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第2章 教会の子供たち
第1話
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修道士にとっての伴侶は神である。
つまり人間の伴侶を得ることは許されない。
全身全霊を持って神に仕えることが、この道を修めることには必要だからだ。
これが禁欲と妻帯禁止の根拠となる。
二千年前にこの世界に降り立った預言者が、生涯独身を通したこともまたひとつの根拠とされている。
ユァンは今まで、そのことになんの疑問も抱かなかった。
欲しいと思わないから、与えられないことに苦痛を感じない。
一方で禁欲に、実質的な部分でどんな意味があるのかも想像がつかなかった。
(祈りに集中できない……)
その朝はロザリオを手に目を閉じても、ユァンの頭の中はバルトロメオのことでいっぱいだった。
こんな状態で、神に向き合える気がしない。
禁欲の〝欲〟は食欲、性欲、睡眠欲が主なものかと思ったが、そうではないらしい。
誰かを求める気持ち。愛されることへの欲求。
それが一番、神の道をきわめる上での妨げになるのだと、ユァンはいま身をもって理解した。
「今は無理だ……」
神と向き合えないまま、首のロザリオから手を下ろす。
ユァンは修道士になって初めて、自室で行う早朝の祈りを放棄した。
時刻は4時、窓の外に広がる空にはまだ光が射さない。
ユァンと入れ替わりに小さな祭壇を前にしたバルトロメオは、ユァンよりずっと修道士らしく厳かな横顔で祈っていた。
身を清め、折り目の付いた修道服を身につけた彼は精悍で、すらりとしていて美しい。
心にはなんの曇りもないように見える。
まるでひと晩で立場が逆転してしまったようだった。
真面目な修道士と不真面目な修道士。
昨日までは前者がユァン、後者がバルトロメオだったのに。
けれども実際のところバルトロメオは相変わらずバルトロメオのままで、ユァンだけが昨日までの自分を見失っている。
昨夜は今まで感じたこともない幸福感に満たされていたのに、一夜明けてしまった今朝は、胸に後悔の念が渦巻き始めていた。
昨日犯した罪に対する罰が、すでに始まっているのか。
彼を受け入れた体の奥が、じくじくと膿むように痛んでいた。
「どうしたユァン、顔色が悪いんじゃないのか?」
いつの間にかバルトロメオが来て、ユァンの顔を覗き込んでいた。
「…………。なんでも」
契りを結んだ相手なのに、打ち明けられない。素直に甘えられない。
目の前にいるバルトロメオは、何ごともなかったかのようにすっきりした顔をしていた。
一緒に地獄に落ちようとまで言っていたバルトロメオは本当にこの人なんだろうか。
なんだか自分だけが夢を見て、夢の中での想いを持ち越してしまったような気がする。
「やっぱりつらそうだ。つらいならもう少し休んだ方が……」
「今日は日曜礼拝だから休めないよ」
彼の気遣いを素っ気なく突っぱねてしまった。
日曜礼拝は、地域の人々や観光客にも開放された表の大聖堂で行われる。
毎日の礼拝とは違い準備や移動があるので、日曜朝の修道院は慌ただしいのだ。
つまり人間の伴侶を得ることは許されない。
全身全霊を持って神に仕えることが、この道を修めることには必要だからだ。
これが禁欲と妻帯禁止の根拠となる。
二千年前にこの世界に降り立った預言者が、生涯独身を通したこともまたひとつの根拠とされている。
ユァンは今まで、そのことになんの疑問も抱かなかった。
欲しいと思わないから、与えられないことに苦痛を感じない。
一方で禁欲に、実質的な部分でどんな意味があるのかも想像がつかなかった。
(祈りに集中できない……)
その朝はロザリオを手に目を閉じても、ユァンの頭の中はバルトロメオのことでいっぱいだった。
こんな状態で、神に向き合える気がしない。
禁欲の〝欲〟は食欲、性欲、睡眠欲が主なものかと思ったが、そうではないらしい。
誰かを求める気持ち。愛されることへの欲求。
それが一番、神の道をきわめる上での妨げになるのだと、ユァンはいま身をもって理解した。
「今は無理だ……」
神と向き合えないまま、首のロザリオから手を下ろす。
ユァンは修道士になって初めて、自室で行う早朝の祈りを放棄した。
時刻は4時、窓の外に広がる空にはまだ光が射さない。
ユァンと入れ替わりに小さな祭壇を前にしたバルトロメオは、ユァンよりずっと修道士らしく厳かな横顔で祈っていた。
身を清め、折り目の付いた修道服を身につけた彼は精悍で、すらりとしていて美しい。
心にはなんの曇りもないように見える。
まるでひと晩で立場が逆転してしまったようだった。
真面目な修道士と不真面目な修道士。
昨日までは前者がユァン、後者がバルトロメオだったのに。
けれども実際のところバルトロメオは相変わらずバルトロメオのままで、ユァンだけが昨日までの自分を見失っている。
昨夜は今まで感じたこともない幸福感に満たされていたのに、一夜明けてしまった今朝は、胸に後悔の念が渦巻き始めていた。
昨日犯した罪に対する罰が、すでに始まっているのか。
彼を受け入れた体の奥が、じくじくと膿むように痛んでいた。
「どうしたユァン、顔色が悪いんじゃないのか?」
いつの間にかバルトロメオが来て、ユァンの顔を覗き込んでいた。
「…………。なんでも」
契りを結んだ相手なのに、打ち明けられない。素直に甘えられない。
目の前にいるバルトロメオは、何ごともなかったかのようにすっきりした顔をしていた。
一緒に地獄に落ちようとまで言っていたバルトロメオは本当にこの人なんだろうか。
なんだか自分だけが夢を見て、夢の中での想いを持ち越してしまったような気がする。
「やっぱりつらそうだ。つらいならもう少し休んだ方が……」
「今日は日曜礼拝だから休めないよ」
彼の気遣いを素っ気なく突っぱねてしまった。
日曜礼拝は、地域の人々や観光客にも開放された表の大聖堂で行われる。
毎日の礼拝とは違い準備や移動があるので、日曜朝の修道院は慌ただしいのだ。
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