1 / 1
チーターとハゲタカ
しおりを挟む
チーターくんはあしがとってもはやいので、いつもゆうびんをはいたつしています。
そうげんをあっちにいったり、こっちにいったり。
「きょうはライオンさんさんからヒョウさんへ」
「きょうはひつじさんからやぎさんへ」
とってもいそがしいまいにち。
がんばってはたらいても、あんまりおきゅうりょうはもらえません。
「いちにちじゅうはしりまわっているのになぁ」
いっぽう、ライオンさんは、あんまりはたらかずにいいくらしをしているようにみえます。
それをみたチーターくんは、ついついおこってしまいます。
「ぼくはこんなにくろうしているのに!」
ディナーのとき、テーブルにのったおさらをみて、チーターくんはためいきをつきました。
「こんなちいさなステーキじゃなくて、もっとおおきなおにくがたべたいよ!」
***
あるひ、チーターくんがはいたつのあいまにこかげでやすんでいると、きのうえからこえがしました。
「こまっているんですかい? ヒッヒッヒ」
「ん?」
チーターくんがうえをみあげると、いちわのハゲタカがとまっていました。
「いったいぼくになんのよう?」
チーターくんがけげんなかおでたずねました。
「あなた、しごとにおわれるまいにちにうんざりしていますね?」
「えっ!? まあ、ちがうとはいえないな~」
「いいあんがありますよ。ヒッヒッヒ」
そういいながら、ハゲタカはチーターくんのよこにおりてきました。
「これは、とてもめずらしい“すべすべいし”です。これをそうげんのみんなにおうりなさい。めずらしいからたかねでうれますよ。ヒッヒッヒ」
ハゲタカにわたされたいしはたしかにすべすべしています。それに、あおやみどり、あかと、いろんないろをしていました。
「へ~、これはきれいだねぇ。でも、これをただでもらうのはもうしわけないなぁ」
「ヒッヒッヒ! だいじょうぶ!」
ハゲタカはいいました。
「あなたがうったおかねのはんぶんをもらえればよいのです。どうです?」
「そうはいってもねぇ……」
チーターくんは、てのひらのいしと、よこにつんであるゆうびんぶつをみくらべながらまよいました。
すると、ハゲタカはもどかしげにいいました。
「いましかないですよ! このすべすべいしをうるけんりをてにいれられるのは!」
そうしてそらにとびあがってあいずをすると、きのうえからはハゲタカたちがおおぜいとびだしてきたのです。
「わぁ! そんなにいたのか!」
おどろくチーターくんをしりめに、ハゲタカたちはそらにうたいました。
いましかない!
いましかない!
このチャンスをてにいれられるのは!
きみしかいない!
きみしかいない!
このチャンスをものにできるのは!
まいにちまいにち
おしごとばかり
ライオンをみろ!
あいつはのんびりいきている!
くやしくないのか?
みかえしてやりたくないのか??
「た、たしかにみかえしてやりたいよ! でも、きれいだけれど、これはただのいしでしょう?」
チーターくんはハゲタカのがっしょうにおされながらもそうたずねました。
いいんだよ!
いいんだよ!
かいてがそれでいいのなら!
つまらないものも!
くだらないものも!
ほしけりゃたかねでうってやれ!
いいんだよ!
いいんだよ!
ちょっとくらいうそつきでも!
おかねのないしょうじきものより
おかねもちのうそつきのことばを
みんなありがたがるものさ!
「そ、そう? そこまでいうのなら、ぼく、やってみるよ!」
チーターくんはそういって、ハゲタカにもらった“すべすべいし”をたくさんかかえてそうげんをはしっていきました。
ハゲタカたちは、チーターくんがみえなくなったあと、チーターくんがおいていったゆうびんぶつをてにとりました。
そして、それをびりびりにやぶきはじめたのです。
かかったぞ!
かかったぞ!
おろかなチーターがわなにかかった!
これではいたつのしごとにはもどれまい!
うたのつづきをさけびます。
だまされた!
だまされた!
そうさ、あれはただのいしころ。
な~んのかちもありゃしない。
でも、みんながそれにきづいたときにゃ、おれたちゃいない。
だっておれたちゃとべるもの!
