笑い方を忘れた令嬢

Blue

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再会

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 アリアンナが王城に移ってから3日後。やっと目を覚ましたアリアンナの視界に入ったのは国王と王妃だった。
「ここ、は?」
喉がカラカラに乾いているのだろう。声が掠れて上手く言葉が紡げないアリアンナに、王妃が水を飲ませてやる。

「ありがとう、マッシマ伯母様」
喉が潤い、鈴の音のような美しい声が王妃を呼んだ。
「いいの、いいのよ……ごめんなさいね、アリアンナ」
声を聞いた途端、嗚咽が漏れる王妃。

「気分はどうだ?」
国王がアリアンナに声を掛ける。
「ダニエレ伯父様……助けに来てくれたのね……」
その言葉に、国王は泣いた。アリアンナの手を両手で覆う。

「すまなかった、アリアンナ。もっと早く助けに行くはずだったのに……私が病で倒れてしまったばかりに。ダヴィデからくれぐれも頼むと言われていたのに……」
国王の手を中からキュッと握り返すアリアンナに、国王は目を見開き彼女を見つめた。

「ダニエレ伯父様はもう大丈夫なの?」
屋敷で見た時は何も写していなかった真っ青な瞳が、国王をジッと見つめる。
「ああ、アンナ。私はすっかり元気だよ。今度はアンナが元気になる番だ」
それだけ言うと、国王は再び泣いた。

 ひとしきり泣いた後。
「さあさあ、お嬢様を湯あみさせませんと」
そう言って入って来た人物を見て、アリアンナは真っ青な瞳が零れ落ちるのではと思う程、大きく目を見開いた。
「サマンサ?」
にこやかな笑みを浮かべ立っていたのは、屋敷を追い出されたはずの乳母だった。

「王太子殿下に拾っていただいたのですよ。ベリシアも浴室で待ちかねておりますよ」
国王と王妃を見ると、優しく笑んでいた。
「これからはまた、アンナの侍女だ。家令だったトマスも、料理長だったノーランドも、私が推薦状を書いて王城からすぐの公爵家で働いているよ」

「……ありがとう、ダニエレ伯父様。とっても嬉しい」
ここで自分の違和感に気付いたアリアンナ。部屋にいる皆も感じた。ほんの一瞬、まるで時が止まったように皆の動きが止まる。

「……とにかく、湯あみをしてさっぱりするといい。話はそれからにしよう」
国王の声に、止まっていた時間が動き出した。

「ベリシア」
湯あみの準備をしていたベリシアにアリアンナが声を掛けると、勢いよく顔を上げたベリシア。涙を浮かべながら微笑んでいた。

「二人は今までどうしていたの?」
今が無事なのだから、あまり深刻な声で聞いてはいけないと、アリアンナは努めて明るい声で聞く。

「私とトマスとノーランドは、勤務年月が長かったので貯えが結構ありまして。ベリシアを連れて王都の外れに家を借りて、皆で一緒に住んでいたのです。王城へ助けを求めに参ろうかと思ったのですが、私たちには常に監視の目がありまして身動きが取れずにオロオロするばかりで……本当はお嬢様も一緒にお連れしたかったのですが、それも叶わず……それでも、万が一を考えると遠くに行く事が出来ず。すぐにでもお助け出来ればと待機しておりました」

「皆……」
皆の優しさに涙が溢れた。私は自分が思っている以上に幸せ者だったらしい。

「王太子殿下が直々に訪ねていらっしゃった時には、腰が抜けてしまうくらい驚いてしまいましたけれどね」
「あら、ベリシアは現に腰が抜けていましたよ」

「殿下の護衛として同行していらした騎士様が、トマスとノーランドを、殿下が私とベリシアを連れて戻ったのです。そのままトマスたちは騎士様のお屋敷で働く事になったのですよ」
そう言ってサマンサが私の肌着を脱がせた。二人がピキリと固まってしまう。

「お嬢様……」
背中に残っている醜い傷を見たベリシアとサマンサが涙を流した。

「ごめんなさい。醜いでしょ」
何度も鞭で打たれ流血してしまった部分は、ミミズが数匹這っているような引き攣れた傷が出来ている。

「そんな訳はございません!お嬢様が一生懸命戦った証でございますもの」
泣きながら優しく洗い上げてくれる二人に嬉しくなる。
「そんな風に言ってもらえるなんて……」
その時再び、先程感じた違和感がアリアンナの中で頭をもたげた。
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