笑い方を忘れた令嬢

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笑顔を取り戻した令嬢

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 予想通り、今日の夕食も豪勢だった。食堂に入った途端に、ドメニカに抱きしめられる。
「アリアンナ。声を上げて笑ったんだって?良かったわね」
「ふふ、ありがとうございます。ドメニカ叔母様」
声を出して笑ったアリアンナを皆が見た。

「アリアンナ……」
王妃が泣きながらアリアンナを抱きしめた。
「アンナ……私の可愛い娘。本当に良かった、本当に……」
「ありがとう、お母様。私、とっても幸せよ」

次にアリアンナを抱きしめたのは国王だった。
「アンナ……もう一度、笑って見せてくれないか?」
声を震わせながらそう言った国王の顔は、アリアンナからは見えないが泣くのを堪えているようだった。
「ふふ、そんな急に言われても出来ないわ」
抱きしめ返しながら笑みが溢れる。

「ああ、やはり天使のようだな。昔の笑顔のままだ」
抱きしめる力を緩め微笑んだアリアンナを見つめると、国王は少しだけ困った顔をした。
「嬉しいことこの上ないが……今以上に大変な事になりそうだな」
「ですよね、それは私も思いました」
王太子も賛同する。

「誰か付きっきりで虫よけをした方がいいんじゃないですか?」
ドマニが冗談のつもりで言った言葉を王太子は「それだ」と賛同した。
「そうなると、やはりジルヴァーノか……」
「いやジョエル、冗談だから。そんな風に竜騎士のトップを使わないで」
「じゃあ騎士団の……」
「ダメだって」

「ここは私の出番じゃないかしら?」
ドメニカまで入って来る。
「母上が出てきたら、毎日重傷者が出るから」

夕食会は遅い時間まで盛り上がったのだった。

 夕食が終わり、眠気と戦いながらお湯に浸かる。
「もう少しで終わりますから、辛抱してくださいまし」
サマンサとベリシアが、ともすれば眠ってしまいそうアリアンナに声を掛けながら洗っていた。お湯から出て身体を拭いていると、サマンサが「あら?」と驚いた声を出す。

「なあに?どうしたの?」
「いえ……なんだか傷跡の形が変わったような……薄くなったのかしら?」
ベリシアもマジマジと見る。
「確かに……何かしら?模様のようになっているような……」
「いやだ、怖い事を言わないで」

「そ、そうですね。申し訳ございません」
それきり、二人とも傷の事については触れなくなった。



「こんにちは」
あれからアリアンナは、数日おきに竜舎へ行っていた。最近は、行きだけは近衛に送ってもらい、帰りは竜騎士の誰かに送ってもらっている。王太子は自分が行くと言い張るのだが、ドマニから仕事が進まないからと許可が出ないのだ。

「あ、姫様。いらっしゃい」
事務所に入ると騎士たちが気軽に声を掛けてくれる。
「ジルヴァーノ団長はいらっしゃいますか?」
アリアンナが聞くと皆が首を振った。

「団長は今、騎士団、近衛騎士団との定期連絡で留守にしてます。でも、姫様ならいつでも竜舎に入っていいと言われているんで」
一人の騎士が、竜舎の入り口を開けてくれた。
「ありがとうございます」
「いえ、何かあったら声を掛けて下さいね」
「はい、わかりました」

アリアンナが竜舎に入ると、すぐに何頭かの竜が気付いた。
「皆、こんにちは」
竜たちに向けて挨拶をすると、竜たちは挨拶を返すように首を垂れる。

銀の竜もアリアンナに気付いてやって来た。
「ロワ、こんにちは」
銀の竜は甘えるように、アリアンナにの頬に鼻先を擦り付ける。
「ふふ、今日も撫でさせてもらえるのね」
銀の竜の鼻先を擦るように撫でれば、やはり気持ちよさそうに金の瞳を閉じる。すると、次々に自分もと寄って来る竜たちに再び囲まれるのだった。


「戻った。変わりはないか?」
ジルヴァーノが事務所に戻って来た。数人の竜騎士たちがニコニコしながら言った。
「今、竜舎に姫様がおられますよ」
「アリアンナ様が?」

ジルヴァーノが竜舎に行くと、楽しそうに竜たちを撫でているアリアンナが目に入った。竜たちも心なしかリラックスしているように見える。
『何度見ても不思議だ』
ジルヴァーノは、竜たちに懐かれているアリアンナを見つめた。
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