どこかとおくへにげるもの!
とべないおまえがただひとり、わるものになるのさ!
ライオンにでもくわれるがいい! ヒ~ッヒッヒ~!!
***
ハゲタカたちのわるだくみとはつゆしらず、チーターくんはみんなにすべすべいしをうっていきました。
「これはね、めずらしくてとってもかちのあるいしなんです」
「これをかって、もっておきなさいよ。いまにねがにばいさんばいにもなるんです」
「ゆうびんぶつ? そんなものはありませんよ、ぼくはすべすべいしのしょうにんになったんですから……」
ひつじさんややぎさん、ひょうさんと、そうげんのみんなにいしがいきわたったとき、チーターくんのさいふはパンパンになっていました。
「わっすごい! これならはんぶんをハゲタカさんにはらっても、はんとしはこまらないぞ!」
チーターくんはおもわずぴょんぴょんはねながらそうげんをあるいています。
ふと、むこうにおおあくびをするライオンがみえました。
「あ、ライオンさんだ! おかねもちのライオンさんには、ふつうのひとのさんばいのねだんでうってやろう!」
そこでチーターくんは、じぶんがへいきでひとをだまそうとしていることにはじめてきづきました。そして、あわててじぶんにいいきかせたのです。
「いいんだよ! おかねもちがおかねをつかってくれなきゃね! これはみんなのためにもなるんだ!」
そしてライオンのまえにいくと、チーターくんはいいました。
「ライオンさんライオンさん、すべすべいしをかいませんか? とってもめずらしくて、かちのあるものなんですよ!」
しかしライオンはそのいしをちらりとみて、そっけなくいいました。
「えんりょしておくよ」
「えっ? こんなにかちがあるものなのに?」
「かちっていうのはね、うりてじゃなくてかいてがきめるものなんだ。そのいしはたしかにきれいだが、たべられるわけでもないし、おなかをあたためてくれるものでもない」
「そんなぁ……」
チーターくんはしょんぼりとライオンのもとからたちさりました。
「けっ! まったく、かねもちってやつはこれだからいやなんだ! あいつらさえいなきゃあみんなしあわせになれるのに……!」
そうぐちをいいながら、ハゲタカのいるきへとあるいていきました。
「ヒッヒッヒ! こんなにもうけたんですかい! いやすごいね、チーターくん」
「えっへん!」
「じゃあはんぶんはもらうことにして、はんぶんはあなたにあげましょう」
「ありがとう!」
「じゃあ、ワシらはこれで」
「えっ? もうすべすべいしはないの? もっともっとうれるのに……」
「そんなにほしいか? じゃあ、ほんとうはワシらのぶんなんだが、のこりのすべすべいしをうってあげよう。そのかわり、もうはんぶんとひきかえだよ」
チーターくんはまよいました。ハゲタカたちからのこりのすべすべいしをもらうには、いまのじぶんのわけまえも、てばなさなければならないからです。
でも、チーターくんはかんがえました。
(かったすべすべいしをうればまたもうかるし、そのときはぜんぶじぶんのもうけになるんだ!)
