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第1章 バルトロメオ

第21話

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山羊小屋の敷きわらを熊手を使ってかき集め、ユァンは汗を拭う。

――何かあれば言うように。自分一人で解決しようとしてはいけない。

あの時シプリアーノ司教は、ユァンの肩を強くつかんで揺すった。

つかまれた感触がひと晩経っても残っていて不快だった。
ユァンはそれを振り切るように、何度か肩を回した。

司教は自分を信用していないんだろうか。
信用していればあんな触れ方、あんな念の押し方をするはずがない。

「どうした? ユァン」

振り返ると、新しい敷き藁を倉庫から担いできたバルトロメオがそれを下ろし、心配そうにこちらを見た。
まだ何も言わないうちに、彼が言い当ててくる。

「昨日の夜のことか?」
「……ええ。聞こえていたんでしょう? 司教のお話が」
「まあな。ユァンは俺と司教の間で、板挟みになるのが嫌なのか」

言ってからバルトロメオは「悪い」と短く付け加えた。
その顔は悪いと思っているけれど、致し方ないことだった、と言っているようにも聞こえる。

「こうなることが分かっていて、あなたは僕を指名したんでしょうに」

大きく熊手を使うユァンのそばで、バルトロメオは掻きにくそうに頭の後ろを掻いている。
そんな彼を見て、ユァンはここ数日ずっと聞けずにいた疑問を口にした。

「どうして僕を指名したんですか?」
「どうしてって、それはだな」

今度はバルトロメオの方が、考え込むような顔になる。

「見るからに美少年だったから」
「…………は?」

思わぬ答えに、反応が遅れた。

「び、しょう……ねん……僕が? そんなわけ! 髪も目の色もヘンなのに……それにこれでもハタチ過ぎていて」

「年齢はともかく。西側出身の俺から見たら、アンタは正統派の美少年だぞ? この国じゃ珍しい容姿なんだろうが」

そこまで言って、バルトロメオは気まずそうに咳払いをする。

「だからといって、そういう下心で近づいたんじゃない。わけあってのことだ」

(わけあって? つまりどういうこと?)

外では囲いに放った山羊たちが、いつものように日光浴をしている。
山羊小屋の中では、飼葉かいばの粉が窓からの光に白く照らされながら舞っていた。
建物から少し離れたこの場所に、人が近づいてくる気配はない。

集めた敷き藁の山をまたいできて、バルトロメオが口を開いた。

「すでにアンタを巻き込んでるんだ。この際だから、アンタにだけは俺の目的を言っておこう。ここの修道院長もうすうす勘づいているみたいだし……」

そういえばシプリアーノ司教も彼の真意を知りたがっていた。
それをバルトロメオはユァンにだけ打ち明けようというのか。
昼間の静かな山羊小屋に、緊張が走った。

「俺は、ある内偵捜査のためにここにいる」
「内偵捜査? じゃあ、視察っていうのは口実で……」

それが事実なら、彼がわざわざ身分を隠す理由としても頷ける。

「いったい何を……あなたは調べているんですか」
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