でてやれば、銀の竜は気持ちよさそうに瞳を閉じた。

一方、王太子と騎士団長は、森の中を進んでいた。
「そろそろ麓に近い場所になります」
小声で団長が言うと、王太子が「シッ」と口に指を当てた。耳を澄ますと何やら話し声が聞こえる。その声は、確実にこちらに近づいていた。

「どうやらお出ましのようだな」
気配を消し、彼らの動向を窺う。

「しかし……本当に生け捕りなんて出来るのか?」
懐疑的なセリフを吐く男に、隣を歩いていた男がニヤリと笑う。
「この人数で行けば大丈夫だろう。なんせAランクのパーティーが5組合同で挑むんだ。ギリギリまで弱らせればいい」

「捕まえた所で竜を従える事なんて出来ないのにな」
また違う男が馬鹿にしたように笑う。
「うちの王様は、残念ながら頭が悪いからな。それでも捕まえさえすれば、一生遊んで暮らせるほどの金が手に入るんだ。やらない訳にはいかないだろう」

先頭を歩く男が皆に聞こえるように言う。
「とにかく1頭でいい。何度か偵察に来たが、この辺りは巣立ちした若い竜が来ることが多いんだ。成獣になった竜はもっと上の方にいるし、成獣にはとてもじゃないが勝てない。だが若い竜なら話は別だ。いいか、間違っても死なせるなよ」
「ああ、大金が待っているんだ。しくじるもんか」
下卑た笑みを浮かべながら、冒険者たちはその場を通り過ぎて行った。

「反吐が出る」
「本当ですね」
王太子と騎士団長、二人の眉間に皺が寄る。

「どうやら隣国出身の冒険者たちで構成されているようですね」
騎士団長が、通り過ぎて行った冒険者たちを目で追いながら言うと、王太子が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「ふん、隣でAランクという事は、この国ではCかよくてBランク程度だろう。一網打尽だな」
隣国は王族も腐っているが、ギルドも腐っていた。なんせ金を積めばランクが上がるのだ。隣国発行のギルドカードの冒険者は、他国では誰も信用していない。隣国出身の賢い者は、わざわざ他国に出てギルドカードを発行するのが常となっていた。

「皆の配置は整っているな」
「勿論です」
「あとは、本当に竜が降りてくるかどうかだな」

そう言っていると、上空に竜らしき影が見えた。3頭いる。
「やはり予知夢だったようだな」
王太子が上を見上げながら言うと、騎士団長も頷く。
「アリアンナ様は、本当に竜の姫神子のようですね」
「よし、竜に攻撃を仕掛けた所を一気に捕らえるぞ」
「はっ」

 後方では銀の竜が上空を見上げた。他の竜たちも上を見ている。つられるようにジルヴァーノも見上げると、何かの影に気付いた。
「あれは、竜の影ですね」
アリアンナも竜たちの影を確認する。
「本当に来たわ」
3頭の竜の影が、下降しているのが見えた。

「ロワ、出るぞ」
言われた銀の竜が、首を下げる。
「アリアンナ様は、他の竜騎士たちとここにいて下さい」
本当は一緒に行きたいアリアンナだが、自分が乗る事で足手まといになる事は分かっていた。

「はい、気を付けて下さい」
「はい」
ジルヴァーノは銀の竜に乗ると、一気に上空へ飛んだ。他の2頭も騎士を乗せて上空へ飛んだ。

 今、正にアリアンナの言った通りの光景が広がっていた。降りて来た3頭の竜の前に出て来た冒険者たち。1頭の竜が冒険者たちに向かってブレスを吐いている隙に、残りの2頭は飛んで逃げる事が出来た。
ブレスを避けた冒険者たちが、一斉に残った竜を囲み武器を身構えた。後方で5人いる弓使いが矢を放った時だった。

「捕縛しろ!」
王太子が叫んだ。

四方から一斉に、騎士たちが飛び出す。竜めがけて飛んだ矢は、銀の竜がいとも簡単にブレスで弾いた。そのまま銀の竜は、若い竜を覆うように降り立つ。騎士たちもAランクと言っていた冒険者たちを、ものの数分で捕縛してしまう。

「はっ、やはり隣国のAランクはお粗末だったな」
王太子が冒険者たちの前に仁王立ちになる。
「竜を捕えるどころか、自分たちが捕らえられてしまうとは残念だったな。一攫千金の夢も絶たれてしまったか。ああ、でも心配するな。これからおまえたちを我が国の城に招待してやる。まあ、城と言っても地下にある牢屋という所だが」
そう言った王太子は、悪い顔でニヤリと笑った。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...