「じゃあ、そうしうよう!」
ハゲタカたちはてもちのすべすべいしをぜんぶチーターくんにあげると、そらのむこうにとびたっていきました。
***
ハゲタカたちがとびさってすこししたあと、わたりどりたちがそうげんにやってきました。わたりどりたちは、いちねんえおかけて、とおくとおくへたびをしているのです。
そうげんのどうぶつたちは、チーターからもらったすべすべいしをこぞってわたりどりにじまんしにきました。
「これ、みてよ。きれいでしょう?」
「わたしのはむらさきなの」
「あら、わたしのはピンクですよ」
しかし、わたりどりたちはあきれたかおをしていいました。
「それ、かわらにおちているただのいしじゃないか。いったいいくらでかったんだい?」
みんなはふあんそうなかおになると、チーターくんにはらったきんがくをいいました。すると、わたりどりはもっとあきれがおになりました。
「あらら、おくさん。そりゃあだまされているよ。おきのどくさま」
そうげんのどうぶつたちはおこりました。そして、こかげでやすんでいたチーターくんをみつけると、にがさないようにとりかこんだのです。
いっぽう、なにもしらないチーターくんは、びっくりしたかおをしていいました。
「みなさん、いったいどうしたっていうんです?」
「あなたがうったすべすべいしね! ただどうぜんみたいじゃない!」
「どうしてくれるの、このさぎし!」
「おかねはかえしてくれるんでしょうね!?」
チーターくんはなにがなんだかわかりません。チーターくんは、ハゲタカのことばをすっかりしんじていたからです。
すべすべいしがそうげんではめずらしいだけで、かわらにはそこかしこにあるということをきいて、チーターくんはがくぜんとしました。
「そんな……」
でも、おかねをはらいもどそうにも、もうおかねはありません。けっきょくぜんぶハゲタカたちにわたしてしまったからです。
ふるえるこえでそのことをうちあけると、そうげんのどうぶつたちのいかりはちょうてんにたっしました。
そして、みんなでチーターくんをしばりあげると、
「ライオンさんにさいばんをしてもらおう!」
といって、ライオンのもとへひきずっていったのです。
***
「いったいどうしたんだ? みなものもの……」
ライオンはさいしょはおどろいていましたが、みなからじじょうをきくと、すべてをさとったようにいいました。
「やはりな、チーター。おまえがいちばんだまされていたのだよ……」
「ぼく……ぼく……。とんでもないことをしてしまいました……」
チーターくんはそういうと、しくしくなきはじめました。
「ひあぶりだ!」
「ハイエナにくってもらおう!」
そうげんのどうぶつたちがいかりのこえをあげます。
チーターくんは、じぶんのいのちがのこりすくないとおもって、いっそうなみだをながしはじめました。
いっぽうライオンはしずかにチーターくんとほかのどうぶつたちをながめたあと、こういいました。
「よし、みなのもの。このチーターをひあぶりにしよう」
「よし!」
「そうこなくっちゃ!」
どうぶつたちがかんせいをあげます。チーターくんはまっさおになってしまいました。
しかし、ライオンはつづけました。
「だが、そのまえにおしえてくれ。ひつじ、やぎ、そのほかこのすべすべいしでおかねをうしなったすべてのものたちよ。このチーターをひあぶりにすれば、そのおかねがもどってくるのかね?」
そのことばに、いっしゅんでねっきょうはきえさりました。みんなひそひそごえでそうだんしています。
ライオンはさらにいいました。
「このチーターをひあぶりにすることも、すべすべいしにおかねをはらうことも、おなじことだとなぜきづかないのかね?」
みんな、きまずそうにかおをうつむけました。しずかになったあと、ライオンはチーターくんにいいました。
「チーターよ。おまえだけがおろかものだったわけではない。しかし、おまえがことのほったんなのだから、つぐないをしなさい」
そして、ふたたびどうぶつたちにかおをむけました。
「みなのもの。このおろかなチーターにもういちどチャンスをやってくれまいか? このものは、すべすべいしをうるまえはきちんとゆうびんぶつをはこんでいたではないか?」
ひつじたちはすこしだまっていましたが、やがてくちぐちにいいました。
「あしのはやいあんたにやってもらいたいしごとがあるよ」
「そくたつをはこんでくれ!」
「ハイエナどものみはりをすこしかわってくれ!」
チーターくんはいわれたしごとを、すべてうけることにしました。
***
すうかげつがたったころ、チーターくんはようやくみんなからのしんらいをとりもどしました。
いまは、ゆうびんぶつをはこぶだけではなく、いろいろなしごとをこなせるようになりました。そしてそのぶん、かせぎもすこしはよくなりました。
いそがしくそうげんをはしりまわっていたとき、ライオンがまたおおあくびをしているところにでくわしました。
