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王子の目が覚めました
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母上がぺたんと座り込んでしまう。俺も動機が激しくなっていく。
「前回は飲み物に混ぜたから平気だったんだろう。でも今回はこんなに部屋中に充満ししてしまっているもんね。なるべく吸わないように気を付けてはいても、全く吸わないなんて出来ないからね」
「くそっ」
頭がボーっとしてくる。
「さて、国王にこの薬を使ったのは今回で何回目?」
「ええっと」
母上は薬がすっかり効いているようで、指折り数えている。
「三回目」
得意げに指を三本立てて言う。
「え?二回目ですよ、母上」
俺が否定すると
「違うわ。三回目よ」
クスクス笑っている。
「じゃあ、最初に使ったのはいつか教えて」
兄上が言う。
「ふふ、いつかははっきり覚えていないけど、側妃を決める時に使ったわ。テスタ侯爵が、薬で朦朧とさせて既成事実を作ってしまえってくれたの」
「へえ、そうなんだ。どうしてテスタ侯爵は、あなただけにその薬をくれたの?」
「だって私、テスタ侯爵の愛人だったんだもの。国王の愛人になったらもっと贅沢が出来るよって送り出してくれたの。薬のお陰で上手くいったわ。だけど、どうしてかすぐに離宮に入れられたの。せっかく息子生んだのに」
俺の知らない事実が次々と出てくる。
母上は父上に見初められたと言っていた。離宮から出ないのも、正妃に申し訳ないからと言っていたではないか。
「テスタ侯爵はあなたを側妃にする理由、何か言っていなかった?」
「理由?ええっと、なんだったかしら?あ、薬を上の貴族の人にも体験させてあげたいんだって言ってたわ」
「なるほど」
「この麻薬が流行ったのは下位の貴族止まりです。寵愛が続かなかったから上手く浸透しなかったんでしょう」
控室から宰相始め、ジルベルト、ライモンド、騎士団長に副団長二人が次々に出てきた。
「じゃあ、この書類は誰が用意したの?テスタ侯爵は亡くなってしまったよね」
「今のテスタ侯爵よ。あの人も私を愛人にしていたの」
「君はテスタ家の親子を相手にしていたの?」
「そうよ」
「気持ち悪い」
ライモンドが眉間にしわを寄せる。
「へえ、あの大人しそうな男がねえ」
「この女、アバズレ過ぎて笑えるわ」
団長とジャン副団長が呆れた顔で言う。
「じゃあ、もしかしてアンジェリーナと結婚すれば王になれるって教えたのは現テスタ侯爵?」
「そうよ。そうすれば、私はまた王城で贅沢に暮らせるよって」
「他に何か言ってなかった?例えばまた薬を売るとか」
「ええっと……あ、カッシオが無事にアンジェリーナと結婚したら、私にも味見させてほしいって言っていたわ。それはカッシオに聞かないと分からないわって答えたけど」
「何だと!?」
ルドルフォ副団長が怒気を含んだ声で言った。
「お前、アンジェリーナを何だと思ってるんだ!」
ジルベルトとライモンドも怒り露わに母上に詰め寄る。
「そんなこと言われても、私が言ったわけじゃないし」
薬のせいで、あの三人の怒りに触れても平気な顔をしている母上。
「おい」
地の底を這うような声が聞こえた。しかも俺に向かって。恐る恐る見上げると宰相だった。鬼のような形相で俺を見下ろしている。
そしていきなり胸倉を掴んできた。
「テスタ侯爵は今、どこにいる?」
声だけで人を殺せそうな程の覇気を放ちながら聞いてくる。
「し、知らない。書類をくれた後は何処かへ去って行った。侯爵の家とは逆の方へ向かったのだけは見たが、何処へ行ったかは知らない」
「ドルフ!!屋敷へ行け!アンジーが危ない!!」
その声に弾かれたように向きを変え、ルドルフォ副団長が物凄い勢いで走り去って行った。
「ジル、俺と来い!テスタ侯爵家に行くぞ!」
「はい!」
「殿下、ここは頼みました」
「わかっている。急げ」
「はっ」
そのまま二人はルドルフォ副団長に負けない程の速さでこの場を後にした。
「と、いう事で君たちは牢獄行きが決定しました」
パチパチと拍手をしながら言う。
「なあ、私はお前の母親はともかく、お前の事は兄と分け隔てなく愛してきたつもりだ」
膝をついたまま動けない俺の傍に来て言う父上。
「一体何が、そなたをそんな卑屈な人間にさせたのだ?」
「俺は……俺は兄上が嫌いだった。同じ父上の血を引いているのに、俺は何をやってもダメなのに対して、兄上はなんでも上手くこなした。年を重ねるごとにそれが顕著になってイライラした。母上のことだって、母上はずっと父上の寵愛を受け続けて王妃様に申し訳ないから、自ら進んで離宮に籠ってるって聞いていて……母上が可哀想だって。なのに、それが全部嘘だったなんて……」
「カッシオったら、あの話信じてたの?うふふ、おバカさんねえ。ああ、もういいわ。ここで贅沢したかったけど、無理そうだからテスタ侯爵の所に行く。だからそこどいてくれるかしら?」
扉の前にいる副団長に言う母上。
「おバカさんなのはどっちかしら?どこにも行かせるわけないわよねえ。あなたが行くのは地下牢よ」
「えええ。そんなの嫌よ。どいてくれないんだったらどかしてもらうわ。皆、何とかして頂戴」
