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本気で逃げたい
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兄の言った言葉が、ものの数秒でわかってしまった。
兄が離れた途端、周囲を男性で囲まれてしまったのだ。めちゃくちゃ怖い。思わずクナイを服の上から触れてしまう。
『なんで?私はモブだよな。この変なモテ方、怖いんだが……』
父や兄を呼ぶか、自分でやるか考えていると、後ろの方から低い声が響いた。
「申し訳ありませんが、エルダ嬢と約束をしておりますので。少々道を空けてくれませんか?」
穏やかだが圧のかかる声色。見事に道が出来たそちらを見ると、身体を反転させてそのまま逃げ帰りたいと思ってしまった。
『嫌だ。嫌だ。どうしてこんな事になった?どうして攻略対象の面々が揃っているんだ?』
身体が固まって動けない。金縛りにあってしまったようだ。ニコニコしながら近寄って来るベニート様。そのすぐ後ろには王太子殿下。更に後ろにはアルセニオとアルド殿が並んで歩いてくる。
「見違えましたね。美の女神がこの場に降臨したのかと思ってしまいました」
私の手を取り、甲にキスを落としたのはベニート様だ。
「やっぱり綺麗。今日は来て良かった」
ニコニコと微笑むのはアルド殿。
「ああ、マジか。騎士服でもいい女だと思っていたが……ドレスになると格別だな」
頭をガシガシかきながらも、しっかり褒めたのはアルセニオ。
「……」
王太子殿下だけは私を見つめたまま微動だにしない。なんだ?怖いから何か言ってくれ。
「エルダ……」
妙に色気のある声で名前を呼ばれた。しかもそれだけ。その後続く言葉は何もない。思わず首を傾げてしまう。
すると突然、腰を抱かれてしまう。突然過ぎて何も反応できなかった。
「エルダ……」
「はい?」
「食わせろ」
「は?」
瞬間、アルセニオとベニート様が王太子殿下を私から剥がした。
「殿下。言いましたよね。今日は何もしないと。ダンスを踊るだけだと」
「ああ、言った。言ったが、これはダメだ。エルダのドレス姿がこれほど美しいとは……我慢が出来ん」
いやいやいや、物騒。何が我慢出来ないんだ?食うのがか?私をどうやって食おうというのだ?本気で食うつもりなら戦うぞ。
「良かった。エルダはわかってないみたい」
アルド殿が私の表情から何かを読み取ったようだ。
「何がわかっていないと?」
「ん?ねえ、食うってどういうことかわかる?」
「それは私の血肉を食うという事でしょう?それ以外に何かあるのですか?」
あれ?何かあった気がする。少なくとも前世では何か違う意味があったような……
思い出す前に思考をかき消されてしまう。
「エルダ。ダンスだ、ダンス。俺と踊ってくれ」
騎士服ではないアルセニオから、ダンスの申し込みをされる。
「次は僕だよ」
「その次は私です。そして、最後は殿下ですよ」
私の意見は?勝手に踊る順番を決められていた。しかも四人連続。ノンストップか。クソ、やってやろうじゃないか。
「思った通り、踊りやすいな」
踊り出してすぐにアルセニオに言われた。
「そうか?あ、じゃなくてそうなのですか?」
「どうした?気持ち悪いぞ」
ムカッ。
「兄様に言われたのです。今夜は令嬢の言葉で話せと」
「そうなのか?でも俺の前ではいいんじゃないか?首がムズムズする」
「ふふふ、ならばこのままで」
「面白がってるな。でもまあいいや」
「そう言えば、何故私ですと踊りやすいのですか?」
「それはエルダが強いってわかっているからだ。普通の女性はすぐにふらつくし、動けなくなるし。神経を使う」
「……何かそういう状況になったという事?」
「ああ、カプアート嬢だよ。歩く時にはずっと腕にしがみついているし、ダンスの練習をした時なんて、足がもつれるってもうほとんど抱っこ状態だ。もう疲れるのなんの」
大きく溜息を吐くアルセニオ。ご愁傷様である。
「でも最近は少しマシになった。アルド殿が光魔法の勉強の時は見てくれるようになったんだ」
「へえ、アルド殿ですか。教会の方はいらっしゃらないのですか?」
確か、教会から教える人が来ると言っていなかったか?
