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6,独身寮

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 帝の運転でやってきたのは、昨日のビーチから数分のところにある3階建てのマンションだった。

「え……、ここ?」

 車を降り、外壁のひび割れたクリーム色の建物を類は見上げる。
 てっきり会社に連れていかれると思っていたのに。

「本社に行く前に、こっちをご案内した方が早いと思いましてね」

 運転席から下りてきた帝が、建物入り口の表札を目で示した。
 そこには『ホワイトベアークリーム 独身寮』と、クセのある文字で記されている。

「類さん、あなたの部屋にご案内します」
「えっ、ぼくの部屋?」
「今は駅前のビジネスホテルにお泊まりなんでしょう? ずっとそちらにいらっしゃるおつもりですか?」

 類はふるふると首を横に振ってみせた。安宿だが、“ずっと”となれば宿泊費もバカにならない。
 祖父から当面の経費としていくらかもらっていたけれど、これから働かないことには、収入の当てがあるわけでもなかった。

「管理人用に使っていた3階の部屋を、類さんのために空けてあります。そこが一番広いですからね。ちなみに私は2つ下の101に住んでいます。何かわからないことがあればいつでも聞いてください」

 帝はさっさと階段を上がっていった。
 慌ててついていくと、後れを取った類を階段の踊り場で待っている。そして無表情のまま、彼はまた階段を上り始めた。

「あの! ひとつ聞いていいですか?」

 思い切って、類はその背中に話しかける。

「はい?」
「独身の人はみんなここに?」
「家が遠方の者はほとんどそうですが、全員ではありません」
「えーと、虎牙さん? あの人は……?」

 帝が片眉をつり上げ、類を振り返った。

「ここには住んでいません」
「そう……ですか……」

 勇気を出して聞いたのに、思っていた答えが返ってこなくて類は内心肩を落とす。

「彼のことが気になりますか」
「……それは、少し……」
「どういったご関係です?」

 3階の301にたどり着き、帝が玄関のドアを開けて中へと促した。

「どういう関係って言われても……。昨日の夕方、海岸で、たまたま……」
「たまたま会って、ホテルに?」
「えーと……。自分でもびっくり」

 帝は類を見て何か言いかけたけれど、小さく息だけついて唇を閉じた。
 そして仕切り直すように口を開く。

「だったら一旦忘れてください」
「え、何を?」
「虎牙部長のことです」

 類は困惑しながら、小ぎれいな部屋を見回す。
 家具一式そろえられているようだが、気が紛れるようなものはテレビくらいしか見当たらなかった。

「でもきっと、会社で顔を合わせますよね?」

 何もなかったことにできるのか。向こうにできたとしても類には難しそうだ。今すでに、彼への興味でいっぱいだから。
 それに何より、会って素っ気なくされるのはきっとつらい。

「ぼくは……」
「大丈夫ですから。そんな捨てられた子どもみたいな顔をしないでください」

 帝の声が予想外に優しくて驚いた。

「え……?」

 ドキリとして顔を上げると、彼は困ったように微笑んでいる。

「私は社長に……、あなたのおじいさまにはとてもお世話になりました。ですからあなたのことは見捨てません。多少淫乱だとしてもね」

 微笑みながら、ギュッとほっぺたをつねられた。

「いッ、えっ!?」

 あまりのことに、類は抵抗できずにその場に固まる。帝の手は離れない。

「あなたが頼るべきは虎牙部長でなく、私です! わかりましたね!?」
「ふええええ!?」

 冷たいかと思ったら優しくて。笑顔で頬をつねってくるなんて、行動が読めなさすぎる。今まで出会ったことがないタイプの人、もとい獣人を前に、類はどう反応していいのかわからなかった。
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