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初めての友人

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「説教は終わったみたいだな」
「あぁ、すまない。少々言い過ぎたかもしれない」
「いや、今回はブレストが悪いからそんなこと思わなくて良いぞ」
「クロガネ~・・・・」
「反省しなさい」
「はい・・・・」

 テセウの怒りは収まった様で、少しやり過ぎたと申し訳なさそうにしていたが今回に関しては完全にブレストが悪いからそんなこと思わなくて良いぞ。同情する必要は無いと、きっぱり言い切ると未だに正座をしているブレストが情けない顔をしながら弱々しく俺を呼ぶ。その様子を見ると少し可愛そうになってくるけど、反省しないと駄目だぞ。

「ははは、あのブレスト殿でも子供たち相手じゃ形無しだな」

 その様子を見てシュナイザー様は大笑いしてるけど、それを言うならシュナイザー様だってリリー夫人やテセウに弱いじゃないか。まぁそれをわざわざ言うつもりは無いけどな。俺は正座のままでいるブレストの手を引っ張り立たせる。

「ほら、昼から予定が詰まっているんだから座って無いで準備しに行くぞ」
「はい・・・・」
「テセウ、もう一度言うけど良い戦いだった。今のテセウなら町の外に出ても大体の事は大丈夫だと思うぞ」
「あぁクロガネも良い戦いだった。だが、結構頑張ったつもりなんだが大体なのだな」
「外にはこの二人みたいに規格外の強さを持つ人だっていますし、何が起きても可笑しく無いんですから油断は厳禁ですよ」
「それもそうだな。それでは俺も準備があるからこれで失礼しよう。また昼に会おう」
「おう!また昼にな」

 今日の昼にはテセウの誕生パーティーが領主館の庭園で開かれることになっている。その主役であるテセウは色々な準備があるのに、最終日の今日の朝に無理やりこの模擬戦を組み込んだから予定が押しているのだろうテセウは駆け足でサピロさんと共に館に急いで戻って行った。

「いや~本当に成長したと思うな~このまま行ったら俺なんか簡単に抜かされちまうな。頑張らないと!」
「テセウ様とクロガネは違う強さだろう?それにそんな気合いを入れなくても俺が一流に育ててやるから」
「確かに俺とテセウの強さは全く別物だけど、友人には置いてかれたくないしテセウの期待には応えたいじゃん」
「そうか・・・・」
「それに初めての友人だから失望されたく無いからな」
「ん?初めての友人・・・・?」
「おう」

 俺には今まで友人と言えるような存在は居なかったから、馬鹿みたいなことでも話せるテセウは新鮮で初めての事ばかりだ。時間は短いけどこんなに濃密な時間を過ごしたのはブレストとベルグぐらいだし、テセウも俺のことを友人と言ってくれたし友人だと思っても良いんだよな?

「街に子供は沢山居ただろ?その中に友人くらい・・・・」
「スラムのガキ達は友達じゃなくて守るべき奴らだ。俺はあいつらの兄貴や父親代わりみたいなもんだからな」
「同世代だって」
「年が近い奴らも居たけど、俺ぐらいになると自立して自分達で生活し始めたりするからそんなに関りは無いぞ。情報交換したり飯を分けたり助けたりするぐらいだから、友人じゃなくて同業者みたいな感じだ」
「大人達なら」
「大人たちは俺の兄貴代わりみたいなもので俺が逃げちまったガキ共の世話を代わりにやってくれてる人達だ。だから、世話になってる人達だな。ベルグは俺の親父だし・・・・」

 スラムの奴らは全員友達と言うより、スラムと言う大きな括りの中で生活をしている同居人であり家族って感じなんだ。俺は早くスラムを出ちまったから関りが薄いけど、友達かと聞かれると絶対に違う。

「街の連中たちと友達になったりしなかったのか?プリトは大きな街だから子供達は沢山居ただろ?」

 俺の返答を聞いて顔を右手で覆ってしまったうつ向いてしまったブレスト。その様子を見て肩に手を置きながら、少し引きつった笑顔を浮かべながらシュナイザー様が聞く。

「俺の見た目で友達になろうなんて奴は居ませんよ。今は綺麗になってますけど、路地とかで生活してたから服や体は汚れてましたしスラムに住んでる奴らには関わるなって親から教わってますからね」

