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アネリの楽しみ

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 ある日の昼。私は学院の屋上でサンドイッチを食べながら日向ぼっこをしていた。夜襲以来、特に何もなく平和に過ごしている。屋上には可愛らしい、パステルカラーの花々が咲き誇っている。もうすっかり春だ。
「クー、気持ち良いね」
『うん。とっても』
元気一杯のクーは、花の周りを飛び回る蝶々を追いかけて遊んでいる。
「あー、このままここでお昼寝したいなぁ」
そう言いながら大きく伸びをした、私の背後でクッと笑う人がいた。アルノルド王子だ。

「寝てもいいぞ。私が起こしてやろう」
笑みを浮かべながら、私の隣に腰をかけた王子は自分の膝をポンポンと叩いた。
「ほら、足を枕に使え」
眩し過ぎる笑顔を私に向け尚も膝をたたき続けている。いやいや、無理だからね。
「そんな、ルド様の足を枕になんて、畏れ多くて出来ませんわ」
私が断ると「そんな事、気にせずともいいのに」と言いながら、今度は自分の肩を叩く。
「こちらならどうだ?」
どうやら肩に頭を寄りかからせろという事のようだ。どうしても私を寝かせたいようだ。そんな彼を見ていると、何だかおかしくなってきてしまう。
「ルド様は、どうしても私を寝かせたいのですか?」
クスクスと笑いながら聞けば、王子の目の下がほんのりと色づいた。
「いや……寝たいと言っていたから」
「ふふ、ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきますね。ルド様とお話ししたお陰で眠気は覚めました」
照れている表情が可愛らしく見えて、声を出して笑ってしまった。そんな私を見ても怒る事もなく、それどころか「そうか」と照れくさそうに答える姿がますます可愛く見えてしまう。蝶を追いかけて遊んでいたクーが王子に気付いて嬉しそうに走りながら寄って来た。王子は腕を伸ばしクーを抱き上げた。

「陽の光で輝いているな」
クーに話しかけている王子の髪こそ、陽の光でキラキラ輝いている。綺麗だと見惚れてしまう程だ。
「クーもルド様もキラキラです」
「え?」
王子が驚いた顔で私を見た。ん?あれ?もしかして心の声が漏れていた?
「あ、申し訳ありません、つい」
そう謝る私に首を振るアルノルド王子。
「いや、謝る事など何もない。そう思ってくれて……嬉しい」
はにかんだ笑みを浮かべた王子を見た私の心臓が、バクバクと変な鼓動を打ち出した。やっぱり私は病気かもしれない。胸にあるはずの心臓の音が、大きく鳴動し私の耳のそばで大音量で響いている。このまま死ぬかもしれないと思った私の手が、いつの間にかアルノルド王子の手の中にあった。

「リア……」
私の名を呼ぶ王子の声が甘く聞こえるのは気のせいだろうか。その心地良さに酔うように王子の目を見る。赤く煌めく瞳に中に吸い込まれてしまいたい、なんて思ってしまう私はやっぱり病気だろう。
「リア……私はリアの」
その時、バタンッ!と急に扉が開いた。
「殿下、そろそろ時間……」
入って来たのはミアノ様とパウル様だった。私たちの手が絡み合っているのを見た二人。
「あーーー!何二人でいい感じになってるんだ⁉︎」
「殿下。いくら殿下でも抜け駆けは許されないと私は思うのですが?」
二人がギャーギャー喚いているのを見たアルノルド王子は、小さく溜息を吐くと「行こうか?」と言って手はちゃっかり繋いだまま、教室へと戻った。私は手を繋がれたままでいる事に、少しだけくすぐったいような気持ちになったのだった。


週末。アネリがニコニコしながら私の身支度を整える。
「そろそろだと思うのです」
答えはわかっているけれどね、一応聞いてみる。
「何が?」
聞いて欲しかったんだね。よくぞ聞いてくれましたって顔になっているアネリが腰に手を当てながら言った。
「お嬢様が襲われる日です」
そんな勝ち誇ったようなポーズで言う事?どうしてそんなに嬉しそうなの?相手をボコボコに出来るから?それとも私が襲われるのが純粋に嬉しいから?そう心の中で連続突っ込みを入れていると、アネリが私を見て微笑んだ。
「楽しみですね」
怖っ。

家に戻る前に、いつものように街でお土産を選ぶ。今日はクーの要望にお応えして、ケーキを買った。
「潰れたらマズイですから。ちゃんとしまっておきませんと」
アネリは、私が魔法で作り出した空間にケーキをしまっていく。準備万端、意気軒昂だ。
「今日かどうかもわからないのに。そもそも私が襲われるかどうかすらわかってないんだからね」
そうぼやいていると、ふと、数人の視線を感じた。
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