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クーの本来の姿
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学院では、使役獣を一緒に連れてくる事が許されている。だからこそ、クーも皆から普通に受け入れられているのだ。まあ、クーは使役獣ではないけれど。なので、学院のあちらこちらで動物の姿を目撃する事が出来る。
そしてこれは私の持論だが、大した魔力も持っていない主人の使役獣と言うのは総じてマナーが悪い。
今、そんな使役獣が目の前にいる。大きな黒い犬のような小型の狼のような風体だ。
授業が急に休講になり、皆思い思いに過ごしていた。特に本の中の出来事とは関係ないので、私も教室を出てブラブラしていた。クーは少し前に、遊びに行くと言って外に出ていていない。そんな時だった。廊下を曲がるとど真ん中を涎を垂らし、威嚇しながら闊歩している使役獣に出くわしたのだ。授業中なだけあって人はそんなに通っていないが、それでも全く人がいない訳ではない。基本的に主人が傍にいる状態であれば、命令がない限り襲って来ることはない。しかし、主人の目が届かないところでは魔力が弱い主人の場合、使役獣を制御出来ないのだ。普通は目を離さず常に一緒にいるか、使役獣の本来の住処に戻しておくのだが、己を知らない主人の場合はこういう事が稀にある。
『タイミングが悪かったわね』
廊下を曲がった途端、向こうからやって来た黒い狼もどきと視線がかち合ってしまった。完全にあちらは私を襲う気満々だ。グルルルと唸り声を出し明らかにこちらに向かって来る姿に、周囲にいた数人の生徒から悲鳴が上がる。
『勘弁してよ』
悲鳴を聞いた狼もどきのテンションが上がったのを感じた。そして突然、悲鳴を上げた生徒の方へ方向を変えたのだ。唸って牙を剥き出した狼もどきが、いきなりその生徒に向かって飛びかかった。
「危ない!」
既に走り出していた私は、彼女に覆いかぶさる。私が噛まれたとしても、光魔法で治す事が出来るから大丈夫だ。そう思って牙が突き刺さる衝撃を待っていたが、一向に痛みがやって来ない。
不思議に思って振り返ると、美しい金色の大きな光が狼もどきを捕まえていた。
「何⁉︎」
光が眩しくて発している本人の姿がよく見えない。私は正体を見極めようとジッと見つめた。
「え?」
光を発しているのは、九尾に煌く尾を緩やかに振っている大きな狐だった。狼もどきの首元を咥えている。狼もどきはどうする事も出来ないようで、母猫に咥えられた子猫のようになすがままぶら下がっていた。
「クー?」
『間に合って良かった。リア、大丈夫?』
話し方は変わっていないけれど、声色は心に響くような美しい。神々しいまでの金色の光の正体はクーだったのだ。
「その姿は?」
『えへ、カッコイイ?これが本来の姿だよ。本当はもう少し大きいけどね』
「そうなんだ。うん、凄くカッコイイ」
私の素直な賛辞に嬉しそうに、九尾を振っている。何だろう。こんなに神々しいのに可愛い。
「クーのお陰で助かったわ、ありがとう」
『へへ、これくらいお安い御用だよ』
ああ、うちの子が頼もし過ぎる。
それからクーの事が、あっという間に学院中の噂になった。私以外にも生徒が数人いたので、彼らが話したのだろう。いつも以上に視線を感じる。最近、少し落ち着いて来たと思ったのに。皆の視線がチラチラと私たちを見ている。もしかしたらクーの九尾の姿を見たいのかもしれない。簡単に見せるわけないけれど。そして、我が家にもいつも以上に手紙がどっさりと届いた。魔力が高い上に、凄い使役獣を従えている私に対する求婚の手紙だった。まぁ、私は一切読む事なくお父様とお兄様が鬼の形相で、断りの手紙を書きなぐっていたけれど。
「ミケーリア嬢自身が強いのに、クーも凄いなんてもう最強なんじゃないか?」
話を聞いたらしいミアノ様が、授業で隣に座っていた私に笑いながら言う。