 スラムは俺達みたいに不遇な境遇の奴らが助け合っている所もあるが、犯罪者や荒くれ者が集まっている所もある。何も知らない子供がそんな場所に近付けば忽ち攫われて、売り飛ばされるか殺されるか良くて半殺しだ。俺が街に居た頃はそういう迷い込んだり好奇心で入ってきたガキ共をしょっちゅう逃がしたり、助けたりしたもんだ。だけど、俺達だけじゃ全員を助ける事は無理だから時折行方不明になっちまうガキ達が居る。そんな危険な場所には行くな関わるなと親達はガキ共に嫌になるほど教え込んでいる。

「普通のガキ共は俺達を見ると、逃げますし石とかを投げてきますから友達なんて居ませんよ」
「なんてことだ。大丈夫だったのか?」
「ガキ程度の力で投げられたものなんて俺は当たりませんよ」

 ガキ共は純粋で無邪気だから親の言う事を素直に聞き、俺達が人では無く穢れた存在だと教えられたのを信じてしまう。それにガキは大人達を見て学ぶもんだから俺達に何をしているかを学んで真似をする。だから、あいつらにとっては俺達に石を投げたりすることは、大人たちがやっている当たり前のことで、正しい事だと思いこんでいるのだ。つまり、ガキ共に罪は無いし悪いのは教え込んでる大人達なのだ。

「スラムに住んでることに加えて俺はこの見た目ですから、余計に嫌われてますよ。前に転んだガキを助け起こしたら、思いっきり親に殴られて死にかけましたからそれ以来俺も積極的に近付こうとはしなくなりましたよ」

 俺の黒髪に黒い瞳は不吉の象徴であり魔の象徴。穢れを纏う化け物だと教えられ、そんな俺が触った子供は穢れを移されると考える親も沢山居た。だから、どんなに行為が正しくても親達は俺が関わる事を嫌がり恐怖し暴力を振るった。そんな事が頻繁に起きたから、俺はガキを助けた時は親の前に姿を現さないようにしてガキ共には必要以上に関わらないようにしたのだ。

「・・・・」

 それを聞いたシュナイザー様は少し悲しそうにしながらしゃがみ込むと、俺と視線を合わせ頭を撫でると

「クロガネ、君は素直で純粋でそして善良な人間だ。今まで、いやこれからも多くの偏見を受けるだろうがこれだけは覚えておいてくれ。俺達シュナイザー家はクロガネの親しい友人であり貴方に敬意を示す。だから、もし旅を続けて辛くなった時はこの町に来ると良い。この町であれば差別など俺が許さない。安心して暮らせる場を提供してやる」

 そう言ってシュナイザー様は俺をきつく抱きしめる。その体は温かく大きくて力は強いけれど、とても落ち着く優しさに俺は吃驚しながらも安心する。

「あはは、そんな気にしないでください。俺はもう慣れましたし。他の奴らからなんて言われようが俺は気にしませんから」
「そうか・・・・強いな。だが、言われるのが当たり前だなんて思わないでくれ。君は素晴らしい人間なのだから」

 俺の生い立ちに同情してくれたみたいだけど、俺はそんなに気にしていないのだ。だって、この姿の所為で色々あったけれど、俺がガキ共を助けったという事実が消える訳じゃ無いし、俺を友人だと言ってくれる人達が居るって分かっているからな。笑って言う俺にシュナイザー様は一度強く撫でると体を離し笑って

「いつでも歓迎するからな!なんなら今からでも!」
「それは駄目ですよ」

 いつの間にか俺の後ろに来ていたブレストが俺を引き寄せると

「クロガネは俺と色々な場所を巡るって決まってるんですから!クロガネ、これから楽しい思い出を沢山作ろうな。お前の事を悪く言う奴は全て俺が倒してやるからよ」
「いや、そんな事しなくて良いよ」
「お、それなら俺にも教えてれれば社会的に潰してやるぞ?」
「なるほど、その方が良いかもしれませんね」
「いや、良くないから。それとシュナイザー様が言うと洒落にならないから!」

 も~そんな俺に気を遣わなくても良いっつーの。何を言われても言い掛かりなら無視をすれば良いし、害をなそうとしてきたら一回話してそれでも駄目なら排除すれば良い。俺はもうか弱い存在じゃ無いんだから降りかかる火の粉ぐらい自分で何とか出来るっつーの!

「洒落なんかじゃ・・・・」
「はいはい、もう行きますよ!シュナイザー様は俺の棒手裏剣を試さなきゃいけないしブレストだって昼の為に色々準備があるんだから!」

 嘘じゃ無いと言う二人の背中を押し俺は領主館へと急いで戻らせながら、二人の背中に隠れた顔は少し緩んでしまう。

 ちょっと照れくさいけど、俺を心配して気遣ってくれてそして人として認めてくれてありがとな。
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