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止まらない猛攻
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それから、本当に王太子殿下の猛攻撃が始まった。会えば必ず口説いてくる。誰がいようと構わずだ。
ヴィヴィアーナ殿下が、エルシー様を含めた数人でお茶会を開いていた時。少し離れた場所で警護をしている私を見つけた王太子殿下が、徐に近づいてきた。
「エルダ」
甘さを含ませた声で私を呼ぶ王太子殿下。ヴィヴィアーナ殿下含めた令嬢方が、王太子殿下の声に気付いてこちらを見ている。
「仕事中なのですが」
「ああ、知っている。だが私は、もう容赦しないと言ったよな」
そう言っている彼の手は、私の腰を抱いていた。
「蹴り飛ばしますよ」
笑顔で言っても、魔王の時は動じないらしく、ニヤニヤと笑うだけで離してくれない。
「ヴァレンティーノ殿下、それ以上は私が蹴り飛ばします」
後ろにいた兄が脅して、初めて腰から手を離した殿下は、そのまま離れていくのかと思いきや、私の髪を一房取りキスをした。私から視線を外さずに。彼の紫の瞳がキラリと光る。瞬間、私の心臓がドクンと鳴った。
ヴィヴィアーナ殿下たちのいる方から、黄色い声が聞こえる。王太子殿下が去ってからは、ヴィヴィアーナ殿下たちからの質問攻めで、終わる頃には死ぬほど疲れてしまった。
また別の日。
兄と約束していたホールケーキを作って持って行った。王太子殿下には、紅茶のシフォンケーキを作って持って行った。
「ん、美味い。紅茶の香りがいいな」
甘さをおさえて作ったシフォンケーキは、殿下の口に合ったようで喜んでくれる。兄はしっかりホールケーキを膝に抱えて、一人で幸せそうに食べていた。
「エルダは食べたのか?」
「いえ。作っているだけで食べたような気になってしまうので」
「それはダメだ。ほらっ」
フォークに小さく切ったシフォンケーキを載せて、私の口元に持ってくる。
「ええっと?」
「ほら、口を開けろ」
「……はい」
パカリと口を開けると、そっとシフォンケーキを入れられた。フワフワで溶けるように消えて行くケーキにほおっと息を吐く。我ながら美味しく出来ていた。
「美味いか?」
「はい、おいしいです」
「そうか」
素直に返事をした私に、満足そうに微笑みかける王太子殿下。自然と心臓の鼓動が早くなる。
更に別の日。
ヴィヴィアーナ殿下の護衛が終わり、帰るために城内を歩いていた。ふと、中庭に人の気配を感じて、そっと覗いてみる。
するとそこには、一人で剣を振る王太子殿下がいた。真剣な表情にまたもや心臓がうるさくなる。
『フォームが美しい』
まるで剣舞のようだ。流れるように動く姿に感動すら覚えてしまう。
どれ程見ていたのか……王太子殿下が私の存在に気付いた。
「何を呆けている?」
気が付けば、目の前に王太子殿下がいた。
「ヴァレンティーノ殿下のフォームは美しいのですね」
思っていた事を素直に口にすると、殿下は驚いたように目を見開いた。そして微笑んだその表情に、今度はこちらが驚く番だった。
「エルダにそう言ってもらえるのは嬉しいものだな」
優しい表情をした殿下に、ドキドキが止まらない。
「そ、そんな。私如き……兄様に言われた方が嬉しいでしょうに」
「いいや、エルダがいい。おまえの刀を使った戦いは、見ていて惚れ惚れするからな」
勘弁してほしい。逃げられない……いや、逃げたくない。そう思う自分が嫌になる。殿下の紫の瞳の色が濃くなった。
「エルダ」
見上げた先にある紫が、私を捉えて離さない。
「おまえが欲しい。おまえの全てが……心も身体も、未来も。全てが欲しい」
低く掠れた声は、私のうなじをザワザワさせる。
「こんなに一人の女を欲しいと思ったのは、生まれて初めてなんだ」
ジリジリと距離を縮められる。
『マズイ』
殿下から逃れるように後ずさった先には、壁しかなかった。
「エルダ……愛している」
掠れた声で、苦しそうに紡いだその言葉が、私を壁に突き刺してしまった。動けない。
「エルダ……嫌なら、頼む。殴ってくれ」
どんどん顔が近づいて来る。
『殴る?ヴァレンティーノ殿下を?何故?』