母上が言うと、窓の外から影たちが入ってきた。護衛騎士も来て、数ではこちらが上回る。
「うふふ、もう皆邪魔だからいらないわ」
「前回は飲み物に混ぜたから平気だったんだろう。でも今回はこんなに部屋中に充満ししてしまっているもんね。なるべく吸わないように気を付けてはいても、全く吸わないなんて出来ないからね」
「くそっ」
頭がボーっとしてくる。
「さて、国王にこの薬を使ったのは今回で何回目?」
「ええっと」
母上は薬がすっかり効いているようで、指折り数えている。
「三回目」
得意げに指を三本立てて言う。
「え?二回目ですよ、母上」
俺が否定すると
「違うわ。三回目よ」
クスクス笑っている。
「じゃあ、最初に使ったのはいつか教えて」
兄上が言う。
「ふふ、いつかははっきり覚えていないけど、側妃を決める時に使ったわ。テスタ侯爵が、薬で朦朧とさせて既成事実を作ってしまえってくれたの」
「へえ、そうなんだ。どうしてテスタ侯爵は、あなただけにその薬をくれたの?」
「だって私、テスタ侯爵の愛人だったんだもの。国王の愛人になったらもっと贅沢が出来るよって送り出してくれたの。薬のお陰で上手くいったわ。だけど、どうしてかすぐに離宮に入れられたの。せっかく息子生んだのに」
俺の知らない事実が次々と出てくる。
母上は父上に見初められたと言っていた。離宮から出ないのも、正妃に申し訳ないからと言っていたではないか。
「テスタ侯爵はあなたを側妃にする理由、何か言っていなかった?」
「理由?ええっと、なんだったかしら?あ、薬を上の貴族の人にも体験させてあげたいんだって言ってたわ」
「なるほど」
「この麻薬が流行ったのは下位の貴族止まりです。寵愛が続かなかったから上手く浸透しなかったんでしょう」
控室から宰相始め、ジルベルト、ライモンド、騎士団長に副団長二人が次々に出てきた。
「じゃあ、この書類は誰が用意したの?テスタ侯爵は亡くなってしまったよね」
「今のテスタ侯爵よ。あの人も私を愛人にしていたの」
「君はテスタ家の親子を相手にしていたの?」
「そうよ」
「気持ち悪い」
ライモンドが眉間にしわを寄せる。
「へえ、あの大人しそうな男がねえ」
「この女、アバズレ過ぎて笑えるわ」
団長とジャン副団長が呆れた顔で言う。
「じゃあ、もしかしてアンジェリーナと結婚すれば王になれるって教えたのは現テスタ侯爵?」
「そうよ。そうすれば、私はまた王城で贅沢に暮らせるよって」
「他に何か言ってなかった?例えばまた薬を売るとか」
「ええっと……あ、カッシオが無事にアンジェリーナと結婚したら、私にも味見させてほしいって言っていたわ。それはカッシオに聞かないと分からないわって答えたけど」
「何だと!?」
ルドルフォ副団長が怒気を含んだ声で言った。
「お前、アンジェリーナを何だと思ってるんだ!」
ジルベルトとライモンドも怒り露わに母上に詰め寄る。
「そんなこと言われても、私が言ったわけじゃないし」
薬のせいで、あの三人の怒りに触れても平気な顔をしている母上。
「おい」
地の底を這うような声が聞こえた。しかも俺に向かって。恐る恐る見上げると宰相だった。鬼のような形相で俺を見下ろしている。
そしていきなり胸倉を掴んできた。
「テスタ侯爵は今、どこにいる?」
声だけで人を殺せそうな程の覇気を放ちながら聞いてくる。
「し、知らない。書類をくれた後は何処かへ去って行った。侯爵の家とは逆の方へ向かったのだけは見たが、何処へ行ったかは知らない」
「ドルフ!!屋敷へ行け!アンジーが危ない!!」
その声に弾かれたように向きを変え、ルドルフォ副団長が物凄い勢いで走り去って行った。
「ジル、俺と来い!テスタ侯爵家に行くぞ!」
「はい!」
「殿下、ここは頼みました」
「わかっている。急げ」
「はっ」
そのまま二人はルドルフォ副団長に負けない程の速さでこの場を後にした。
「と、いう事で君たちは牢獄行きが決定しました」
パチパチと拍手をしながら言う。
「なあ、私はお前の母親はともかく、お前の事は兄と分け隔てなく愛してきたつもりだ」
膝をついたまま動けない俺の傍に来て言う父上。
「一体何が、そなたをそんな卑屈な人間にさせたのだ?」
「俺は……俺は兄上が嫌いだった。同じ父上の血を引いているのに、俺は何をやってもダメなのに対して、兄上はなんでも上手くこなした。年を重ねるごとにそれが顕著になってイライラした。母上のことだって、母上はずっと父上の寵愛を受け続けて王妃様に申し訳ないから、自ら進んで離宮に籠ってるって聞いていて……母上が可哀想だって。なのに、それが全部嘘だったなんて……」
「カッシオったら、あの話信じてたの?うふふ、おバカさんねえ。ああ、もういいわ。ここで贅沢したかったけど、無理そうだからテスタ侯爵の所に行く。だからそこどいてくれるかしら?」
扉の前にいる副団長に言う母上。
「おバカさんなのはどっちかしら?どこにも行かせるわけないわよねえ。あなたが行くのは地下牢よ」
「えええ。そんなの嫌よ。どいてくれないんだったらどかしてもらうわ。皆、何とかして頂戴」
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