求眠堂の夢食さん

和吉

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いきなりどうしたんだ?

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「教えてくださいよ~未来の従業員かもしれないんですよ~」
「自分で言うな」

 秘密にされると逆に気になってしょうがない。秘密にするほどの理由って何なんだろう。きっと夢食さんが妖怪だってことに関わる理由なんだろうけど、まだ教えてくれなさそうだな~・・・じゃあ他のこと聞こうかな。

「じゃあ、違う質問しても良いですか?」
「答えるか分からないぞ」
「それでも良いんで!」
「お好きにどうぞ」
「わ~い」

 ずっと通い詰めていたおかげで夢食さんは色々な事を話してくれるようになったと思う。最初の方は俺が夢食さん個人について聞いてもスルーだったし、教えてくれるのは夢のことだけ。でも今では日常会話をしてくれるようになったし、お客さんが着たら奥の部屋を使っても良いほど受け入れてくれている気がする。このまま通ってればその内秘密も聞けるかも?

「じゃあ、この求眠堂って誰が始めたんですか?」
「俺」
「え?」
「いや、だから俺が始めたんだよ」
「いやいや、それは無いでしょ」
「なんでだよ」

 いやだってこのお店、奥の部屋は新しく綺麗な作りをしているけれど今居るここは相当年期が入っている感じだ。少なくても築50年ぐらいは経っているんじゃないかと思う程。こんな作りの家テレビや動画でしか見たことが無いぐらいだ。夢食さんは30後半ぐらいの見た目をしてるし、夢食さんが始めたのなら・・・・

「もしかして夢食さんって不老!?」
「だから、なんでだよ・・・・」
「だって、こんな年期が入ったお家なのに可笑しいじゃないですか!」
「は?あ~なるほどそういうことか」

 夢食さんは訳が分からないと頭を捻っていたが、俺の言葉の意味が分かったのか頷くと呆れた顔をしながら

「店を始めたのは俺だけど、この店は前からあったものなんだよ」
「え?」
「だから、元々あったこの家を買って求眠堂を始めたの。納得いったか?」
「あ~そういうことか!」

 それなら、店と夢食さんの矛盾が解消される。確かに夢食さんが始めたからといってお店まで夢食さんが建てたとは限らないもんな。

「いや~てっきり俺は人外にありがちの長寿不老みたいな感じかと・・・・」
「さてどうだかね」
「ちょ、その濁し方気になります!!!!」
「はっはっ」

 最近よく話すようになって気付いたけど、夢食さんって俺をからかって楽しんでいるよな。にやけながら笑う夢食さんに

「え~見た目は30後半だけど本当は100歳とかあるかもしれないのか」
「おい」

 そう言った瞬間夢食さんから表情が消え、ガシッと顔を掴みあげるとメキメキと音を上げながら力を籠め俺の頭蓋骨が悲鳴を上げる。

「痛い痛いイタイ!!!!」
「誰が30後半だ?」
「えっ違うんですか!?」
「俺はまだ23だ!!!!」
「嘘だ!あ、違う今のは ギャアアアアアアアアアアアア」

 墓穴を掘ってしまった俺は、夢食さんが満足するまで潰され続け解放してくれた時には痛さに座り込んでしまった。

「酷いです・・・・」
「お前がな」
「いやだってどう見ても」
「あぁ?」
「何でもないです!!!」

 鬼の形相で睨んできたので今度こそ墓穴を掘らないように、お口にチャック!何とか話題を変えようと出た言葉は

「なんでここでお店やろうと思ったんですか?なんか思入れがあるとか?」
「あ?あぁここはな立地が良いんだよ」
「・・・・ここが?」
「まぁ言いたい事は分かる」
-
 俺目線だととても立地が良いとは思えないんだけど・・・・周囲をビルで囲まれてる所為で陽射しが入りにくいし見つけにくい。駅から近くはあるけど、ちょっと道が複雑だし大型ショッピングセンターがある訳でもない。大通りからも外れてるし何でここが立地が良いんだ?

「普通の基準だとそこまで良くない場所だが、この店は眠りを提供する場だ。ここは車の音や電車の音も聞こえないし自然と暗い場所になるから日差しを遮り必要もない」
「あ~そういう基準なんですね」
「それに、ここを出てすぐに銭湯があるから此処に泊まる人はそこを利用できるし美味い飯屋もある。一応部屋の中に日用品は揃えてあるが、コンビニも近くにあるから欲しい物があれば買いに行ける。どうだ、これを聞くと良い物件に見えるだろ?」
「おお~必要な物は全部揃ってるんですね!」
「まぁ俺の買い出しが面倒ではあるが、それ以外は満足だ」


 夢食さんの話を聞いてると確かにここが良い場所だと思えてくる。グッスリに寝て、銭湯でさっぱりするなんて最高じゃん!他の視点から見ると、全然違うもんなんだな~

「そういえば、最近しっかり眠れてるのか?」
「勿論!あれから毎日快眠です!面白い夢も見れるようになったし最近は寝るのが楽しみです!」
「・・・・そうか」
「今日は空を飛ぶ夢を見たんですよ!いや~爽快だった。ビルとビルの間を飛んだりスカイツリーから飛び降りたりすっごい楽しかったんですから」
「その夢は全て覚えてるのか?」
「勿論!」