チーターくんはおずおずと近づくと、ライオンにはなしかけました。
「あの……ライオンさん、あのときはぼくのいのちをたすけていただいてありがとうございました……」
「きにせんでいい」
いまでは、これまでたかびしゃだとおもっていたライオンのそっけなさに、ふかいやさしさをかんじられるようになっていました。
「ぼく、そうげんでがんばります!」
そういってたちさろうとするチーターくんを、ライオンがよびとめました。
「チーターや。おかねをかせごうとするまえに、じぶんはほんとうにいくらひつようなのかをよくかんがえなさい。それにきづければ、わけもわからずあくせくうごきまわることもなくなる。もっとおおらかにじんせいをたのしむことができるよ」
「はい!!」
チーターくんはにっこりといいました。
チーターくんはもう、ひとをだますざいあくかんにさいなまれることもなければ、ひびにふまんやふあんをかんじることもなくなっていました。
みんなのやくにたってかせいだおかねで、くらすことができるようになったからです。
きょうも、チーターくんはそうげんをはしりまわります。げんきに、のびのびと。
「ただいま!」
チーターくんが、ひろいそうげんにむかってさけびました。
***
エピローグ
すべすべいしじけんからいちねんがたったころ、ライオンがそうげんのどうぶつたちみんなをディナーにしょうたいしました。もちろん、チーターくんもネクタイをしてさんかしています。
「いったいどうしたんだろうね、ライオンさん」
「きょうはなにかのきねんびだったっけ?」
ざわめくかいじょうのステージに、ライオンがたちました。
「きょうはよくきてくれたね、しょくん。さっそくだが、きょうのメインデッシュをごしょうかいしよう!」
そういってライオンがゆびさしたさきには、まるやきになったハゲタカが、なんばもおさらにならんでいました。
「さあ、とられたおかねをかえしてもらおうぞ」
そうげんをあっちにいったり、こっちにいったり。
「きょうはライオンさんさんからヒョウさんへ」
「きょうはひつじさんからやぎさんへ」
とってもいそがしいまいにち。
がんばってはたらいても、あんまりおきゅうりょうはもらえません。
「いちにちじゅうはしりまわっているのになぁ」
いっぽう、ライオンさんは、あんまりはたらかずにいいくらしをしているようにみえます。
それをみたチーターくんは、ついついおこってしまいます。
「ぼくはこんなにくろうしているのに!」
ディナーのとき、テーブルにのったおさらをみて、チーターくんはためいきをつきました。
「こんなちいさなステーキじゃなくて、もっとおおきなおにくがたべたいよ!」
***
あるひ、チーターくんがはいたつのあいまにこかげでやすんでいると、きのうえからこえがしました。
「こまっているんですかい? ヒッヒッヒ」
「ん?」
チーターくんがうえをみあげると、いちわのハゲタカがとまっていました。
「いったいぼくになんのよう?」
チーターくんがけげんなかおでたずねました。
「あなた、しごとにおわれるまいにちにうんざりしていますね?」
「えっ!? まあ、ちがうとはいえないな~」
「いいあんがありますよ。ヒッヒッヒ」
そういいながら、ハゲタカはチーターくんのよこにおりてきました。
「これは、とてもめずらしい“すべすべいし”です。これをそうげんのみんなにおうりなさい。めずらしいからたかねでうれますよ。ヒッヒッヒ」
ハゲタカにわたされたいしはたしかにすべすべしています。それに、あおやみどり、あかと、いろんないろをしていました。
「へ~、これはきれいだねぇ。でも、これをただでもらうのはもうしわけないなぁ」
「ヒッヒッヒ! だいじょうぶ!」
ハゲタカはいいました。
「あなたがうったおかねのはんぶんをもらえればよいのです。どうです?」
「そうはいってもねぇ……」
チーターくんは、てのひらのいしと、よこにつんであるゆうびんぶつをみくらべながらまよいました。
すると、ハゲタカはもどかしげにいいました。
「いましかないですよ! このすべすべいしをうるけんりをてにいれられるのは!」
そうしてそらにとびあがってあいずをすると、きのうえからはハゲタカたちがおおぜいとびだしてきたのです。
「わぁ! そんなにいたのか!」
おどろくチーターくんをしりめに、ハゲタカたちはそらにうたいました。
いましかない!
いましかない!
このチャンスをてにいれられるのは!
きみしかいない!
きみしかいない!
このチャンスをものにできるのは!
まいにちまいにち
おしごとばかり
ライオンをみろ!
あいつはのんびりいきている!
くやしくないのか?
みかえしてやりたくないのか??
「た、たしかにみかえしてやりたいよ! でも、きれいだけれど、これはただのいしでしょう?」
チーターくんはハゲタカのがっしょうにおされながらもそうたずねました。
いいんだよ!
