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楽しんでしまった
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声で誰だかわかってしまう自分に泣きたくなる。柔らかいテノールの声で、私に声を掛けて来たのはアルノルド王子だった。
「ミケーリア嬢も来ていたのか?」
後ろではミアノ様とパウル様が、私に向かって満面の笑みで手を振っていた。
『こうなるのかぁ』
もしかしてとは思っていたけれど、突きつけられた現実にガックリと肩を落とす。仕方なく手を振り返しながら「はい」と王子に返事をする。王子は周りを観察するようにキョロキョロした。
「一人で来たのか?護衛は付いていないのか?」
まあ、そうですよね。公爵家の令嬢が一人でなんてって思いますよねぇ……。心配そうな顔で私を見つめる王子に見えないように息を吐くと、私は微笑んでみせた。
「ええ、兄とシシリー嬢がいたのですが、シシリー嬢がはぐれかけてしまって。兄が彼女を追いかけて行ってしまったので、クーと楽しむ事にしたんです」
クーは輪を咥えたまま「キャン」と器用に鳴いてみせた。
「そうか……では、良かったら私たちと一緒に回らないか?」
やっぱりそうなる?もう溜息を吐きたくなる。どう断るか考えようとする間もなく、どういう訳かクーが嬉しそうに「キャン」と鳴いた。
「クー?」
『皆でこれやるの』
咥えている輪をプラプラさせてみせる。どうやら皆でゲームをしたいらしい。クーにそう言われてしまってはもう私には断る事は出来なかった。
「あの」
仕方なくアルノルド王子に返事をする。
「クーが皆さんとゲームをやりたいそうなので……よろしければお供させて下さい」
「クーが?」
すると返事をするように「キャンキャン」と大きく尻尾を振りながらクーが答えた。
「はは、じゃあ誰が一番点数を取るか勝負でもするか?」
ミアノ様が乗って来た。クーの尻尾が先程よりも大きく揺れる。どうやら賛成らしい。
「嬉しそうですね。どうやらクーも勝負をご所望のようですよ」
パウル様まで乗って来る。
「ははは、では勝負するか」
アルノルド王子の決めの一言で、三人と一匹の輪投げ勝負が始まった。
「お店のご主人、泣いていましたね」
大きなウサギのぬいぐるみを抱いたパウル様が、同情するような表情をして言った。
「はは、つい本気になってしまったからな」
ミアノ様は大きな熊のぬいぐるみと、キツネのぬいぐるみを抱えている。
「代金を多めに置いて来たから大丈夫だろう」
こちらは大きな獅子のぬいぐるみを抱えているアルノルド王子だ。イケメンたちが自分達の上半身以上の大きさのぬいぐるみを抱いているのって、傍から見たらどう見えるのだろう。
「皆さん、クー相手に本気になり過ぎですよ」
私はさっきから笑いが止まらない。クーが口に咥えた輪を、器用に10点の所に引っ掛けて行くのを見た三人の、目の色が変わった瞬間を見てしまったのだ。そこからは本気の男三人が、クーと同じように次々と10点に輪をかけて行く様を、店主と一緒に口を開けて見ている事しか出来なかった。
『すっごく楽しい!もっとやりたい』
「え?クー、まだやりたいの?」
「キャン!」
「ははは、では次はルーレットにしようか?」
ルーレットの出目で、もらえる景品が変わるらしい。またもや本気の勝負が始まる。
『子ぎつね相手に……男の人って単純』
あんなに嫌だった状況に陥っているはずなのに、すっかり楽しんでいる自分に驚いてしまう。
『でもまあ、本当に楽しいからいっかな』
こうして私とクーは、収穫祭を目一杯楽しんだのだった。
「今日は本当に楽しかったです。付き合って下さってありがとうございました」
「キャンキャン」
あれからもたくさん楽しんだ私たちは、三人に屋敷の前まで送ってもらった。
「私たちも久々に本気で楽しんだ。こちらこそありがとう」
「本当に。クー、また遊ぼうな」
「そうですね、クーとの勝負はまだ決着が着いていませんから」
三人ともニコニコしている。
『僕も楽しかったよ。学院でも一杯遊ぼうね』
「ふふ、クーも楽しかったそうです。学院でも遊ぼうって」
「ああ、そうだな」
そう言ったアルノルド王子が、クーの頭を優しく撫でた。ちょうど会話が終わる頃、家令とアネリが門扉まで迎えに来た。
「あ、そうだ。これ」
クーが景品でもらったキツネのぬいぐるみをミアノ様が渡してくれる。
「ついでにこれももらってくれないか?キツネだけじゃ寂しがるだろう」
そう言って自分がもらったクマのぬいぐるみもくれる。
「でも……」
「もらってくれ。屋敷に持って帰る方が恥ずかしいから」
確かに。ミアノ様がクマのぬいぐるみを持って「ただいま」って帰る姿は可笑しいかもしれない。