 今までの人生で夢の内容を忘れたことない俺は自信満々に答える。あんなに楽しい夢を忘れるなんてみんな損をしていると思うんだよな~
 夢は自由で楽しいもの。現実では出来ないことを実現できるのが夢。これを忘れるなんて、勿体無い!笑顔で答えると、夢食さんは少し悩んだ素振りを見せると懐から若葉色の葉っぱを取り出すと

「朧月、これ見えるか?」
「え?なんかの葉っぱですか?綺麗な色ですね」
「ふむ・・・・朧月何時から働ける?」
「え?いきなりどうしたんですか!?」
「雇ってやる」
「えぇえ」

 あんなに俺を雇うの嫌がってたのにどうしていきなり!?困惑している俺を見ながら夢食さんは淡々と

「書類は用意しねーと駄目だから数日待ってくれ。それと、給料はそんなに出せないから期待するなよ。自由出勤にしておくから週1でも週5でも好き出てくれ。最低でも二日は休むように、お前は学生なんだからな」
「ちょちょ、え一体どういう心変わりが?」
「女心と秋の空って言うだろ」
「夢食さん男でしょ!あと、それ使い方違う!」
「細かい事気にすんな」
「え~」
「それで働くか?」
「働けるなら喜んで働きますよ!」
「よし、それじゃあ細かい話としようか」

 そう言った夢食さんは業務内容や服装など色々説明をしてくれたけど本当に何でいきなり俺を雇う気になったんだろ。そりゃ、俺は働きたいと思ってたから嬉しいけどこうもいきなりだと怖い。

「ま、とりあえずこれぐらいだな」
「色々やってるんですね」
「まぁな、でも俺一人で回せるぐらいだから仕事量は多くないぞ。夜まで客が来ないなんてザラだからな」
「それ、大丈夫なんですか」
「土日はある程度昼間から居るぞ」
「へ~」
「それはそうと、お前親御さんから許可は貰ってるんだろうな?」
「それは大丈夫です!ずっとアルバイトしたい場所があるって言ってましたから!」
「・・・・そうか、学校はどうなんだ?」
「アルバイト許可書を貰えば大丈夫なんでもう出してあります!」
「準備万全かよ」

 そりゃ何時でも働けるように準備してましたから。まぁ理由は気になるけど、働けるようになったことを喜ぶとしよう。

「じゃあ、明日までに同意書は準備しておくから好きな時に取りに来い」
「は~い!」
「あ、それとこれ持ってけ」

 そう言うと、夢食さんはまた懐から獏の形をした木で出来た置物を俺に手渡した。

「獏?」
「枕元の近くに置いておけ」
「??はーい」

 よく分からないけど夢食さんが渡したって事は、悪いものじゃないだろうし夢に関わる物なのかな?もしかしたらもっと良い夢を見られるかも?

「それじゃあ、子供はもう帰る時間だ」
「え~まだ早いっすよ!」
「働き始めたら何時間も居る事になるだろ」
「え~」

 渋々ながら帰された俺は、家につくとリビングで寛いでいたみんなに

「アルバイト雇ってもらった!!」
「あら、受かったの?」
「良かったな」
「お~頑張れ~」

 みんなには予め話しておいたので驚いてくれなかったけど、祝ってはくれた。俺は父さんに

「今度同意書持ってくるから、書いて~」
「おう、良いぞ。それで何の店で働くんだ?」
「えっと~・・・・古い宿泊業をやってるお店」
「へ~そんなところ良く受かったな」
「まぁね」
「最近妖怪の事をよく聞くようになったのは、その店の影響か?」
「え?あぁうん!獏の置物が飾ってあってさ!」
「獏は縁起物だからな、宿泊業にはピッタリだろうな」

 あぶね~本当の事は言えないから誤魔化したけど妖怪って話をしたら絶対父さんその店に突撃するに決まってる。俺の父朧月静雄おぼろづき しずおはかなりアグレッシブで、妖怪の話が見つかれば山奥だろうが取材に行くんだよな・・・・そのせいで何時でも若々しいし筋肉も付いてる。子供から見てもカッコ良くワイルド系で見た目だけなら肉体労働についてる人に見えるけど、根っからの研究者で本を書くのが仕事なんだよな・・・・

「なんで宿泊業を選んだの?覚、そういうの興味なかったでしょ?」
「店主さんが面白い人だったんだよ」
「あら、そうなの」

 ふふと笑う母さんこと朧月沙耶《おぼろづき さや》はお淑やかだけど、しょっちゅうフィールドワークに行ってしまう父さんの事を支えていて家の事に関しては母さんに逆らえる人は居ない。

「へ~俺も今度行ってみようかな」
「なんでだよ、来ないでよ恥ずかしい」

 揶揄うように言う兄貴、朧月做夜《おぼろづき さくや》俺の4つ上で今は大学に行って写真の事について学んでいるらしい。兄貴は昔から父さんの後を付いて行ったりして写真を撮る事が多かったから妖怪についてもある程度知っているらしい。

「ま、頑張れよ!」
「おう!」

 家族と雑談しながら夜を迎え、夢食さんから貰った置物をベットサイドに置き俺は眠りに就いた。
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