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2章:紫色のチェ・ゲバラTシャツ
第2話
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「いやいや! 社長といち従業員が理由もなく一緒に住むなんて、周りから変に思われるでしょう」
ただでさえ僕は相楽さんに特別扱いされていて、事務所での居心地が悪かった。
そこのところを、相楽さんも理解してくれていい気がする。
「ふうん、ミズキは俺と変な関係に思われたくないのか」
相楽さんが僕を見つめ、挑戦的な笑みを浮かべた。
「ミズキの思う変な関係って何? 愛人関係? それとも殿様と小姓みたいな? エロい小説なんかでもあるよなあ、組織での出世を餌に春を買うって」
「えっ、え……えーと!?」
大股で近づいてくる相楽さんに、壁際まで追い詰められる。
ペットボトルの結露で濡れた彼の指が、僕の頬をつうっとなぞった。
「……案外、そういうのも楽しいかもなあ」
「た、た、楽しくありませんよ、僕は!」
力いっぱい否定すると、間近に迫っていたその顔が、どこか寂しげに歪んだ。
(え……?)
もしかして傷つけてしまったのではないかと思い、焦ってしまう。
「す、すいません。相楽さんのことが嫌いとかじゃなくて。お金とか権力とかでそういう関係になるのは、よくないって意味で……」
「ってことはミズキとしては、純粋な恋愛関係ならアリなんだよな?」
一旦外れた相楽さんの視線が、またこっちに戻ってきた。
「い、いや! それもマズイでしょう、社長と従業員なんですから、社会的に!」
慌てて答えてから、僕はあれっと思う。
「っていうか、話がズレてません? いま必要なのは家にいてくれて家事ができる人なんですよね? そういう相手さえ見つければ、僕はいらない気が……」
すると相楽さんは、僕の前髪をいじりながらポツリと答えた。
「俺はミズキがいいんだ。ミズキは頭がよくてデザインもできるし。言うことはちゃんと言ってくれて、それでいて真面目で大人な性格をしてる。女なんかより、全然いい」
「それが……僕と住みたい理由ですか?」
そんなふうに評価してくれているとは思わなくて、平静を装いながらも胸がざわつく。
「あと……」
「あと?」
相楽さんは僕の前髪から手を離し、首から下へ視線を向けた。
「……いや、やっぱいい」
「なんですか、気になるじゃないですか!」
褒められて舞い上がってしまった勢いで、追求の言葉が強くなる。
「そんなに聞きたいのか? 言わない方がいいかと思ったのに」
相楽さんが壁にひじを突き、僕の肩に顎を乗せた。
「……っ?」
近すぎる距離に、心臓がきゅっと縮こまる。
「あと、もうひとつの理由は……」
(理由、は……)
ドキドキしながら、僕は言葉の続きを待った。
「ミズキなら、抱いてもいいと思ったから」
(え――?)
僕の肩に顎を乗せている、相楽さんの表情は分からない。
ただその声はどこか強ばっていて、冗談を言っているようには聞こえなかった。
「さ、相楽さん、あのっ……!」
肩の上で、相楽さんが息をつく。
その吐息にさえ反応して、僕の体はビクッと震えた。
(ど、どうしよう!)
こういう時の対処法が分からない。
この人から離れたいのに、多分真っ赤になっている顔を見られたくないから突き放せなかった。
「……ちゃんと息してるか?」
しばらくして、相楽さんが笑いながら体を離した。
顔を覗き込まれ、かえって息が止まる。
「そんな顔すんなよ、なにも無理やり犯そうとかじゃない。できるかできないかっていったら、できそうだなって思っただけ」
「掃除も洗濯もできない人が、何言ってるんですか……」
彼に背を向けて、額から吹き出してきた汗を拭く。
洗濯物を拾い集めていたカゴは、いつの間にか足下に横倒しになっていた。
相楽さんの飲みかけのペットボトルも、テーブルの上に結露の輪を作っている。
(僕たち、何してるんだろ……)
「とにかくさ、ミズキ」
背中の向こうから話しかけられた。
「お前のこと、俺は手放したくはないんだ。どんな関係にしろ、上手くやっていこう」
相楽さんは僕の肩をポンと叩き、洗面所の方へ消えていった。
*
ただでさえ僕は相楽さんに特別扱いされていて、事務所での居心地が悪かった。
そこのところを、相楽さんも理解してくれていい気がする。
「ふうん、ミズキは俺と変な関係に思われたくないのか」
相楽さんが僕を見つめ、挑戦的な笑みを浮かべた。
「ミズキの思う変な関係って何? 愛人関係? それとも殿様と小姓みたいな? エロい小説なんかでもあるよなあ、組織での出世を餌に春を買うって」
「えっ、え……えーと!?」
大股で近づいてくる相楽さんに、壁際まで追い詰められる。
ペットボトルの結露で濡れた彼の指が、僕の頬をつうっとなぞった。
「……案外、そういうのも楽しいかもなあ」
「た、た、楽しくありませんよ、僕は!」
力いっぱい否定すると、間近に迫っていたその顔が、どこか寂しげに歪んだ。
(え……?)
もしかして傷つけてしまったのではないかと思い、焦ってしまう。
「す、すいません。相楽さんのことが嫌いとかじゃなくて。お金とか権力とかでそういう関係になるのは、よくないって意味で……」
「ってことはミズキとしては、純粋な恋愛関係ならアリなんだよな?」
一旦外れた相楽さんの視線が、またこっちに戻ってきた。
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「それが……僕と住みたい理由ですか?」
そんなふうに評価してくれているとは思わなくて、平静を装いながらも胸がざわつく。
「あと……」
「あと?」
相楽さんは僕の前髪から手を離し、首から下へ視線を向けた。
「……いや、やっぱいい」
「なんですか、気になるじゃないですか!」
褒められて舞い上がってしまった勢いで、追求の言葉が強くなる。
「そんなに聞きたいのか? 言わない方がいいかと思ったのに」
相楽さんが壁にひじを突き、僕の肩に顎を乗せた。
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(え――?)
僕の肩に顎を乗せている、相楽さんの表情は分からない。
ただその声はどこか強ばっていて、冗談を言っているようには聞こえなかった。
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肩の上で、相楽さんが息をつく。
その吐息にさえ反応して、僕の体はビクッと震えた。
(ど、どうしよう!)
こういう時の対処法が分からない。
この人から離れたいのに、多分真っ赤になっている顔を見られたくないから突き放せなかった。
「……ちゃんと息してるか?」
しばらくして、相楽さんが笑いながら体を離した。
顔を覗き込まれ、かえって息が止まる。
「そんな顔すんなよ、なにも無理やり犯そうとかじゃない。できるかできないかっていったら、できそうだなって思っただけ」
「掃除も洗濯もできない人が、何言ってるんですか……」
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