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第1章 バルトロメオ
第15話
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山羊小屋から十数頭の山羊を連れ、数百メートル先の牧草地まで足を伸ばす。
道の両脇は雑木林だ。
「ここまで来ると、本当に草と木しか見えないな」
バルトロメオが顎を持ち上げ、木々の向こうに見える高い空へ視線を向けた。
「手入れが行き届かなくて、この辺は雑草が生え放題ですからね。けど、山羊たちはそれぞれ好みがあるので、こういうのを好んで食べる子もいます。ほら、おいで?」
茂みの桑に夢中で集団から遅れている1頭を、ユァンが優しく呼んだ。
出産したばかりのユキとその子供たちは、今日は囲いの中で留守番している。
「そうだ、びわの木」
びわの木を見つけて枝を長めに折り取ると、バルトロメオが不思議そうに聞いてきた。
「それはどうするんだ?」
「ユキの好物なので、お土産に持って帰ります」
「お土産……」
不思議そうな顔のまま、オウム返しに繰り返される。
「帰りでもいいような気がするが」
「そう言われるとそうですが……ほら、山羊たちは好き勝手なところに行くので、帰りに同じ道を通れるかどうか」
最後尾の一頭を構っているうちに、先頭を行く数頭が道から外れ、茂みを突っ切ろうとしていた。
「仕方ない、ルート変更です」
取ったばかりのびわの枝で下草をよけながら、ユァンも茂みの中へ分け入る。
山羊たちはするすると茂みに入っていくが、人間の背丈だと、前から横から伸びる木の枝が邪魔だ。
(僕より大きいバルトさんはもっと歩きにくいよね?)
彼のためにも枝をぐいぐい押して道を広げて進んだけれど……。
ようやく広い場所に出て振り返って見ると、バルトロメオのドレッドヘアに銀色の糸が絡みついていた。
(く、蜘蛛の巣! バルトさんのかっこいい髪が!)
「ん、どうした?」
「ちょっとその、あの……」
自分のせいでこんなことになったのかと思うと、必要以上に焦ってしまう。
「ん?」
「あ、そのまま……」
バルトロメオが不思議そうに顔を近づけてきたので、屈んでもらい髪の蜘蛛の糸に手を伸ばした。
(この髪型は、一本一本を編んで作るのが大変そう。それに洗うのも大変かも?)
ドキドキしながら髪に触れ、慎重に蜘蛛の糸だけを取り去る。
ふと髪から顔に目線を落とすと、彼の方も緊張の面持ちだった。
「もう少しだけ待ってくださいね?」
彼の髪から取った蜘蛛の糸を自分の指に絡ませながら、他にもないか入念にチェックする。
(よし、大丈夫! 元通りのかっこいいバルトさんだ)
「もう大丈夫ですよ」
取った蜘蛛の糸を見せながら伝えると、彼はおもむろにその手に触れてきた。
「ありがとう、だが、この手は」
笑いながら彼は、ユァンの指についた蜘蛛の糸をこすり落とす。
(あ……)
指の太さも長さも全然違って、サイズが違うのは身長だけじゃないんだと驚いた。
ザラザラした指紋の手触りにも、彼の男っぽさを感じる。
(どうしよう、こんな……)
目の縁からびっしりと生えた黒いまつげに視線が行った。
その目はユァンの手元へ、真剣に注がれている。
「よし、オーケーだ」
「え……?」
「蜘蛛の巣、取れたぞ?」
手元に落とされていた目がこっちを向いて、近い距離で目が合った。
「……!」
「…………」
彼の目が微笑みの形に細められる。
「……ああっ、山羊、追いかけないと」
微笑み返すこともできずに、ユァンはバルトロメオから目を逸らした。
道の両脇は雑木林だ。
「ここまで来ると、本当に草と木しか見えないな」
バルトロメオが顎を持ち上げ、木々の向こうに見える高い空へ視線を向けた。
「手入れが行き届かなくて、この辺は雑草が生え放題ですからね。けど、山羊たちはそれぞれ好みがあるので、こういうのを好んで食べる子もいます。ほら、おいで?」
茂みの桑に夢中で集団から遅れている1頭を、ユァンが優しく呼んだ。
出産したばかりのユキとその子供たちは、今日は囲いの中で留守番している。
「そうだ、びわの木」
びわの木を見つけて枝を長めに折り取ると、バルトロメオが不思議そうに聞いてきた。
「それはどうするんだ?」
「ユキの好物なので、お土産に持って帰ります」
「お土産……」
不思議そうな顔のまま、オウム返しに繰り返される。
「帰りでもいいような気がするが」
「そう言われるとそうですが……ほら、山羊たちは好き勝手なところに行くので、帰りに同じ道を通れるかどうか」
最後尾の一頭を構っているうちに、先頭を行く数頭が道から外れ、茂みを突っ切ろうとしていた。
「仕方ない、ルート変更です」
取ったばかりのびわの枝で下草をよけながら、ユァンも茂みの中へ分け入る。
山羊たちはするすると茂みに入っていくが、人間の背丈だと、前から横から伸びる木の枝が邪魔だ。
(僕より大きいバルトさんはもっと歩きにくいよね?)
彼のためにも枝をぐいぐい押して道を広げて進んだけれど……。
ようやく広い場所に出て振り返って見ると、バルトロメオのドレッドヘアに銀色の糸が絡みついていた。
(く、蜘蛛の巣! バルトさんのかっこいい髪が!)
「ん、どうした?」
「ちょっとその、あの……」
自分のせいでこんなことになったのかと思うと、必要以上に焦ってしまう。
「ん?」
「あ、そのまま……」
バルトロメオが不思議そうに顔を近づけてきたので、屈んでもらい髪の蜘蛛の糸に手を伸ばした。
(この髪型は、一本一本を編んで作るのが大変そう。それに洗うのも大変かも?)
ドキドキしながら髪に触れ、慎重に蜘蛛の糸だけを取り去る。
ふと髪から顔に目線を落とすと、彼の方も緊張の面持ちだった。
「もう少しだけ待ってくださいね?」
彼の髪から取った蜘蛛の糸を自分の指に絡ませながら、他にもないか入念にチェックする。
(よし、大丈夫! 元通りのかっこいいバルトさんだ)
「もう大丈夫ですよ」
取った蜘蛛の糸を見せながら伝えると、彼はおもむろにその手に触れてきた。
「ありがとう、だが、この手は」
笑いながら彼は、ユァンの指についた蜘蛛の糸をこすり落とす。
(あ……)
指の太さも長さも全然違って、サイズが違うのは身長だけじゃないんだと驚いた。
ザラザラした指紋の手触りにも、彼の男っぽさを感じる。
(どうしよう、こんな……)
目の縁からびっしりと生えた黒いまつげに視線が行った。
その目はユァンの手元へ、真剣に注がれている。
「よし、オーケーだ」
「え……?」
「蜘蛛の巣、取れたぞ?」
手元に落とされていた目がこっちを向いて、近い距離で目が合った。
「……!」
「…………」
彼の目が微笑みの形に細められる。
「……ああっ、山羊、追いかけないと」
微笑み返すこともできずに、ユァンはバルトロメオから目を逸らした。
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