18 / 71
月夜の散歩
しおりを挟む
剣術授業後から、ヴェルデ学院の一学年の令嬢たちの反応がおかしい。私を見るとキャーキャーと騒がしくなるのだ。私をジッと見つめる目が、アルノルド王子やレンゾ様を見る目に似ている。
「一学年の間でされている噂のせいだと思うよ」
視線の正体がわからず首を傾げている私に、そうレンゾ様が言ってきた。
「なんでも【Aクラスには五人のイケメンがいる】って言われているらしいよ」
四人は言わずもがな、アルノルド王子と隣国のレンゾ王子。青竜騎士団のパウル・オスティア―ゼと赤竜騎士団のミアノ・プロスベーラだ。
「最後の一人は誰?」
レンゾ様の答えは……私だった。ミアノ様との一戦でそういう目で見られるようになってしまったらしい。ねえ、皆。ちゃんと見よう。私イケメンじゃなくて美女……ヤバい。自分で美女とか言っている時点で可哀想な子じゃないの。
「はは、普通に歩くだけで騒ぎになるね」
レンゾ様と廊下を歩いているだけで、周囲が湧く。視線が突き刺さる。こんな状況が数日続いた。好意のある視線だから別にいいではないかとアネリに言われたが、こうも常に見られていると気が休まらない。
「レンゾ様は気にならないの?」
「そうだね。今に始まった事ではないからね」
ああ、そうでしたね。あなたはイケメンで王族ですもんね。
「それよりさ、今度は私とも一戦交えて欲しいな」
「レンゾ様と?」
確かに、彼の独特の動きは戦ってみたら面白そうだ。でも、それは今じゃない。
「周りの視線が消えたらね」
「はは、そんな時来るかな?慣れた方が早いと思うけど」
「慣れたくありません」
これ以上負担がかかるのは嫌だ。というか、この短い期間で本当に色々あり過ぎだって。こんなにも色々あるのかと、寮に戻った私は【光の乙女は恋を知る】を確認する事にした。
やはりミアノ様との模擬戦は、完全にオリジナルだ。
「なんだかもう修正出来る気がしないけど……それで、私は次に何をするべきなのかしら?」
次に来る事柄を確認する。
【満月の夜。キツネが外に出て月の光を浴びたいと言い出した。シシリーは夜中になる少し前、こっそり寮を抜け出し高位貴族の寮の方へ向かった。
「あっちに行けば庭園があるから、そこにこの子を連れて行ってあげよう」
侯爵家と公爵家の寮の間に、広々とした庭園がある。キツネは嬉しそうにシシリーの腕から飛び出し、駆けまわった。
「ふふ、良かった。喜んでくれているわ」
すると、奥の茂みが揺れた。ビクリとしたシシリーが何処かに隠れようとした時だった。揺れた茂みの中から金色の髪の男性が、姿を現したのだ。
「君はあの時の……」
金色の髪の男性が、シシリーの元に近づいて来る。咄嗟に逃げようとしたシシリーは「待ってくれ」という声と共に手首を掴まれてしまった。
「何もしない。良かったら一緒に月を見ないか?」】
うん、これは私には関係ありません。面倒なので放っておきましょう。
そう思っていたのに……
今夜は満月という日の夕方。寮の部屋で食事をしていると、クーが膝の上に乗って来た。
『リア』
「ん?どうしたの?」
『あのね、今夜は満月なんだ』
ギックン。
「そ、そうなんだ」
『満月の月は聖獣にとって、とっても気持ちいい魔力を纏っているんだよ』
「へ、へえ」
それ以上は聞きたくないかなぁ、なんて思ってもクーには通じない。
『だからね、僕、月の光を一杯浴びたいの。リア、夜になったらお散歩しよ』
エメラルド色の瞳をウルウルさせて私を見ている。く、一体この攻撃を躱せる人間がいるのだろうか、いや、いないに違いない。
「うん、わかった。お散歩しよ」
寮の前の庭園にさえ行かなければいいのだ。学院に向かう途中にある、並木道なんていいかもしれない。
月が高い位置になる少し前。クーに促されて外に出る。一番高い位置に月が来た時に、最も魔力が降り注ぐらしい。外に出た途端、いつもよりも明るい月が見えた。
「月が明るい」
魔力を纏っていると言われると、そんな感じがする。月は周りの星が見えなくなる程、明るい輝きを放っていた。
『僕、ここがいい』
……庭園じゃん。ダメじゃん。クーが指定した場所に溜息が出る。
「クー、あっちの並木道なんてどう?きっと凄く綺麗だよ」
なんとかここから離れようと、違う場所を提案するもクーはここが気に入ってしまったようだ。ぴょんこぴょんこと、楽しそうに飛び跳ねている姿を見せられては、これ以上何も言えなくなってしまう。
「はあぁ、仕方がない。見つからないように気を付けよう」
月を見ながらクーの方へ足を向けた時。
「何にだ?」
そんな私の呟きを誰かが拾った。
「一学年の間でされている噂のせいだと思うよ」
視線の正体がわからず首を傾げている私に、そうレンゾ様が言ってきた。
「なんでも【Aクラスには五人のイケメンがいる】って言われているらしいよ」
四人は言わずもがな、アルノルド王子と隣国のレンゾ王子。青竜騎士団のパウル・オスティア―ゼと赤竜騎士団のミアノ・プロスベーラだ。