「ふ、ふふふ。ご家族の反応を見てみたい気はしますけれど」
想像したら面白くなってしまった。
「ミケーリア嬢も来ていたのか?」
後ろではミアノ様とパウル様が、私に向かって満面の笑みで手を振っていた。
『こうなるのかぁ』
もしかしてとは思っていたけれど、突きつけられた現実にガックリと肩を落とす。仕方なく手を振り返しながら「はい」と王子に返事をする。王子は周りを観察するようにキョロキョロした。
「一人で来たのか?護衛は付いていないのか?」
まあ、そうですよね。公爵家の令嬢が一人でなんてって思いますよねぇ……。心配そうな顔で私を見つめる王子に見えないように息を吐くと、私は微笑んでみせた。
「ええ、兄とシシリー嬢がいたのですが、シシリー嬢がはぐれかけてしまって。兄が彼女を追いかけて行ってしまったので、クーと楽しむ事にしたんです」
クーは輪を咥えたまま「キャン」と器用に鳴いてみせた。
「そうか……では、良かったら私たちと一緒に回らないか?」
やっぱりそうなる?もう溜息を吐きたくなる。どう断るか考えようとする間もなく、どういう訳かクーが嬉しそうに「キャン」と鳴いた。
「クー?」
『皆でこれやるの』
咥えている輪をプラプラさせてみせる。どうやら皆でゲームをしたいらしい。クーにそう言われてしまってはもう私には断る事は出来なかった。
「あの」
仕方なくアルノルド王子に返事をする。
「クーが皆さんとゲームをやりたいそうなので……よろしければお供させて下さい」
「クーが?」
すると返事をするように「キャンキャン」と大きく尻尾を振りながらクーが答えた。
「はは、じゃあ誰が一番点数を取るか勝負でもするか?」
ミアノ様が乗って来た。クーの尻尾が先程よりも大きく揺れる。どうやら賛成らしい。
「嬉しそうですね。どうやらクーも勝負をご所望のようですよ」
パウル様まで乗って来る。
「ははは、では勝負するか」
アルノルド王子の決めの一言で、三人と一匹の輪投げ勝負が始まった。
「お店のご主人、泣いていましたね」
大きなウサギのぬいぐるみを抱いたパウル様が、同情するような表情をして言った。
「はは、つい本気になってしまったからな」
ミアノ様は大きな熊のぬいぐるみと、キツネのぬいぐるみを抱えている。
「代金を多めに置いて来たから大丈夫だろう」
こちらは大きな獅子のぬいぐるみを抱えているアルノルド王子だ。イケメンたちが自分達の上半身以上の大きさのぬいぐるみを抱いているのって、傍から見たらどう見えるのだろう。
「皆さん、クー相手に本気になり過ぎですよ」
私はさっきから笑いが止まらない。クーが口に咥えた輪を、器用に10点の所に引っ掛けて行くのを見た三人の、目の色が変わった瞬間を見てしまったのだ。そこからは本気の男三人が、クーと同じように次々と10点に輪をかけて行く様を、店主と一緒に口を開けて見ている事しか出来なかった。
『すっごく楽しい!もっとやりたい』
「え?クー、まだやりたいの?」
「キャン!」
「ははは、では次はルーレットにしようか?」
ルーレットの出目で、もらえる景品が変わるらしい。またもや本気の勝負が始まる。
『子ぎつね相手に……男の人って単純』
あんなに嫌だった状況に陥っているはずなのに、すっかり楽しんでいる自分に驚いてしまう。
『でもまあ、本当に楽しいからいっかな』
こうして私とクーは、収穫祭を目一杯楽しんだのだった。
「今日は本当に楽しかったです。付き合って下さってありがとうございました」
「キャンキャン」
あれからもたくさん楽しんだ私たちは、三人に屋敷の前まで送ってもらった。
「私たちも久々に本気で楽しんだ。こちらこそありがとう」
「本当に。クー、また遊ぼうな」
「そうですね、クーとの勝負はまだ決着が着いていませんから」
三人ともニコニコしている。
『僕も楽しかったよ。学院でも一杯遊ぼうね』
「ふふ、クーも楽しかったそうです。学院でも遊ぼうって」
「ああ、そうだな」
そう言ったアルノルド王子が、クーの頭を優しく撫でた。ちょうど会話が終わる頃、家令とアネリが門扉まで迎えに来た。
「あ、そうだ。これ」
クーが景品でもらったキツネのぬいぐるみをミアノ様が渡してくれる。
「ついでにこれももらってくれないか?キツネだけじゃ寂しがるだろう」
そう言って自分がもらったクマのぬいぐるみもくれる。
「でも……」
「もらってくれ。屋敷に持って帰る方が恥ずかしいから」
確かに。ミアノ様がクマのぬいぐるみを持って「ただいま」って帰る姿は可笑しいかもしれない。
「ふ、ふふふ。ご家族の反応を見てみたい気はしますけれど」
想像したら面白くなってしまった。
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