「ふふ、きっとミアノ様を簡単に負かしてしまいますわよ」
そう言って笑った私に、快活に笑ったミアノ様。
「だろうな。はは、やはりいいな。どうだ?私の妻にならないか?」
そしてこれは私の持論だが、大した魔力も持っていない主人の使役獣と言うのは総じてマナーが悪い。
今、そんな使役獣が目の前にいる。大きな黒い犬のような小型の狼のような風体だ。
授業が急に休講になり、皆思い思いに過ごしていた。特に本の中の出来事とは関係ないので、私も教室を出てブラブラしていた。クーは少し前に、遊びに行くと言って外に出ていていない。そんな時だった。廊下を曲がるとど真ん中を涎を垂らし、威嚇しながら闊歩している使役獣に出くわしたのだ。授業中なだけあって人はそんなに通っていないが、それでも全く人がいない訳ではない。基本的に主人が傍にいる状態であれば、命令がない限り襲って来ることはない。しかし、主人の目が届かないところでは魔力が弱い主人の場合、使役獣を制御出来ないのだ。普通は目を離さず常に一緒にいるか、使役獣の本来の住処に戻しておくのだが、己を知らない主人の場合はこういう事が稀にある。
『タイミングが悪かったわね』
廊下を曲がった途端、向こうからやって来た黒い狼もどきと視線がかち合ってしまった。完全にあちらは私を襲う気満々だ。グルルルと唸り声を出し明らかにこちらに向かって来る姿に、周囲にいた数人の生徒から悲鳴が上がる。
『勘弁してよ』
悲鳴を聞いた狼もどきのテンションが上がったのを感じた。そして突然、悲鳴を上げた生徒の方へ方向を変えたのだ。唸って牙を剥き出した狼もどきが、いきなりその生徒に向かって飛びかかった。
「危ない!」
既に走り出していた私は、彼女に覆いかぶさる。私が噛まれたとしても、光魔法で治す事が出来るから大丈夫だ。そう思って牙が突き刺さる衝撃を待っていたが、一向に痛みがやって来ない。
不思議に思って振り返ると、美しい金色の大きな光が狼もどきを捕まえていた。
「何⁉︎」
光が眩しくて発している本人の姿がよく見えない。私は正体を見極めようとジッと見つめた。
「え?」
光を発しているのは、九尾に煌く尾を緩やかに振っている大きな狐だった。狼もどきの首元を咥えている。狼もどきはどうする事も出来ないようで、母猫に咥えられた子猫のようになすがままぶら下がっていた。
「クー?」
『間に合って良かった。リア、大丈夫?』
話し方は変わっていないけれど、声色は心に響くような美しい。神々しいまでの金色の光の正体はクーだったのだ。
「その姿は?」
『えへ、カッコイイ?これが本来の姿だよ。本当はもう少し大きいけどね』
「そうなんだ。うん、凄くカッコイイ」
私の素直な賛辞に嬉しそうに、九尾を振っている。何だろう。こんなに神々しいのに可愛い。
「クーのお陰で助かったわ、ありがとう」
『へへ、これくらいお安い御用だよ』
ああ、うちの子が頼もし過ぎる。
それからクーの事が、あっという間に学院中の噂になった。私以外にも生徒が数人いたので、彼らが話したのだろう。いつも以上に視線を感じる。最近、少し落ち着いて来たと思ったのに。皆の視線がチラチラと私たちを見ている。もしかしたらクーの九尾の姿を見たいのかもしれない。簡単に見せるわけないけれど。そして、我が家にもいつも以上に手紙がどっさりと届いた。魔力が高い上に、凄い使役獣を従えている私に対する求婚の手紙だった。まぁ、私は一切読む事なくお父様とお兄様が鬼の形相で、断りの手紙を書きなぐっていたけれど。
「ミケーリア嬢自身が強いのに、クーも凄いなんてもう最強なんじゃないか?」
話を聞いたらしいミアノ様が、授業で隣に座っていた私に笑いながら言う。
「ふふ、きっとミアノ様を簡単に負かしてしまいますわよ」
そう言って笑った私に、快活に笑ったミアノ様。
「だろうな。はは、やはりいいな。どうだ?私の妻にならないか?」
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