上 下
5 / 27

デュラン・チェルコーネ1

しおりを挟む
「やっちまったな、あのクズ王子」
「エルマンノ、口が悪い」
私が窘めると今度はゲイブリエル殿下が笑いながら
「俺だって罵りたい。これで王位継承権の返上が出来なくなってしまった」

国王の一人息子であるダヴィデ殿下が、王立学園に入学したのはいいが、あろうことかDクラスなどという王族始まって以来のアホ王子であると露呈してしまった。

小さい頃から片鱗は見せていた。勉強というものを全てやらずに逃げ続け、剣術の稽古も馬術の稽古もせず遊び惚けていたのだから、Dクラスも当然の結果だ。

初めのうちは城の者皆で、なんとかしようと頑張ってはみたが、如何せん本人に全くヤル気が見られず諦めた。国王自身が早々に諦め、自分の弟であるゲイブリエル殿下に王位を継がせたいと言っていたほどだ。

大きく年の離れた弟を国王は、目の中に入れても痛くないと言い切れるほどに可愛がっていた。ゲイブリエル殿下自身、努力は惜しまない質であったため気が付けば、全てにおいて完璧な王弟が出来上がった。

だが本人は、ダヴィデ殿下がまだ小さいうちから、自分は継承権を返上して公爵となり、外から王家を支えていきたいと常々言っていたので、国王も学園を卒業と同時に継承権返上を認めると約束していた。

しかし、次の王となるダヴィデ殿下の成績がDクラスであれば、その約束は反故されるだろう。正直、臣下である我々も国民もそれを望んでいる。

いくら素晴らしい婚約者をダヴィデ殿下につけようが、本人に改心する気持ちがなければ無理なのだから。私としてもアリーは可愛い従妹なので、幸せな未来を築いてもらいたいと思っているし。

「私としてはこの結果は非常に喜ばしい事なので」
学園内にある王族専用の応接室で、任されている書類を項目ごとに分けながら淡々と言えば、ゲイブリエル殿下の表情が変わった。

「アリーか」
名前を口にするだけで蕩けるような顔をしていると、きっと本人は気付いていないのだろう。エルマンノと目が合い苦笑する。

「アリーはダヴィデ殿下との結婚を望んでいませんからね。私としても可愛い従妹が、あんなアホ王子の毒牙にかかるなんて考えたくもないですし。今回のDクラスは婚約を白紙にするいい材料の一つになります」
ニヤリとすれば悪い顔だとエルマンノに笑われた。

「あー、アリーは元気にしているか?」
照れたような顔で聞いてくるゲイブリエル殿下。普段はたくさんの令嬢たちを軽くあしらうこの男が、アリーとなると途端に純情少年のようになるんだから面白い。

「2週間くらい会っていないのでなんとも。入学しているのですから様子を見に行ったらどうですか?今頃は教室にいるんじゃないですか?」
自分の甥の婚約者であるアリーに、そう簡単に会いに行くのはよくないだろうときっと思っているんだろう。

「アリーもきっと喜ぶと思いますよ」
押しの一言でゲイブリエル殿下の表情がパッと華やいだ。

「そうか……少しだけその、会いに行ってみようか」

 結局、あの後書類の中に急ぎのものがあったので、アリーの所に行く事は叶わなかったゲイブリエル殿下は、盛大な溜息を何度も吐いていた。

 翌日、流石にしょぼくれた顔のゲイブリエル殿下が気の毒になり、アリーに連絡を取って昼食を共にする約束をした。

食堂に着くとすでに友人二人を伴ったアリーがいた。
「アリー、こっちだよ」
声を掛ければこちらに気付いたアリーが微笑んだ。途端に周りの男達の視線が彼女に釘付けになったのがわかった。

気付いたのは私だけではないようで、ゲイブリエル殿下がそそくさとアリーの元へ行った。そっと彼女の手を取りエスコートしている。二人が並ぶと、本来はこの二人が婚約者同士だった方がしっくり来るのにと思ってしまうのは仕方がない。

それくらいお似合いの二人だった。二人は互いに見つめ合う。その姿は、こちらが苦しくなるくらい切ない眼差しだった。

「デュラン兄様、お誘いありがとうございます」
私の前まで来たアリーは、可愛らしい笑顔で私に礼を言った。本当に、この子が本物の妹でないのが残念で仕方がない。

「こちらこそ、急だったのにありがとう。これから一緒の学園生活を送れるなんて嬉しいよ」
頭を撫で、美しいプラチナブロンドの髪を梳いてやれば目を閉じて受け入れる。

「おーい。こっちだ」
声のする方を振り返れば、エルマンノがしっかり席を取って置いてくれていた。
「さ、食事にしよう。自己紹介はそれからだ」
アリーの連れて来た令嬢たちに向けて笑顔で言えば、そうですねと二人とも素直についてきてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

悪役令嬢だと噂されている私は、父の優しさに包まれて

mkrn
恋愛
数々のご令嬢達に悪役令嬢だと噂されていますがーー。

愛する皇帝陛下にトドメを刺された皇后、こうなりゃヤケだと理想の皇后を目指す。

下菊みこと
恋愛
人をかなり選ぶお話。なんで健気な皇后を書こうとしてこんなバッドエンドになったのか自分でもわからない。多分読後感半端ないほどキツい。 皇后マルジョレーヌは愛する皇帝オクタヴィアンが皇妃を迎えると知って抗議に行く。しかしオクタヴィアンの言葉でトドメを刺され、ならばせめてと理想の皇后を目指すことにした。 小説家になろう様でも投稿しています。 IFルートは無理矢理ハッピーエンドにした蛇足なので読みたい方だけお願いします。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずき りり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

自分を裏切った聖女の姉を再び愛する王にはもう呆れたので、私は国を去る事にします。

coco
恋愛
自分を裏切り他の男に走った姉を、再び迎え入れた王。 代わりに、私を邪魔者扱いし捨てようとして来て…? そうなる前に、私は自らこの国を去ります─。

殿下、もう終わったので心配いりません。

鴨南蛮そば
恋愛
殿下、許しますからもうお気になさらずに。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

処理中です...