上 下
26 / 27

3年後

しおりを挟む
 これ以上ないくらいに晴れ渡った空。王城の中心にある大庭園にて。
「快晴ですね」
「ああ、若いパワーが集まって雲まで蹴散らしたな」
「昨日まではどんよりしてましたもんね」
国王と宰相がニコニコと少し離れた席に座っている。

大きなこの庭園に、所狭しと並べられた円卓。少し離れた場所にはそれぞれの親族が。近い場所には友人たちが主役たちの登場を今か今かと待っている。

「おーい、まだ終わらないのかい?」
新婦の控室をノックするが出て来ない。
「もう少し、もう少し待って。もう少し堪能させて」

「ああ、そう。でも早くしないと、皆待ってると思うよ」
「わかってる。あと少しだけ」

「こりゃダメそうだな」
様子を見にもう一人やって来た。
「一生に一度のウェディングドレスだからだそうだよ。彼女はもう1回着るのにね」

「今日と、次ではデザインが違うからな」
「そんな余裕な顔してないで、なんとかしてくださいよ。お宅の嫁のせいですよ、これ」
「ホント、それな。俺たちも自分の嫁のドレス姿、堪能したいのにな」

「はは、今堪能しておかないと終わった後じゃ無理だしな」
「エッチ」
「うるさい。そんな風に言うならこのままにしておくが?」

「ごめんなさい。なんとかしてください」
「早く見たい、俺の嫁」
ソワソワしっぱなしの二人を笑いながら、彼は扉をノックした。

「アリー。早く出ておいで。俺にアリーのドレス姿見せてくれないか?」
「あ、はい。すぐに」

ほんの少し待てば、中から三人の花嫁が出てきた。
「やっぱりアリーのウェディングドレス姿は女神様のようよ。お披露目なんてやめて、ずっとランザと見続けていたかったわ」

そう言いながら出てきたのはフランカ・チェルコーネ。エンパイアラインのドレスで、スカートの部分は光沢のある生地。上半身は全てがレース仕上げになっている。ウェストマークにリボンが前に付いていて可愛らしい。

髪は緩くアップにしており、後ろにはたくさんの白い花々が飾られ、そこから程よい長さのベールが下がっている。

「本当に。この姿のまま額に入れて飾っておきたい」
そう言うランザ・ボルゲーゼは、同じくエンパイアドレスで左サイドに花の形のようなレースが縦に一列並んでいた。

髪は緩く編み込みをしてサイドに流し、至る所に白い小花が飾られていた。

「ふふ、褒めてもらえて嬉しいわ。このドレスはお母様とアン姉様が作ってくれた物なの。」
スレンダーラインのドレス。前スカートに切り返しがあり、その一部分がサファイアブルーになっている。後ろの裾は長くなっており、腰からスリーブ状のレースが裾にかけて広がっている。

髪は緩いアップスタイル。サイドに大きな花の飾りがあしらわれている。シンプルだが、長身で小顔の彼女にはとても似合っていた。

待ち焦がれていたはずの三人の男たちは、ピクリともせず固まっている。
「あら?皆、どうしたの?」
アリアンナが覗き込むようにしてゲイブリエルを見た。途端に左手で顔の半分を覆い、上を向くゲイブリエル。

他の二人も似たような反応で、口がきけない。
「ガビー?」
再び呼び掛けると、大きく息を吐いたゲイブリエルはそのままアリアンナを抱きしめた。

「駄目だ。これは見せられない。他の奴になんか見せたら勿体ない」
「その意見に賛成。こんな可愛いフラン。他の男たちになんて見せたくない」
「ああ、誰にも見せずにこのまま連れて帰ろう」
暴走し出した男たちの上から声が降ってきた。

「クソ坊主ども、何をアホな事言っとるんじゃ。はよせんか」
見上げればそこには神がいた。
「おじいちゃま?どうしたの?」
「おお、アリアンナ、おまえたちの祝福に来たんじゃ。それにしても美しいのう。ワシがあと500歳くらい若ければ、坊主なんぞにやらなかったのにのう」

「500歳くらいでは足りないでしょうに」
「なんじゃと?」
「いいえ」

「地獄耳だよな」
「聞こえとるぞ」
「こんな小声でも聞こえるって、怖すぎますね」
神と三人の大人の男たちが子供の喧嘩のように、わちゃわちゃと言い合いを始めた。

「ちょっと、いい加減に私のアリーを早く見せなさい!」
そこへ小さな男の子を抱いた、アリアンナの姉のアントネッラがやって来た。
「げっ、アン姉様」
「ふふふ、デュランちゃん。げって何かしら?」

「さ、さあ、皆が待っているから行こうか?」
デュランがとっととフランを連れて、会場へ向かおうとする。
「ふうん。姉様を無視するのね。随分と偉くなったものねぇ」
女性なのに地を這うような声が出せるアントネッラにデュランの身体が震えた。

「ふふ、もうアン姉様、兄様をいじめないで。フランの方が怖がってしまうわ」
「私は全然。アリーのお姉様カッコいい!」
「あら、いい子ね。まあ、話はまた後でゆっくりとね。まずは早く、皆様にあなたたちの美しい姿を見せてらっしゃい」

アントネッラに促されて、3組の花嫁、花婿たちはやっと大庭園に姿を現した。

 皆に見守られながら、本物の神に祝福されるゲイブリエルたち。

「これでやっと、本当に俺のアリーになったんだな」
「はい。ガビーも、私のガビーになったのね」
「ああ、これからもきっと、たくさんの試練があると思う。でもこれからは、アリーと一緒に乗り越えられる」
「はい、ずっと一緒です。病める時も健やかなる時も、ね」
「アリー、愛している」
「私も、ずっと愛しています」

二人は誓いのキスを交わしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

悪役令嬢だと噂されている私は、父の優しさに包まれて

mkrn
恋愛
数々のご令嬢達に悪役令嬢だと噂されていますがーー。

愛する皇帝陛下にトドメを刺された皇后、こうなりゃヤケだと理想の皇后を目指す。

下菊みこと
恋愛
人をかなり選ぶお話。なんで健気な皇后を書こうとしてこんなバッドエンドになったのか自分でもわからない。多分読後感半端ないほどキツい。 皇后マルジョレーヌは愛する皇帝オクタヴィアンが皇妃を迎えると知って抗議に行く。しかしオクタヴィアンの言葉でトドメを刺され、ならばせめてと理想の皇后を目指すことにした。 小説家になろう様でも投稿しています。 IFルートは無理矢理ハッピーエンドにした蛇足なので読みたい方だけお願いします。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずき りり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

自分を裏切った聖女の姉を再び愛する王にはもう呆れたので、私は国を去る事にします。

coco
恋愛
自分を裏切り他の男に走った姉を、再び迎え入れた王。 代わりに、私を邪魔者扱いし捨てようとして来て…? そうなる前に、私は自らこの国を去ります─。

殿下、もう終わったので心配いりません。

鴨南蛮そば
恋愛
殿下、許しますからもうお気になさらずに。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

処理中です...