「最後の一人は誰?」
レンゾ様の答えは……私だった。ミアノ様との一戦でそういう目で見られるようになってしまったらしい。ねえ、皆。ちゃんと見よう。私イケメンじゃなくて美女……ヤバい。自分で美女とか言っている時点で可哀想な子じゃないの。
「はは、普通に歩くだけで騒ぎになるね」
レンゾ様と廊下を歩いているだけで、周囲が湧く。視線が突き刺さる。こんな状況が数日続いた。好意のある視線だから別にいいではないかとアネリに言われたが、こうも常に見られていると気が休まらない。
「レンゾ様は気にならないの?」
「そうだね。今に始まった事ではないからね」
ああ、そうでしたね。あなたはイケメンで王族ですもんね。
「それよりさ、今度は私とも一戦交えて欲しいな」
「レンゾ様と?」
確かに、彼の独特の動きは戦ってみたら面白そうだ。でも、それは今じゃない。
「周りの視線が消えたらね」
「はは、そんな時来るかな?慣れた方が早いと思うけど」
「慣れたくありません」
これ以上負担がかかるのは嫌だ。というか、この短い期間で本当に色々あり過ぎだって。こんなにも色々あるのかと、寮に戻った私は【光の乙女は恋を知る】を確認する事にした。
やはりミアノ様との模擬戦は、完全にオリジナルだ。
「なんだかもう修正出来る気がしないけど……それで、私は次に何をするべきなのかしら?」
次に来る事柄を確認する。
【満月の夜。キツネが外に出て月の光を浴びたいと言い出した。シシリーは夜中になる少し前、こっそり寮を抜け出し高位貴族の寮の方へ向かった。
「あっちに行けば庭園があるから、そこにこの子を連れて行ってあげよう」
侯爵家と公爵家の寮の間に、広々とした庭園がある。キツネは嬉しそうにシシリーの腕から飛び出し、駆けまわった。
「ふふ、良かった。喜んでくれているわ」
すると、奥の茂みが揺れた。ビクリとしたシシリーが何処かに隠れようとした時だった。揺れた茂みの中から金色の髪の男性が、姿を現したのだ。
「君はあの時の……」
金色の髪の男性が、シシリーの元に近づいて来る。咄嗟に逃げようとしたシシリーは「待ってくれ」という声と共に手首を掴まれてしまった。
「何もしない。良かったら一緒に月を見ないか?」】
うん、これは私には関係ありません。面倒なので放っておきましょう。
そう思っていたのに……
今夜は満月という日の夕方。寮の部屋で食事をしていると、クーが膝の上に乗って来た。
『リア』
「ん?どうしたの?」
『あのね、今夜は満月なんだ』
ギックン。
「そ、そうなんだ」
『満月の月は聖獣にとって、とっても気持ちいい魔力を纏っているんだよ』
「へ、へえ」
それ以上は聞きたくないかなぁ、なんて思ってもクーには通じない。
『だからね、僕、月の光を一杯浴びたいの。リア、夜になったらお散歩しよ』
エメラルド色の瞳をウルウルさせて私を見ている。く、一体この攻撃を躱せる人間がいるのだろうか、いや、いないに違いない。
「うん、わかった。お散歩しよ」
寮の前の庭園にさえ行かなければいいのだ。学院に向かう途中にある、並木道なんていいかもしれない。
月が高い位置になる少し前。クーに促されて外に出る。一番高い位置に月が来た時に、最も魔力が降り注ぐらしい。外に出た途端、いつもよりも明るい月が見えた。
「月が明るい」
魔力を纏っていると言われると、そんな感じがする。月は周りの星が見えなくなる程、明るい輝きを放っていた。
『僕、ここがいい』
……庭園じゃん。ダメじゃん。クーが指定した場所に溜息が出る。
「クー、あっちの並木道なんてどう?きっと凄く綺麗だよ」
なんとかここから離れようと、違う場所を提案するもクーはここが気に入ってしまったようだ。ぴょんこぴょんこと、楽しそうに飛び跳ねている姿を見せられては、これ以上何も言えなくなってしまう。
「はあぁ、仕方がない。見つからないように気を付けよう」
月を見ながらクーの方へ足を向けた時。
「何にだ?」
そんな私の呟きを誰かが拾った。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
乙女ゲームに転生した悪役令嬢、断罪を避けるために王太子殿下から逃げ続けるも、王太子殿下はヒロインに目もくれず悪役令嬢を追いかける。結局断罪さ
みゅー
恋愛
乙女ゲーム内に転生していると気づいた悪役令嬢のジョゼフィーヌ。このままではどうやっても自分が断罪されてしまう立場だと知る。
それと同時に、それまで追いかけ続けた王太子殿下に対する気持ちが急速に冷めるのを感じ、王太子殿下を避けることにしたが、なぜか逆に王太子殿下から迫られることに。
それは王太子殿下が、自分をスケープゴートにしようとしているからなのだと思ったジョゼフィーヌは、焦って王太子殿下から逃げ出すが……
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる