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踊る、踊る

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「ああ、つい最近まで司祭が来てくれていたんだが、どうやら体調を崩したらしくてな。そうしたらアルド殿が教えてくれるようになったんだ」
「それは司祭様が心配ですね。回復するとよいのですが」
「ああ、本当にな」

もうすぐ曲が終わる。
「ああ、そうだ。言い忘れていたが」
私をじっと見つめるアルセニオ。少し顔が赤い気がする。暑いのか?
「何?」
「今日のエルダは本当に綺麗だ。やっぱり女なんだって思ったよ」
「ありが、とう?」
微妙に貶された気がするが、きっと気のせいだろう。


「エルダ。綺麗」
「ありがとうございます」
「ねえ、僕と結婚」
「しません」
「なんで?」
「だって、愛しておりませんもの」
「それはこれから」
「では、そうなってからまた求婚してください」
「チェ」

そこまで大きくはない彼でも、並ぶと私より少し背が高い。華奢で中性的に見えても男なのだと少しだけ意識した。
「ねえ」
「はい?」
「あの光魔法の子、どう思う?」
「どう思うとは?」

「気持ち悪くない?」
「気持ち悪いですか?そこまで彼女を知っている訳ではないのでわかりません」
「そっか。僕、彼女に光魔法の使い方とか教えてる。でも、なんか嫌」
「具体的には?」
「難しい。でも、自分の為にこの世界はあるって言った時は鳥肌が立った。あと妙に僕やアルセニオの事を知っていた」

それって……カプアート嬢も転生者だという事なのではないだろうか。しかもこのゲームを知っている。だからこそ、攻略対象者の内情を知っているのでは?だとすると、きっと戸惑っているのではないだろうか。ゲームと同じ登場人物はいても、ゲームと同じ内容ではない。これから彼女はどう出るのだろう。

「エルダ」
不意に呼ばれて驚いてしまう。
「はい、なんでしょう?」
「今、違う事考えてた」
「すみません。光魔法の令嬢がどんな人物なのか想像していました」

「君、頭ケガさせられたんでしょ」
「何故それを?」
「国王が言いふらしてた。君のケガを自分が治療したって」
「ああ……」
遠い目をしてしまったのは仕方がないだろう。


「やっとあなたと踊る事が出来ました」
私の腰をしっかり抱いて艶めいた笑顔のベニート様。あなたは踊らなくても常にこれくらい、いやこれ以上接近しているじゃないか、と言いたいが我慢する。

「ふふ、本当に美しいですね。カッチリした騎士服姿も中々扇情的でしたが、ドレス姿もいいですね。せっかくこんなに美しいのです。もっとドレス姿を見せてください……ああ、しかし、あまり人には見せびらかしたくないですね。飾り立てた檻の中で私だけに見せるドレス姿……いいですね」

「何がいいのかさっぱりわかりません」
「ふふふ、女性にはわかりませんか?男の浪漫ですよ」
ホント、怖い。流暢に変態な事を語っているのに、美しい容姿がそれを感じさせない。周りで見ている女性たちは、彼の笑顔に溜息を吐いている。本当にイケメンというのは得だ。

少しの間無言で踊る。スマートな彼はエスコートもスマートだった。
『踊りやすい』
兄にも負けないくらい踊りやすかった。

突然、腰を抱いていた力が強まった。
「エルダ。貴女は私を少しでも好きでいてくれますか?」
少し掠れた声で囁くように言われる。心臓がドキリと大きく打った。

好きか嫌いかで言ったら好きだ。
「好きですよ」
「ふふ、その好きではありませんよ。恋焦がれる好きです」
正直、恋焦がれるという感覚がわからない。

「貴女が私の事を、片時も忘れられない。そう思っていただける日が来るのでしょうか?」
声が少し切なくて、思わず彼を見つめてしまった。しばし、見つめ合う。

「そうなった時は、貴女を檻に閉じ込めましょう」
愉悦を感じた声色でニッコリと微笑まれた。やっぱり怖い。
「無理」
はっきりと拒絶を示したのに、嬉しそうに微笑まれた。なんでだ?
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