いいんだよ!
かいてがそれでいいのなら!
つまらないものも!
くだらないものも!
ほしけりゃたかねでうってやれ!
いいんだよ!
いいんだよ!
ちょっとくらいうそつきでも!
おかねのないしょうじきものより
おかねもちのうそつきのことばを
みんなありがたがるものさ!
「そ、そう? そこまでいうのなら、ぼく、やってみるよ!」
チーターくんはそういって、ハゲタカにもらった“すべすべいし”をたくさんかかえてそうげんをはしっていきました。
ハゲタカたちは、チーターくんがみえなくなったあと、チーターくんがおいていったゆうびんぶつをてにとりました。
そして、それをびりびりにやぶきはじめたのです。
かかったぞ!
かかったぞ!
おろかなチーターがわなにかかった!
これではいたつのしごとにはもどれまい!
うたのつづきをさけびます。
だまされた!
だまされた!
そうさ、あれはただのいしころ。
な~んのかちもありゃしない。
でも、みんながそれにきづいたときにゃ、おれたちゃいない。
だっておれたちゃとべるもの!
どこかとおくへにげるもの!
とべないおまえがただひとり、わるものになるのさ!
ライオンにでもくわれるがいい! ヒ~ッヒッヒ~!!
***
ハゲタカたちのわるだくみとはつゆしらず、チーターくんはみんなにすべすべいしをうっていきました。
「これはね、めずらしくてとってもかちのあるいしなんです」
「これをかって、もっておきなさいよ。いまにねがにばいさんばいにもなるんです」
「ゆうびんぶつ? そんなものはありませんよ、ぼくはすべすべいしのしょうにんになったんですから……」
ひつじさんややぎさん、ひょうさんと、そうげんのみんなにいしがいきわたったとき、チーターくんのさいふはパンパンになっていました。
「わっすごい! これならはんぶんをハゲタカさんにはらっても、はんとしはこまらないぞ!」
チーターくんはおもわずぴょんぴょんはねながらそうげんをあるいています。
ふと、むこうにおおあくびをするライオンがみえました。
「あ、ライオンさんだ! おかねもちのライオンさんには、ふつうのひとのさんばいのねだんでうってやろう!」
そこでチーターくんは、じぶんがへいきでひとをだまそうとしていることにはじめてきづきました。そして、あわててじぶんにいいきかせたのです。
「いいんだよ! おかねもちがおかねをつかってくれなきゃね! これはみんなのためにもなるんだ!」
そしてライオンのまえにいくと、チーターくんはいいました。
「ライオンさんライオンさん、すべすべいしをかいませんか? とってもめずらしくて、かちのあるものなんですよ!」
しかしライオンはそのいしをちらりとみて、そっけなくいいました。
「えんりょしておくよ」
「えっ? こんなにかちがあるものなのに?」
「かちっていうのはね、うりてじゃなくてかいてがきめるものなんだ。そのいしはたしかにきれいだが、たべられるわけでもないし、おなかをあたためてくれるものでもない」
「そんなぁ……」
チーターくんはしょんぼりとライオンのもとからたちさりました。
「けっ! まったく、かねもちってやつはこれだからいやなんだ! あいつらさえいなきゃあみんなしあわせになれるのに……!」
そうぐちをいいながら、ハゲタカのいるきへとあるいていきました。
「ヒッヒッヒ! こんなにもうけたんですかい! いやすごいね、チーターくん」
「えっへん!」
「じゃあはんぶんはもらうことにして、はんぶんはあなたにあげましょう」
「ありがとう!」
「じゃあ、ワシらはこれで」
「えっ? もうすべすべいしはないの? もっともっとうれるのに……」
「そんなにほしいか? じゃあ、ほんとうはワシらのぶんなんだが、のこりのすべすべいしをうってあげよう。そのかわり、もうはんぶんとひきかえだよ」
チーターくんはまよいました。ハゲタカたちからのこりのすべすべいしをもらうには、いまのじぶんのわけまえも、てばなさなければならないからです。
でも、チーターくんはかんがえました。
(かったすべすべいしをうればまたもうかるし、そのときはぜんぶじぶんのもうけになるんだ!)
「じゃあ、そうしうよう!」
ハゲタカたちはてもちのすべすべいしをぜんぶチーターくんにあげると、そらのむこうにとびたっていきました。
***
ハゲタカたちがとびさってすこししたあと、わたりどりたちがそうげんにやってきました。わたりどりたちは、いちねんえおかけて、とおくとおくへたびをしているのです。
そうげんのどうぶつたちは、チーターからもらったすべすべいしをこぞってわたりどりにじまんしにきました。
「これ、みてよ。きれいでしょう?」
「わたしのはむらさきなの」
「あら、わたしのはピンクですよ」
しかし、わたりどりたちはあきれたかおをしていいました。
「それ、かわらにおちているただのいしじゃないか。いったいいくらでかったんだい?」
みんなはふあんそうなかおになると、チーターくんにはらったきんがくをいいました。すると、わたりどりはもっとあきれがおになりました。
「あらら、おくさん。そりゃあだまされているよ。おきのどくさま」
そうげんのどうぶつたちはおこりました。そして、こかげでやすんでいたチーターくんをみつけると、にがさないようにとりかこんだのです。
いっぽう、なにもしらないチーターくんは、びっくりしたかおをしていいました。
「みなさん、いったいどうしたっていうんです?」
「あなたがうったすべすべいしね! ただどうぜんみたいじゃない!」
「どうしてくれるの、このさぎし!」
「おかねはかえしてくれるんでしょうね!?」
チーターくんはなにがなんだかわかりません。チーターくんは、ハゲタカのことばをすっかりしんじていたからです。
すべすべいしがそうげんではめずらしいだけで、かわらにはそこかしこにあるということをきいて、チーターくんはがくぜんとしました。
「そんな……」
でも、おかねをはらいもどそうにも、もうおかねはありません。けっきょくぜんぶハゲタカたちにわたしてしまったからです。
ふるえるこえでそのことをうちあけると、そうげんのどうぶつたちのいかりはちょうてんにたっしました。
そして、みんなでチーターくんをしばりあげると、
「ライオンさんにさいばんをしてもらおう!」
といって、ライオンのもとへひきずっていったのです。
***
「いったいどうしたんだ? みなものもの……」
ライオンはさいしょはおどろいていましたが、みなからじじょうをきくと、すべてをさとったようにいいました。
「やはりな、チーター。おまえがいちばんだまされていたのだよ……」
「ぼく……ぼく……。とんでもないことをしてしまいました……」
チーターくんはそういうと、しくしくなきはじめました。
「ひあぶりだ!」
「ハイエナにくってもらおう!」
そうげんのどうぶつたちがいかりのこえをあげます。
チーターくんは、じぶんのいのちがのこりすくないとおもって、いっそうなみだをながしはじめました。
いっぽうライオンはしずかにチーターくんとほかのどうぶつたちをながめたあと、こういいました。
「よし、みなのもの。このチーターをひあぶりにしよう」
「よし!」
「そうこなくっちゃ!」
どうぶつたちがかんせいをあげます。チーターくんはまっさおになってしまいました。
しかし、ライオンはつづけました。
「だが、そのまえにおしえてくれ。ひつじ、やぎ、そのほかこのすべすべいしでおかねをうしなったすべてのものたちよ。このチーターをひあぶりにすれば、そのおかねがもどってくるのかね?」
そのことばに、いっしゅんでねっきょうはきえさりました。みんなひそひそごえでそうだんしています。
ライオンはさらにいいました。
「このチーターをひあぶりにすることも、すべすべいしにおかねをはらうことも、おなじことだとなぜきづかないのかね?」
みんな、きまずそうにかおをうつむけました。しずかになったあと、ライオンはチーターくんにいいました。
「チーターよ。おまえだけがおろかものだったわけではない。しかし、おまえがことのほったんなのだから、つぐないをしなさい」
そして、ふたたびどうぶつたちにかおをむけました。
「みなのもの。このおろかなチーターにもういちどチャンスをやってくれまいか? このものは、すべすべいしをうるまえはきちんとゆうびんぶつをはこんでいたではないか?」
ひつじたちはすこしだまっていましたが、やがてくちぐちにいいました。
「あしのはやいあんたにやってもらいたいしごとがあるよ」
「そくたつをはこんでくれ!」
「ハイエナどものみはりをすこしかわってくれ!」
チーターくんはいわれたしごとを、すべてうけることにしました。
***
すうかげつがたったころ、チーターくんはようやくみんなからのしんらいをとりもどしました。
いまは、ゆうびんぶつをはこぶだけではなく、いろいろなしごとをこなせるようになりました。そしてそのぶん、かせぎもすこしはよくなりました。
いそがしくそうげんをはしりまわっていたとき、ライオンがまたおおあくびをしているところにでくわしました。
チーターくんはおずおずと近づくと、ライオンにはなしかけました。
「あの……ライオンさん、あのときはぼくのいのちをたすけていただいてありがとうございました……」
「きにせんでいい」
いまでは、これまでたかびしゃだとおもっていたライオンのそっけなさに、ふかいやさしさをかんじられるようになっていました。
「ぼく、そうげんでがんばります!」
そういってたちさろうとするチーターくんを、ライオンがよびとめました。
「チーターや。おかねをかせごうとするまえに、じぶんはほんとうにいくらひつようなのかをよくかんがえなさい。それにきづければ、わけもわからずあくせくうごきまわることもなくなる。もっとおおらかにじんせいをたのしむことができるよ」
「はい!!」
チーターくんはにっこりといいました。
チーターくんはもう、ひとをだますざいあくかんにさいなまれることもなければ、ひびにふまんやふあんをかんじることもなくなっていました。
みんなのやくにたってかせいだおかねで、くらすことができるようになったからです。
きょうも、チーターくんはそうげんをはしりまわります。げんきに、のびのびと。
「ただいま!」
チーターくんが、ひろいそうげんにむかってさけびました。
***
エピローグ
すべすべいしじけんからいちねんがたったころ、ライオンがそうげんのどうぶつたちみんなをディナーにしょうたいしました。もちろん、チーターくんもネクタイをしてさんかしています。
「いったいどうしたんだろうね、ライオンさん」
「きょうはなにかのきねんびだったっけ?」
ざわめくかいじょうのステージに、ライオンがたちました。
「きょうはよくきてくれたね、しょくん。さっそくだが、きょうのメインデッシュをごしょうかいしよう!」
そういってライオンがゆびさしたさきには、まるやきになったハゲタカが、なんばもおさらにならんでいました。
「さあ、とられたおかねをかえしてもらおうぞ」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
プラネタリウムのめざす空
詩海猫
児童書・童話
タイトル通り、プラネタリウムが空を目指して歩く物語です。
普段はタイトル最後なのですが唐突にタイトルと漠然とした内容だけ浮かんで書いてみました。
短い童話なので最初から最後までフワッとしています。が、細かい突っ込みはナシでお願いします。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
柴犬さんのバレンタイン
朱音ゆうひ
児童書・童話
北海道の牧場に住む柴犬さんは、関西出身。拾った子猫さんと一緒に、平穏な日々を過ごしています。
これは、そんな柴犬さんのバレンタインのお話です。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n3107iq/)
王妃様のりんご
遥彼方
児童書・童話
王妃様は白雪姫に毒りんごを食べさせようとしました。
ところが白雪姫はりんごが大嫌い。
さあ、どうしたら毒りんごを食べさせられるでしょうか。
表紙イラスト提供 星影さきさま
本作は小説になろう、エブリスタにも掲載しております。
【完結】僕のしたこと
もえこ
児童書・童話
主人公「僕」の毎日の記録。
僕がしたことや感じたことは数えきれないくらいある。
僕にとっては何気ない毎日。
そして「僕」本人はまだ子供で、なかなか気付きにくいけど、
自分や誰かが幸せな時、その裏側で、誰かが悲しんでいる…かもしれない。
そんなどこにでもありそうな日常を、子供目線で。
さくら色の友だち
村崎けい子
児童書・童話
うさぎの女の子・さくらは、小学2年生。さくら色のきれいな毛なみからつけられた名前がお気に入り。
ある日やって来た、同じ名前の てん校生を、さくらは気に入らない――
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる