61 / 115
第3章 獅子と牝山羊
第6話
しおりを挟む
「ユァン、真面目にお祈りか。相変わらずだな」
ためらいなく部屋に入ってきたのは、以前同室だったルカだった。
礼拝にはきちんと出るのに、部屋での祈りはだいたいサボる。それがルカだ。
そばかすを散らしたふっくらした顔は、以前と変わらず健康そうだった。
「どうしたの? ルカが来るなんて珍しい」
ルカはバルトロメオにこの部屋を譲って以来、ここへは立ち寄っていなかった。
理由はまあ分かりやすくて、バルトロメオのことが苦手だからだ。
元々の原因は捜査目的で因縁をつけられたことだったが、人に構いたがるバルトロメオと、人に煩わされたくないルカとでは性格の相性が悪すぎた。
「寮長に言われて、アイツの荷物を取りに来たんだよ」
ルカはさっそく、バルトロメオのベッドの周りにある荷物を検分し始めた。
「えっ、荷物を取りにって、どうして?」
ユァンには話が読めない。
「聞いてないのか? 修道院長が激怒して、宿舎の部屋割りを変えろって、寮長に言ってきたんだと」
「それ、僕のせい?」
ユァンとしては心当たりがありすぎた。
シプリアーノ司教が怒っていたなら、きっと山羊小屋でキスしていた件だ。
「お前何したんだ?」
「あ~、それは聞いてないんだ……」
ルカに見つめられ、ユァンは気まずい思いで目を逸らした。
それにしても、バルトロメオと引き離されるなんて想定外の事態だ。
「ねえ、バルトはどこの部屋に移動するの? なんで自分で荷物を取りに来ないの?」
内心動揺しながらもルカに聞く。
「そんなこと俺が知るかよ。俺は寮長に言われて荷物を取りに来ただけだ」
ルカは面倒くさそうにするものの、すぐに部屋を出ようとはしなかった。
バルトロメオの衣類を洗濯用のバスケットに放り込み、ため息をつきながらユァンを見る。
「ユァンお前……そんなにアイツのことが好きなのか」
「え、それは……」
どう答えればいいのか、言葉に詰まった。
ルカはバルトロメオのベッドにどかっと腰を下ろし、呆れ顔をしてみせる。
「ホントお前は正直だなー。……でもま、分かるよ。アイツならユァンを別の世界へ連れ出せる、そんな感じはするもんな。特に根拠はないけどさ」
「どういうこと? 僕はここを出たいなんてこと、少しも……」
「それ……本気で言ってんのか?」
ルカの鼻にしわが寄った。
「お前に帰る場所がないことは知ってる。けどこんなとこ……出られるなら出るに越したことないだろ! 自由もない、金もない。あるのはミラミット型の権力構造と、それから……人助けには腰が重い神さまだけだ」
「ルカ……」
ルカがそんなふうに思っていたなんて、ユァンは思いもしなかった。
ためらいなく部屋に入ってきたのは、以前同室だったルカだった。
礼拝にはきちんと出るのに、部屋での祈りはだいたいサボる。それがルカだ。
そばかすを散らしたふっくらした顔は、以前と変わらず健康そうだった。
「どうしたの? ルカが来るなんて珍しい」
ルカはバルトロメオにこの部屋を譲って以来、ここへは立ち寄っていなかった。
理由はまあ分かりやすくて、バルトロメオのことが苦手だからだ。
元々の原因は捜査目的で因縁をつけられたことだったが、人に構いたがるバルトロメオと、人に煩わされたくないルカとでは性格の相性が悪すぎた。
「寮長に言われて、アイツの荷物を取りに来たんだよ」
ルカはさっそく、バルトロメオのベッドの周りにある荷物を検分し始めた。
「えっ、荷物を取りにって、どうして?」
ユァンには話が読めない。
「聞いてないのか? 修道院長が激怒して、宿舎の部屋割りを変えろって、寮長に言ってきたんだと」
「それ、僕のせい?」
ユァンとしては心当たりがありすぎた。
シプリアーノ司教が怒っていたなら、きっと山羊小屋でキスしていた件だ。
「お前何したんだ?」
「あ~、それは聞いてないんだ……」
ルカに見つめられ、ユァンは気まずい思いで目を逸らした。
それにしても、バルトロメオと引き離されるなんて想定外の事態だ。
