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第1章 バルトロメオ
第9話
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「いたいた、ユァン。お前、修道院長に呼ばれてるぞ」
ルカとは宿舎の部屋が同室で、人と話すのが苦手なユァンも、彼とは話せるようになっていた。
ユァンは振り返り、そばかすのある彼の顔を見つめる。
ルカは小柄で年より子供っぽく見えるが、その切れ長の目には物怖じしない強さがある。
「司教さまが僕を?」
聞き返したが、ユァンには呼ばれる心当たりがなかった。
付属の養護院に入りたての頃は、そこを取り仕切っていたシプリアーノ司教が何かと目をかけてくれたものだ。
けれどもいち修道士としてここに所属する身となった今、修道院長は雲の上の人。
話す機会はあまりない。
「お前、何かやらかしたのか?」
冗談めかしてルカが聞いてきた。
「いや、まさか! でも、えーと……」
昨夜見たことを、自分の胸の中だけに収めようとした矢先だ。
そのことを咎められるのではと思い当たり、焦ってしまう。
「ええっ、どっちだよ」
「分からない……」
「分からないって、変なやつだな」
ルカは一瞬だけ不安そうな顔をしたけれど、それ以上何も言うつもりはないらしい。
口の端に薄い笑みを浮かべ、踵を返した。
「……まあ、気をつけろよ?」
「え……?」
なんのことか分からずにユァンは聞き返す。
「いや、なんでもない」
ルカはこっちを向かずに背中越しに片手だけを挙げ、行ってしまった。
何はともあれ、ユァンも行かなければならない。
朝の礼拝での説教を終えた修道院長は、自分の執務室に戻っている頃だろう。
ユァンは方向転換し、そちらへ向かった。
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「司教さまが僕を?」
聞き返したが、ユァンには呼ばれる心当たりがなかった。
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「お前、何かやらかしたのか?」
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口の端に薄い笑みを浮かべ、踵を返した。
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「え……?」
なんのことか分からずにユァンは聞き返す。
「いや、なんでもない」
ルカはこっちを向かずに背中越しに片手だけを挙げ、行ってしまった。
何はともあれ、ユァンも行かなければならない。
朝の礼拝での説教を終えた修道院長は、自分の執務室に戻っている頃だろう。
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