上 下
18 / 25

マリーア・パルマーロ

しおりを挟む
 令嬢はパタパタと私の前に走り寄る。
「あの、私、トンマーゾ様とお付き合いさせてもらっています、マリーア・パルマーロと申します。あのトンマーゾ様から話を聞いて、是非一言お礼を言いたいと思って待っていたんです」

彼女の驚きの行動に、周囲が水を打ったように静まった。仮にも王族の次に位の高い公爵家の令嬢に対して、いきなりの名前呼び。しかも許されてもいないのに勝手にしゃべり出す。おまけに内容は、こんな往来の場で言うべきではない内容。誰もが私と彼女を、そして隣にいるアダルベルト殿下を凝視していた。

「あの、パルマーロ様でしたかしら?あなたと私は初対面ですわよね」
「あ、はい。そうですね、初めましてですね」
にっこり微笑んでいる。そう言う事ではないのだが。

「ええっと、何故いきなり私を名前で呼んでいらっしゃるのかしら?」
「え?ああ、トンマーゾ様がいつもあなたの事をサーラって呼んでいるので」
……子爵というとのは、こういうものなのか?私がおかしいのか?ちょっと理解が追い付かない。

「君さ。貴族の常識は知っているのかい?」
理解が追い付かない私に代わって、アダルベルト殿下が彼女に聞いた。
「常識、ですか?」
「そう。ここは学園だから、あんまりうるさくは言わないよ。でもね、初対面なのだし王族に次ぐ、高位の貴族令嬢に対しての礼儀はわきまえないと」

「礼儀?」
「そうだよ。周りを見てわからない?君がとんでもなく無礼を働いているって」
彼女がキョロキョロと周囲を見る。皆、眉間にしわを寄せたような顔で彼女を見ている。

「何がダメなんです?私、ちゃんと挨拶したし。ただお礼を言いたくて来ただけなのに」
この方は貴族のマナーを全く知らないようだ。

「あのね」
尚も言い募ろうとする殿下の腕にそっと触れる。
「サーラ?」
「もういいですわ。話が進みませんし」
「君がそう言うなら……」
不服そうに口を尖らせる殿下に思わず笑ってしまった。

視線を彼女に戻すと、彼女は私を見てはいなかった。殿下を熱っぽい目で見ていた。それを無視して話しかける。
「それで?お礼とはなんでしょうか?」

「え?ああ。トンマーゾ様から聞きました。グリマルディ公爵家で養女にしてくれるって」
トンマーゾはまだ確定していない話を、この方に話したようだ。余計な期待をさせて可哀想に。

「そのお話でしたら、父上に預けましたわ」
「わぁ、では私はグリマルディ公爵令嬢になれるのですね」
ペリドットの瞳をキラキラさせている。

「そうなると、私が公爵令嬢になったら、アダルベルト様とも結婚出来るって事ですか?」
「公爵令嬢ならば、家格的にはなんの問題もありませんわね」
私の腰を抱いていた殿下の手の力が強まった。

殿下を見れば、声を出さずに『こらっ』と言われる。
「わぁ、そうなんだ。アダルベルト様、聞きました?私たち結婚出来るんですよ」
「へぇ、私は絶対にお断りだけれどね」
物凄い笑顔で断っている。

「あれれ、もしかして照れちゃってます?可愛い」
もの凄い嫌な顔になった殿下。

「いつから私は公爵令嬢になるんですか?」
本当になれると思っている?もしそうならば、ある意味大物だ。

「それは私ではなく、いずれ父の方から話があると思いますよ」
これ以上は面倒なのでそれだけ言って、とっととこの場を去る事にした。一緒に歩き出した殿下がクックと笑う。

「彼女、もの凄い図太い神経を持っているようだね。私にシフトチェンジしようとしていたのも含めて」
「殿下ったら、すごいお顔になっていましたよ」

「そりゃなるでしょ。それにしてもサーラったら意地悪だなあ。あれは本当に公爵家の人間になれると信じているよ」
「私はお父様に預けたと言っただけです」

「数日間の甘い夢だね」
殿下の言葉に、二人でほくそ笑んでしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。 そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。 しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。 また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。 一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。 ※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

今さら戻ってこいと言われても、私なら幸せに暮らしてますのでお構いなく

日々埋没。
恋愛
 伯爵家の令嬢であるエリシュは周囲の人間から愛されて育ってきた。  そんな幸せなエリシュの人生が一変したのは、森で倒れていたとある少女を伯爵家の養子として迎え入れたことが発端だった。  そこからエリシュの地獄の日々が始まる。  人形のように愛くるしい義妹によって家族や使用人たちがエリシュの手から離れていった。  更には見にくい嫉妬心から義妹に嫌がらせしているという根も葉もない噂を流され、孤立無援となったエリシュに残された最後の希望は婚約者との結婚だけだった。  だがその希望すら嘲笑うかのように義妹の手によってあっさりとエリシュは婚約者まで奪われて婚約破棄をされ、激怒した父親からも勘当されてしまう。  平民落ちとなったエリシュは新たな人生を歩み始める。

処理中です...