兄が離れた途端、周囲を男性で囲まれてしまったのだ。めちゃくちゃ怖い。思わずクナイを服の上から触れてしまう。
『なんで?私はモブだよな。この変なモテ方、怖いんだが……』
父や兄を呼ぶか、自分でやるか考えていると、後ろの方から低い声が響いた。
「申し訳ありませんが、エルダ嬢と約束をしておりますので。少々道を空けてくれませんか?」
穏やかだが圧のかかる声色。見事に道が出来たそちらを見ると、身体を反転させてそのまま逃げ帰りたいと思ってしまった。
『嫌だ。嫌だ。どうしてこんな事になった?どうして攻略対象の面々が揃っているんだ?』
身体が固まって動けない。金縛りにあってしまったようだ。ニコニコしながら近寄って来るベニート様。そのすぐ後ろには王太子殿下。更に後ろにはアルセニオとアルド殿が並んで歩いてくる。
「見違えましたね。美の女神がこの場に降臨したのかと思ってしまいました」
私の手を取り、甲にキスを落としたのはベニート様だ。
「やっぱり綺麗。今日は来て良かった」
ニコニコと微笑むのはアルド殿。
「ああ、マジか。騎士服でもいい女だと思っていたが……ドレスになると格別だな」
頭をガシガシかきながらも、しっかり褒めたのはアルセニオ。
「……」
王太子殿下だけは私を見つめたまま微動だにしない。なんだ?怖いから何か言ってくれ。
「エルダ……」
妙に色気のある声で名前を呼ばれた。しかもそれだけ。その後続く言葉は何もない。思わず首を傾げてしまう。
すると突然、腰を抱かれてしまう。突然過ぎて何も反応できなかった。
「エルダ……」
「はい?」
「食わせろ」
「は?」
瞬間、アルセニオとベニート様が王太子殿下を私から剥がした。
「殿下。言いましたよね。今日は何もしないと。ダンスを踊るだけだと」
「ああ、言った。言ったが、これはダメだ。エルダのドレス姿がこれほど美しいとは……我慢が出来ん」
いやいやいや、物騒。何が我慢出来ないんだ?食うのがか?私をどうやって食おうというのだ?本気で食うつもりなら戦うぞ。
「良かった。エルダはわかってないみたい」
アルド殿が私の表情から何かを読み取ったようだ。
「何がわかっていないと?」
「ん?ねえ、食うってどういうことかわかる?」
「それは私の血肉を食うという事でしょう?それ以外に何かあるのですか?」
あれ?何かあった気がする。少なくとも前世では何か違う意味があったような……
思い出す前に思考をかき消されてしまう。
「エルダ。ダンスだ、ダンス。俺と踊ってくれ」
騎士服ではないアルセニオから、ダンスの申し込みをされる。
「次は僕だよ」
「その次は私です。そして、最後は殿下ですよ」
私の意見は?勝手に踊る順番を決められていた。しかも四人連続。ノンストップか。クソ、やってやろうじゃないか。
「思った通り、踊りやすいな」
踊り出してすぐにアルセニオに言われた。
「そうか?あ、じゃなくてそうなのですか?」
「どうした?気持ち悪いぞ」
ムカッ。
「兄様に言われたのです。今夜は令嬢の言葉で話せと」
「そうなのか?でも俺の前ではいいんじゃないか?首がムズムズする」
「ふふふ、ならばこのままで」
「面白がってるな。でもまあいいや」
「そう言えば、何故私ですと踊りやすいのですか?」
「それはエルダが強いってわかっているからだ。普通の女性はすぐにふらつくし、動けなくなるし。神経を使う」
「……何かそういう状況になったという事?」
「ああ、カプアート嬢だよ。歩く時にはずっと腕にしがみついているし、ダンスの練習をした時なんて、足がもつれるってもうほとんど抱っこ状態だ。もう疲れるのなんの」
大きく溜息を吐くアルセニオ。ご愁傷様である。
「でも最近は少しマシになった。アルド殿が光魔法の勉強の時は見てくれるようになったんだ」
「へえ、アルド殿ですか。教会の方はいらっしゃらないのですか?」
確か、教会から教える人が来ると言っていなかったか?
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