11 / 115
第1章 バルトロメオ
第11話
しおりを挟む
(ブラザー?)
ブラザーと呼ぶのなら、彼も同じ神に仕える修道士なのだろう。
しかも教会組織のトップ、法王庁から来たという。
昨夜は確かミリタリージャケットの前をはだけた大胆な格好をしていて、とても聖職者には見えなかった。
だがいま彼はシックな黒の修道服を、意外に自然に着こなしている。
容姿からして修道士にしては目立ちすぎるのだが、フードの肩へ軽やかに下ろされたドレッドヘアなどは、むしろ小慣れて見えるから不思議だ。
年はいくつくらいなんだろうか。
悠然と歩み寄ってくる彼を見ながら考える。
精悍な顔立ちは完成された大人を感じさせるが、肌の質感はおそらくまだ20代。
清貧をむねとする修道士にはあまりない、生き生きとした華やかさがあった。
彼はユァンの目の前まで来て立ち止まる。
「ユァンか。バルトロメオだ」
側に来るとやはり大きい。圧倒されながら見ていると、引き締まった口角が日焼けした頬に食い込んだ。
引き込まれるような笑顔だった。
口角をほんの1、2ミリ持ち上げただけで、どうしてこんなにいい笑顔が作れるのか。
ユァンには分からない。
ただ彼に、自分とは違う器の大きさを感じた。
「……はっ、すみません」
彼の右手が握手を求める形で止まっていることに気づく。
慌てて利き手を差しだすと、大きな手がぐっと寄ってユァンのそれをつかんだ。
彼の生命力が、腕を伝って頬まで流れ込んでくる気がする。
「司教と話して、君に世話になることになった」
(……えっ?)
ブラザー・バルトロメオの言葉に、ユァンは慌ててシプリアーノ司教を見た。
本来ならユァンは、大切な客を任されるような身分ではない。
見習い期間は終えているが、年が若いこともあってここでの実質的な席次は下から数えた方が早かった。
普段与えられる仕事もほぼ雑用だ。
ところがシプリアーノ司教は、ユァンからの戸惑いの視線にはっきりと頷いてみせる。
「彼はこの修道院の日々の様子を、ありのままに見たいと言っていてね。視察という大げさな形は取りたくないそうだ。そこで修道士見習いとして、しばらくここに籍を置いてもらうことになった」
「え……見習い?」
ユァンは振り返っていた首を戻し、もう一度ブラザー・バルトロメオを見た。
成人男性が見習いとして修道院に入ることは、別に珍しいことじゃない。
神学校出身者でもない限り、誰でも見習いからなのだ。
けれど彼は……ユァンの目には、とても見習いには見えなくて戸惑った。
ユァンよりよっぽど威厳と落ち着きがあるわけだから。
(司教の下に置くならともかく、こんな人が僕の下なんて無理がある……)
だからといってユァンは、司教の申し出を拒否できるような身分でもない。
戸惑いの視線を2人へ交互に投げかけることしかできなかった。
ブラザーと呼ぶのなら、彼も同じ神に仕える修道士なのだろう。
しかも教会組織のトップ、法王庁から来たという。
昨夜は確かミリタリージャケットの前をはだけた大胆な格好をしていて、とても聖職者には見えなかった。
だがいま彼はシックな黒の修道服を、意外に自然に着こなしている。
容姿からして修道士にしては目立ちすぎるのだが、フードの肩へ軽やかに下ろされたドレッドヘアなどは、むしろ小慣れて見えるから不思議だ。
年はいくつくらいなんだろうか。
悠然と歩み寄ってくる彼を見ながら考える。
精悍な顔立ちは完成された大人を感じさせるが、肌の質感はおそらくまだ20代。
清貧をむねとする修道士にはあまりない、生き生きとした華やかさがあった。
彼はユァンの目の前まで来て立ち止まる。
「ユァンか。バルトロメオだ」
側に来るとやはり大きい。圧倒されながら見ていると、引き締まった口角が日焼けした頬に食い込んだ。
引き込まれるような笑顔だった。
口角をほんの1、2ミリ持ち上げただけで、どうしてこんなにいい笑顔が作れるのか。
ユァンには分からない。
ただ彼に、自分とは違う器の大きさを感じた。
「……はっ、すみません」
彼の右手が握手を求める形で止まっていることに気づく。
慌てて利き手を差しだすと、大きな手がぐっと寄ってユァンのそれをつかんだ。
彼の生命力が、腕を伝って頬まで流れ込んでくる気がする。
「司教と話して、君に世話になることになった」
(……えっ?)
ブラザー・バルトロメオの言葉に、ユァンは慌ててシプリアーノ司教を見た。
本来ならユァンは、大切な客を任されるような身分ではない。
見習い期間は終えているが、年が若いこともあってここでの実質的な席次は下から数えた方が早かった。
普段与えられる仕事もほぼ雑用だ。
ところがシプリアーノ司教は、ユァンからの戸惑いの視線にはっきりと頷いてみせる。
「彼はこの修道院の日々の様子を、ありのままに見たいと言っていてね。視察という大げさな形は取りたくないそうだ。そこで修道士見習いとして、しばらくここに籍を置いてもらうことになった」
「え……見習い?」
ユァンは振り返っていた首を戻し、もう一度ブラザー・バルトロメオを見た。
成人男性が見習いとして修道院に入ることは、別に珍しいことじゃない。
神学校出身者でもない限り、誰でも見習いからなのだ。
けれど彼は……ユァンの目には、とても見習いには見えなくて戸惑った。
ユァンよりよっぽど威厳と落ち着きがあるわけだから。
(司教の下に置くならともかく、こんな人が僕の下なんて無理がある……)
だからといってユァンは、司教の申し出を拒否できるような身分でもない。
戸惑いの視線を2人へ交互に投げかけることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
異世界で、初めて恋を知りました。(仮)
青樹蓮華
BL
カフェ&レストランで料理人として働く葉山直人(はやまなおと)24歳はある日突然異世界へ転生される。
異世界からの転生者は、付与された能力で国を救うとされているが...。自分の能力もわからない中、心の支えになったのは第二王子クリスと、第一騎士団団長アルベルト。
2人と共に行動をすることで徐々に互いに惹かれあっていく。だが、以前失恋したカフェ&レストランのオーナーがちらつき一歩踏み出せずにいる。
♯異世界溺愛系BLストーリー
⭐︎少しでも性的描写が含まれる場合タイトルに『※』がつきます。
読まなくてもストーリーが繋がるよう努めますので苦手な方はご遠慮ください。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
獅子帝の宦官長
ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。
苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。
強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受
R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。
2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました
電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/
紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675
単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております
良かったら獅子帝の世界をお楽しみください
ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる