笑い方を忘れた令嬢

Blue

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暗くなった正体

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 窓の外が暗くなり、部屋も薄暗くなってしまう。
「何!?何が起こったの?」
ドメニカが王妃とアリアンナを守るように立ち、立て掛けていた剣を持つ。

暗い窓をジッと見ていると黒い影が動いた。
「あら?黒じゃないみたい、銀色?」
王妃が緊張感のない声を上げる。
「まさか?」
アリアンナが、窓辺に近づいた。すると、やはり影が動き金色の瞳がこちらを覗いた。

「ロワ?」
アリアンナが銀の竜の名を読んだ途端、影がぶわっと後ろに下がる。窓から離れた影の全身が見える。影の正体はやはりロワだった。アリアンナは窓を開けてテラスへ出る。

「どうしたの?どうして外に?ジルヴァーノ様はご存じなの?」
立て続けに質問するが、銀の竜は飛びながら鼻先でアリアンナの頬にすり寄る。いつもよりもすり寄る力が強い。
「ロワ?もしかして何か嫌な事でもあったの?」
アリアンナが質問すると、銀の竜は彼女をジッと見つめてから、ゆっくりと金の瞳を一度閉じた。

「そうなのね。何があったの?」
そう聞くアリアンナを、銀の竜は鼻先に乗せようとした。

「お母様、ドメニカ叔母様。ロワに何かあったみたい。ジルヴァーノ様に知らせてくるわ」
そう言っている間にも銀の竜は、アリアンナを鼻先に乗せ終わってしまう。

「わかったわ。後で報告してね」
「はい」
銀の竜がふわりと飛び上がる。いつの間にか黒の竜たちもすぐ傍を飛んでいた。そして竜舎の方へとアリアンナを連れて飛んで行ってしまった。

「はあぁ、驚いた。聞いてはいたけれど、本当にアンナは竜たちに気に入られているのね」
「そうなの。凄いでしょ」
「ええ。まるでおとぎ話に出てくる竜の姫神子のようじゃない」
「やっぱり……そう思うわよね」
少しだけ王妃が声を潜めた。

 銀の竜の鼻先に乗せられて、アリアンナは竜舎へと向かう。竜舎に到着すると、残っていた竜たちが銀の竜の帰還を喜ぶように首を伸ばした。だが喜んでいない者が一人。仁王立ちになって岩の下で恐ろしい表情をしているジルヴァーノがいた。

「ロワ、ジルヴァーノ様だわ……なんだか凄く怒っていらっしゃるみたいよ」
ロワはどこ吹く風と言わんばかりに、ジルヴァーノの立っている目の前に降り立つ。

「ロワ、一体どういうつもりだ?」
地響きでもしそうな程低い声で威圧するジルヴァーノに、アリアンナは怖くなり銀の竜にしがみついてしまう。すると銀の竜は、文句を言うようにジルヴァーノに鼻息を吹きかけた。

「うわっ、何をするんだ。ロワ!」
そこで初めて銀の竜の鼻の上にしがみついているアリアンナを見つけた。
「え?アリアンナ様?」

アリアンナは銀の竜にしがみついたまま、ジルヴァーノに向かって声を上げた。
「ロワを怒らないであげて下さい。ロワは何か嫌な事があったみたいで……私に教えに来たのです」
「嫌な事……」
「そうです。だから私……ジルヴァーノ様にお教えしようと……」

「そうでしたか……アリアンナ様まで巻き込んでしまい、申し訳ありません」
いつもの声色に戻ったジルヴァーノ。アリアンナに向けて片手を上げた。
「アリアンナ様。降りるのをお手伝いします。私の手をお取りください」
ホッとしたアリアンナは、銀の竜の鼻を撫でた。
「ロワ。もう大丈夫だから降ろしてくれる?」

アリアンナが言うと、銀の竜は素直に首を下げた。ジルヴァーノの手に自分の手を置くとそのままキュッと握られる。アリアンナの心臓がトクントクンと鳴り出したが、アリアンナは気付かないフリをした。

手を離そうと軽く引く。しかし、舞踏会の時のように、ジルヴァーノの手はアリアンナを離してはくれなかった。仕方なくそのままで話を続ける事にする。

「ロワは、何か嫌な事があったから私の所へ来たようなのです。別に逃げ出した訳ではありません。叱らないであげて下さい」
ジルヴァーノは、銀の竜をジッと見つめる。銀の竜もジルヴァーノをジッと見た。

「はあぁ、やはりダメだったのだな」
大きくため息を吐きながら、諦めたように呟くジルヴァーノ。
「あの」
アリアンナは話が見えない。
「何がダメだったのですか?」
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