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閑話:辺境の若き狼4

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 次の日、インセクト系統は多いが明らかな異常は無く進んでいるとクロガネ殿が何か異常を察知したらしい。俺から見るとそこまで差が分からないがどうやら通常より強く錯乱状態にあるらしい。しかもこの三体は、普通は集団で行動しない魔物達だ。もしそれが有り得るとすれば・・・・

「インセクト系統の上位種が生まれた可能性があるな」

 自分で放った言葉だがこれ以上無い程の恐ろしい発言だ。インセクト系統の上位種と言えば、インセクトマンなどが有名だが、他のインセクト系統を纏めているとなるとバグズクイーンやバグズキングだ。彼らは生まれれば次々と眷属を増やしまさにインセクトの軍隊とも言えるほど数となり、国一つ滅ぼす災害となる。すぐに父上に報告に行かなくては!

 調査を続けるだと!?そんな事より最悪の事態を考えて民を避難させ、国に報告し軍を動かして貰わなければならないだろ!そんな悠長なことを言っている間に、インセクトの群れが育っていくのだぞ。・・・・・くっ確かに、今の現状ではいくら真摯に報告したとしても、信じて貰えず国が動くことは無いだろう。クロガネ殿の探知は信用しているし、周囲に気配が無いと言うのであればそうなんだろうが・・・・・確かにクロガネ殿の言う通り冷静に考えてみればバグズクイーンやキングが現れたにしては、不可解な部分が多い。しかも、この現象は周期的に起きている事なのだ。

 はぁ、俺は固まった恐怖に囚われて冷静さを失っていたのだな。

 取りあえず周囲の調査をするのが最優先だということで、俺達は分かれて何かの痕跡が無いか探しているとクロガネ殿が珍しく焦った表情で風のような速さで俺達の元へ帰ってきた。クロガネ殿が言うには先日のインセクトマンがまた現れたという。連続でインセクトマンが出るのは異常だがそこまで焦る事なのか?なに、全く同じ気配で同一個体としか思えないだと、それはあり得る事なのか?こうして話している内に接近している様で、視線の先には初めて見るが本で読んだ通りのインセクト系統の特徴を兼ね備えた人型居た。

 あれがインセクトマン・・・・

 俺は視認した瞬間武器を握りしめ戦闘態勢に入ったが、それよりも速くクロガネ殿は飛び出していったが、まるでそこに居なかったかのように姿も気配も消えると次の瞬間俺達に向かって走っていたインセクトマンがバラバラにされていた。

 一体に何が・・・・気配も音も姿も見えなかったぞ。あんなの誰が防げるんだ?

 クロガネ殿の本気に衝撃を受けながらも、今討伐されたインセクトマンと先日町を襲おうとしたインセクトマンを比べてみると確かに何処をどう見ても同じ個体だな。分身の可能性はあるが、そのスキルを持っているなんて聞いたことが無いし変異種にしては弱すぎるらしい。何故全く同じ個体が現れたのか分からなかったが、ブレスト殿は心当たりがあるらしい。出現場所はクロガネ殿が分かると言うが、よくその距離を探知できるな。殺気と闇魔法を使っているおかげで探知できると言うが、俺には全く感じなかったぞ。ブレスト殿でも無理だと言うし、本当に察知に優れているのだな。

 その後クロガネ殿の案内でインセクトマンが出現したという場所に向かっている道中クラウドスパイダーという危険かつ厄介な魔物に出くわしたが、ブレスト殿が見たことも無い魔法と惚れ惚れする技術によって、一瞬で片づけてしまった。あの一連の動きは優れた動体視力に、長物を素早く動かす腕力とそれを支える足腰。そして、正確かつ狂い無く武器を振るう技量が必要となる動きだ。同じ長物を使う身としては、手本にすべき動きだったな・・・・是非習得したい。

 夜になりいつも通り夜番を決める事になったが、森の奥まで入って来た故に出現する魔物達が強力かつ数が多くなっている。二人の実力を疑う訳では無いが負担が大きいだろう。なので、今日から二人で夜番をするのはどうだろうか?いや、クロガネ殿ともっと話したいという下心が無いかと言わると、まぁ有るがこれは二人の為でもあるのだ!

 最初はロシェは渋っていたがブレスト殿が笑いながら言うとロシェは、はっと何かに気付いたようでブレスト殿と同じように笑顔を浮かべながら了承してくれた。ロシェもブレスト殿と話したかったんだろうか?二人が眠りに就き周囲が静まった頃を見計らい、俺は今日声を荒げてクロガネ殿に詰め寄ってしまったことを謝罪するとクロガネ殿は優しく笑顔で許してくれた。しかも、あの反応は仕方が無い事だと言う俺のフォローまで入れてくれた。

 俺はあんな反応をしてしまったというに、クロガネ殿は落ち着きを払い冷静でいたよな。それに比べて俺は・・・・その冷静さと判断力が羨ましいと言うと、クロガネ殿は苦笑いを浮かべるが俺は本心で羨ましいと思っているぞ。クロガネ殿の素晴らしい点を挙げると、少し照れたような苦笑いを浮かべながら身の上を話してくれた。

 まさか半年前から冒険者を始めたとは思わなかった。たったその期間だけで、それほどの力を身に付けたのか?いや、ブレスト殿が前に生きている内に力を身に付けたと言っていたから、冒険者になる前に多くの経験をしたんだろうな。ふむふむ、クロガネ殿はスラムで生活をしていたのか・・・・知識としては知っているが実物を見たことが無いな。クロガネ殿が言うには汚く危なく普通は近寄るべきじゃないと言うが、クロガネ殿はそこで生活していたのだろ?スラムで生活している人も多いと聞く。そして生活している間にブレスト殿と出会ったのか・・・・まさに運命的な出会いだな。

 プリトは大きな街であるから、経済的にも余裕があるはずだ。それならば、我が町の様にスラムやそう言った救済が必要な人々に対する政策があるのではないか?なるほど、人が多い故に全ての人々には行き渡らないのか難しい問題だな。

「それに俺は捨て子ですから、そういう救いは受けられなかったんですよ」

 そうだったのか・・・・申し訳ない事を聞き出してしまったな。この町でも子供を捨てそうになってしまう者が居るが、そういった場合は俺達が支援し無理であれば教会で代わりに育てる事になっている。様々な取り組みによって子供達を捨てるようなことは起きていないが、なんて残酷な事をするのだ。クロガネ殿は運が良かったが、何も出来ない幼子を捨てたら死んでしまうでは無いか。

 クロガネ殿が言うには子供を捨てる理由など山ほどあり、日常的にそう言った子供が生まれると言うが大きな街と言うのはそんな場所だったのか。人は助け合わなければ生きてはいけないと言うのに・・・・クロガネ殿が捨てられた理由の一つが黒い髪と瞳だからだと?確かに、黒は一般的には忌避するものだと言われているが属性や色だけでその者の何が分かると言うのか。本当に馬鹿らしいことだ。

 クロガネ殿、貴方はとても善良で嫌な態度を取ってしまった俺に対しても優しく許し話を聞いてくれる良い人だ。周りが何を言おうともその事実は一切変わる事が無い。クロガネ殿の良さを淡々と述べていくと、途中で遮られてしまい俺の事を聞かれた。

 あまり面白い話では無いと思うが、俺の身の上話が聞きたいのであればいくらだって話そう。俺達は生まれも育ちも全く違うが、仲良くなることは出来ると思うんだ。学院に興味があるのであれば、父上に進言し俺と一緒に行くことが出来るようにしようか?旅を続ける気だから無理か・・・・残念だが限られた時間を有意義に使わないとならないな。
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