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最終章 罪と愛

第21話

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「おいユァン……! 修道院長、このあと出かけるみたいだぞ」

朝の礼拝のあと。
礼拝堂の外回廊で、追いかけてきたルカに耳打ちされた。

「えっ、本当に?」
「ああ。車を表に回すようにって、いま指示しているのが聞こえた。たぶん講演会の打ち合わせかなんかだ」

ルカがシプリアーノ司教の不在を伝えてくるのは、例の鍵のかかったクロゼットの件があるからだ。
司教がいるところで鍵を開けるわけにはいかないから、中を見るためには、必然的に留守を狙うことになる。

(本当にやるんだ……)

突然巡ってきたチャンスに、ユァンの緊張は高まった。
ルカが肩を引き寄せ、耳元で言う。

「大丈夫だ、俺がいる。本館の掃除は普段からこの時間だから、一緒に行けば自然に潜り込める」
「でも、ルカまで巻き込むのは……」

ユァンとしては、ためらわずにはいられなかった。
無断で人の部屋を漁るんだ。
見つかれば、ルカまで責めを負うことになる。

「お前ひとりで潜り込めんのか? ユァンはドン臭いからなあ。背中がお留守ですぐ人に見つかる気がする」

そういえばバルトロメオを探して宿泊棟にもぐり込んだ時には、呆気あっけなくヒエロニムスに捕まってしまった。

「き、気をつけるから大丈夫だよ……」
「その顔は全然大丈夫じゃないだろ」
「そんなことないって……!」

廊下の隅でこそこそと言い合っていると、突然後ろから声をかけられる。

「仲よさそうに、なんの内緒話だ?」
「わあっ、バルト!」
「俺も入れろ」

バルトロメオが2人を引き放すようにして、間に入ってきた。

「あんたには関係ねーだろ!」

ルカがバルトロメオを押し戻そうとする。
が、バルトロメオは放されまいとユァンの肩に後ろから腕を回した。

「ユァンに関係することなら、俺にも関係があるんじゃないのか? な、ユァン」
「えーと……」

ユァンはうそがつけずに、真後ろにいる恋人の顔を仰ぎ見た。
深い色をした瞳と、それを囲む健康的な白目のコントラストにきつけられる。

実際のところ、この件に関してバルトロメオは当事者だ。
彼に秘密でシプリアーノ司教の部屋に忍び込んでも、最終的にはその結果を報告することになる。
だったらあえて隠す必要はないように思えた。

しかし司教の日記をのぞいて、恋人には知られたくないような事実が出てくるかもしれない。
それが怖い……。

「ユァン」

黙って見つめていると、また名前を呼ばれた。

「アンタは本当に分かりやすいな。俺に言うべきかどうか迷うようなことなら、素直に言えばいい。大人の男の懐の深さをナメてもらっては困る」
「バルト……」

そこまで言われて黙っていられるほど、ユァンは器用ではなかった。
周りに人がいないことを確認し、バルトロメオに耳打ちする。

「実はこれから、司教さまの部屋に忍び込むつもりなんだ」
「えっ……?」

さすがのバルトロメオもそれには小さく声をあげた。
短くルカと視線を合わせ、ユァンは続ける。

「ルカ曰く、あそこのクローゼットに、司教さまの書いた過去の日記がありそうだって。それを見たら、僕も昔のことを思い出せるかもしれない」
「…………」

バルトロメオが眉間にしわを寄せた。

「アンタに覚悟があるなら止めないが、当然俺も立ち合わせてもらう」

そう言われることはユァンも予想していた。
彼も捜査官として、立ち会わないという選択肢はないだろう。
司教の部屋を勝手に漁るなんて、そんな権限があるのかどうかは知らないが。

「だったら行こう! 早い方がいい」

ルカは止めなかった。バルトロメオの同行に、彼は反対するかと思ったが。

「……というか、3人で行くことになってる!?」

さっそく行こうとするルカを、ユァンが慌てて押し留める。

「呉越同舟ってところだな。忍び込むのに、見張りの人数は多い方がいいだろ」

ルカが真面目な顔をして答えた。

「僕はルカと行くとも言ってないんだけど……」

しかしこうなったら乗りかかった船だ。一緒にすしかない。
行きつく先が見えないのが不安だけれど……。
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