思考がまとまらずに霧散する。
「愛している。殴らないのなら……受け入れてくれ」
殿下の口づけは、とても甘かった。
ヴィヴィアーナ殿下が、エルシー様を含めた数人でお茶会を開いていた時。少し離れた場所で警護をしている私を見つけた王太子殿下が、徐に近づいてきた。
「エルダ」
甘さを含ませた声で私を呼ぶ王太子殿下。ヴィヴィアーナ殿下含めた令嬢方が、王太子殿下の声に気付いてこちらを見ている。
「仕事中なのですが」
「ああ、知っている。だが私は、もう容赦しないと言ったよな」
そう言っている彼の手は、私の腰を抱いていた。
「蹴り飛ばしますよ」
笑顔で言っても、魔王の時は動じないらしく、ニヤニヤと笑うだけで離してくれない。
「ヴァレンティーノ殿下、それ以上は私が蹴り飛ばします」
後ろにいた兄が脅して、初めて腰から手を離した殿下は、そのまま離れていくのかと思いきや、私の髪を一房取りキスをした。私から視線を外さずに。彼の紫の瞳がキラリと光る。瞬間、私の心臓がドクンと鳴った。
ヴィヴィアーナ殿下たちのいる方から、黄色い声が聞こえる。王太子殿下が去ってからは、ヴィヴィアーナ殿下たちからの質問攻めで、終わる頃には死ぬほど疲れてしまった。
また別の日。
兄と約束していたホールケーキを作って持って行った。王太子殿下には、紅茶のシフォンケーキを作って持って行った。
「ん、美味い。紅茶の香りがいいな」
甘さをおさえて作ったシフォンケーキは、殿下の口に合ったようで喜んでくれる。兄はしっかりホールケーキを膝に抱えて、一人で幸せそうに食べていた。
「エルダは食べたのか?」
「いえ。作っているだけで食べたような気になってしまうので」
「それはダメだ。ほらっ」
フォークに小さく切ったシフォンケーキを載せて、私の口元に持ってくる。
「ええっと?」
「ほら、口を開けろ」
「……はい」
パカリと口を開けると、そっとシフォンケーキを入れられた。フワフワで溶けるように消えて行くケーキにほおっと息を吐く。我ながら美味しく出来ていた。
「美味いか?」
「はい、おいしいです」
「そうか」
素直に返事をした私に、満足そうに微笑みかける王太子殿下。自然と心臓の鼓動が早くなる。
更に別の日。
ヴィヴィアーナ殿下の護衛が終わり、帰るために城内を歩いていた。ふと、中庭に人の気配を感じて、そっと覗いてみる。
するとそこには、一人で剣を振る王太子殿下がいた。真剣な表情にまたもや心臓がうるさくなる。
『フォームが美しい』
まるで剣舞のようだ。流れるように動く姿に感動すら覚えてしまう。
どれ程見ていたのか……王太子殿下が私の存在に気付いた。
「何を呆けている?」
気が付けば、目の前に王太子殿下がいた。
「ヴァレンティーノ殿下のフォームは美しいのですね」
思っていた事を素直に口にすると、殿下は驚いたように目を見開いた。そして微笑んだその表情に、今度はこちらが驚く番だった。
「エルダにそう言ってもらえるのは嬉しいものだな」
優しい表情をした殿下に、ドキドキが止まらない。
「そ、そんな。私如き……兄様に言われた方が嬉しいでしょうに」
「いいや、エルダがいい。おまえの刀を使った戦いは、見ていて惚れ惚れするからな」
勘弁してほしい。逃げられない……いや、逃げたくない。そう思う自分が嫌になる。殿下の紫の瞳の色が濃くなった。
「エルダ」
見上げた先にある紫が、私を捉えて離さない。
「おまえが欲しい。おまえの全てが……心も身体も、未来も。全てが欲しい」
低く掠れた声は、私のうなじをザワザワさせる。
「こんなに一人の女を欲しいと思ったのは、生まれて初めてなんだ」
ジリジリと距離を縮められる。
『マズイ』
殿下から逃れるように後ずさった先には、壁しかなかった。
「エルダ……愛している」
掠れた声で、苦しそうに紡いだその言葉が、私を壁に突き刺してしまった。動けない。
「エルダ……嫌なら、頼む。殴ってくれ」
どんどん顔が近づいて来る。
『殴る?ヴァレンティーノ殿下を?何故?』
思考がまとまらずに霧散する。
「愛している。殴らないのなら……受け入れてくれ」
殿下の口づけは、とても甘かった。
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