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王子の誠意

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『なんなの!?その色気は?』
彼の真紅の瞳から目が離せない。ドキドキと心臓が早鐘のように鳴り出してしまう。私の動揺に気付いていないアルノルド王子は、色気全開の笑みを浮かべた。ああ、周辺でバタバタと音がする。きっと王子の色気に耐えきれなくなった女性たちだろう。
『どうすればいいの?手を引っこ抜く?』
彼の色気に目の前がクラクラする。多くを語らないアルノルド王子は、無言のまま嬉しそうに私を見つめていた。そして、掴んでいた私の手を握り直して手の甲に口づけをした。
『クー!私に魔力を流して』
『わかったぁ』
急な魔力の流れのお陰で、なんとか気を失う事は阻止出来た。
「リア……顔が赤い……可愛いな」
ノオォォォォォ!気を失う事は阻止出来ても、顔の熱はどうにもならなかったぁぁ。これ以上は止めて、死ぬ。私は慌てて彼の手から自分の手を引き抜いた。

「リアの表情が、こんなにコロコロ変わるなんて知らなかった。やはり悔やまれるな。もっと早くからあなたと過ごす時間を持てば良かった」
蕩けるような微笑みを見せながら、次々と攻撃してくる王子。
『ちょっと待ってくれない?まだ落ち着いてないから。猛攻撃を仕掛けて来ないで』
クラクラしながらも、なんとか呼吸を整える。
「ふう、ルド様。終わった事をどんなに悔いても、時間を戻す事は出来ませんわ」
このピンクな空気を消したくて、少し冷たい言い回しをしてしまう。だが、今のアルノルド王子に、私の攻撃は通用しなかった。王子は更に笑みを深めて言った。

「そうだな。これからたくさん作ればいい」

おぅふ……完敗です……


 王子との勝負に完敗した私が屋敷に戻ると、お父様とお兄様がエントランスに仁王立ちしていた。
「これはこれは殿下、今更リアの婚約者であると主張を始めましたか?」
あくまでニッコリと笑みを絶やさないお兄様。すっごい怖い。一方のお父様はウルウルした目でアルノルド王子を睨んでいた。
「私の天使に……まさか手を出したりはしていないでしょうね」
王子から遠ざけるように、私の手を引き覆うようにして抱き締めるお父様。
「リア、何もされてないかい?もし何かされたなら父様が殿下を粉々にしてあげるよ」
ウルウル、キュルルンの表情で、超怖い事言ってる。

王子の超絶凄まじい色気にあてられた事は死んでも言えない。
「大丈夫。何もされていないし、もし何かされたとしたら私が自分で制裁を加えるから。だからお父様もお兄様もそんなにルド様に敵意を剥き出しにしないで」

「ルド、様?」
その途端、お兄様のこめかみに怒りマークが浮かんだ。
「リア、いつから殿下の事を愛称で呼ぶようになったの?」
「えと……今日、から?」
えへへと笑ってみるが、怒りマークが増えただけだった。
「ふふふ。殿下?まさか殿下も?」
『そこは誤魔化して』
そんな私の願いは、まったくもって聞き入れられなかった。
「ああ、つい先程からだが」
ほんのりと頬を染めて照れ臭そうに言っている。空気を読め、と言いたい。お兄様の怒りマークが一気に5個くらいに増えた。

「ははは、すごい仲良しになったんだ」
魔力が……お兄様、魔力が膨らんでますからあ。

そんなお兄様を止めようともせず、アルノルド王子を睨み続けるお父様。どうしたらいいかわからずに、二人を交互に見ながらワタワタしていると、ガバリとアルノルド王子が頭を下げた。
「今まで本当に申し訳なかった。婚約者となったミケーリア嬢を、ずっと無視するような形を取ってしまった事、本当に申し訳なく思っている。稚拙な反発心からこのような振る舞いをした事、猛省している」
一国の王子、しかもゆくゆくは王となるであろうという人が、自身よりも下の者たちに深々と頭を下げたのだ。流石のお父様とお兄様も、これ以上何か言うような事は出来なかった。

「うちとしてはこのまま婚約の話そのものがなかった事になれば良いと思っています。リアが許したとしても私たちはそう簡単にはいきませんよ」
取り敢えず、すぐに粉々にする事はないようだ。

すっかり暗くなったからと話を終わらせ、途中まで三人でアルノルド王子を見送ろうとエントランスを出る。すると背後から「お待ちください」と声がかかった。
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