「ねえ、バルトはどこの部屋に移動するの? なんで自分で荷物を取りに来ないの?」
内心動揺しながらもルカに聞く。
「そんなこと俺が知るかよ。俺は寮長に言われて荷物を取りに来ただけだ」
ルカは面倒くさそうにするものの、すぐに部屋を出ようとはしなかった。
バルトロメオの衣類を洗濯用のバスケットに放り込み、ため息をつきながらユァンを見る。
「ユァンお前……そんなにアイツのことが好きなのか」
「え、それは……」
どう答えればいいのか、言葉に詰まった。
ルカはバルトロメオのベッドにどかっと腰を下ろし、呆れ顔をしてみせる。
「ホントお前は正直だなー。……でもま、分かるよ。アイツならユァンを別の世界へ連れ出せる、そんな感じはするもんな。特に根拠はないけどさ」
「どういうこと? 僕はここを出たいなんてこと、少しも……」
「それ……本気で言ってんのか?」
ルカの鼻にしわが寄った。
「お前に帰る場所がないことは知ってる。けどこんなとこ……出られるなら出るに越したことないだろ! 自由もない、金もない。あるのはミラミット型の権力構造と、それから……人助けには腰が重い神さまだけだ」
「ルカ……」
ルカがそんなふうに思っていたなんて、ユァンは思いもしなかった。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
童貞処女が闇オークションで公開絶頂したあと石油王に買われて初ハメ☆
はに丸
BL
闇の人身売買オークションで、ノゾムくんは競りにかけられることになった。
ノゾムくん18才は家族と海外旅行中にテロにあい、そのまま誘拐されて離れ離れ。転売の末子供を性商品として売る奴隷商人に買われ、あげくにオークション出品される。
そんなノゾムくんを買ったのは、イケメン石油王だった。
エネマグラ+尿道プラグの強制絶頂
ところてん
挿入中出し
ていどです。
闇BL企画さん参加作品。私の闇は、ぬるい。オークションと石油王、初めて書きました。
乙女ゲームなのに、主人公が男で良いんですか?
秋乃よい
BL
──ある日突然、乙女ゲームの世界に迷い込んでしまった。
イケメン攻略対象達に好かれるのは……僕?!
主人公♂と攻略対象の美男子たちが、愛されまくりヤりまくる乙女ゲーム異世界ファンタジー♡
※R-18シーンあります。受け/攻め/カップリングが入り乱れるため、一途の恋愛物語ではないのをご承知の上、気楽にお楽しみください!
最新話・キャラクターのイメージイラストや設定はpixivにあげています。→https://www.pixiv.net/novel/series/10772012/glossary
※表紙イラストはAI生成です。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない
ネコフク
BL
【本編完結・番外編更新中】ある昼過ぎの大学の食堂で「瀬名すまない、別れてくれ」って言われ浮気相手らしき奴にプギャーされたけど、俺達付き合ってないよな?
それなのに接触してくるし、ある事で中学から寝取ってくる奴が虎視眈々と俺の周りのαを狙ってくるし・・・俺まだ誰とも付き合う気ないんですけど⁉
だからちょっと待って!付き合ってないから!「そんな噂も立たないくらい囲ってやる」って物理的に囲わないで!
父親の研究の被験者の為に誰とも付き合わないΩが7年待ち続けているαに囲われちゃう話。脇カプ有。
オメガバース。α×Ω
※この話の主人公は短編「番に囲われ逃げられない」と同じ高校出身で短編から2年後の話になりますが交わる事が無い話なのでこちらだけでお楽しみいただけます。
※大体2日に一度更新しています。たまに毎日。閑話は文字数が少ないのでその時は本編と一緒に投稿します。
※本編が完結したので11/6から番外編を2日に一度更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる