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鍛冶屋に行こう!

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 請ける依頼が特に無かった俺達は装備を新調しようという事で、王都でブレストが贔屓にしていた鍛冶屋に向かっていた。かなり偏屈な人だけど、武器を鍛える腕前は確かなものだというので俺が使うようなナイフもあるかもしれないだってさ。ナイフが無くても今の俺にはクロスボウと魔法が有るから問題無いんだけどな~

「着いたぞここだ」
「お~高そう」
「この店を見てそう言うのはお前ぐらいだぞ」

 店があった場所は、鍛冶屋や服飾屋などが建ち並ぶ通りでブレストが贔屓にしている店は煌びやかな他の店と比べ武骨で目立たない。だけど、他の店は五月蠅い程金槌の音が鳴っているのにこの店からは聞こえてこない。この時間ならまだまだ仕事中であるはずなのにだ。つまり、金槌の音が聞こえないように店を改造しているか昼間に仕事をしなくても良いほど儲かってるかだ。まぁ客が全く来ない寂れた店って可能性もあるが魔力を感じるし改造してる方だろうな。ボンゴの鍛冶屋というシンプルな名前の店の扉を開いて中に入ってみると、外では聞こえなかった金槌の音が聞こえてきた。

 やっぱりか~魔法を使った建物ってクソ高いって聞いたことあるけど凄いな

 壁一面に並べられた武器は素人の俺でも分かるほど、出来が良く装飾は少ないが斬れ味や耐久は相当なものだろう。ブレストはカウンターに置かれていたベルを鳴らすと金槌の音が止み奥からずんぐりと丸みを帯び顔が見えなくなるほどの髭を生やした人がやって来た。

「なんだお前さんか。王都から出てったんじゃないか?」
「ちょっと用事が有ってな。暫くの間は居るんだよ」
「そうか、だがお前さんには武器は要らないだろ?魔法剣を見せに来てくれたのか?」
「いや、申し訳ないが今日は俺じゃなくて仲間の武器を見に来たんだよ」
「ん?お前さんはソロだったろ。この小僧とパーティーを組んだのか」
「クロガネです、よろしく」
「ふむ、わしはボンゴだ。よろしくな小僧。その顔だとドワーフを見るのは初めてかクロガネ」
「ううん、見るのは何回かあるけど話すのは初めて」

 ドワーフは基本的に洞窟や地下に住んでいる種族で鍛冶が上手くずんぐりとした体に低い身長というのが特徴だ。

「まぁドワーフも最近だと外に出るようになったからな~」
「ボンゴの最近っていつだよ」
「ここ100年ぐらいだな」
「長いな~」

 ドワーフもエルフと同じようにかなりの寿命を持つ種族だ。だからこそ、卓越した鍛冶の技術を持っているらしい。人間は50ぐらいまで生きられれば長生きだからな~何百年も生きる奴らには敵わないのは当然だな。

「んで小僧の武器を見に来たんだろ?その腕に付いてるクロスボウはかなりの品だが、他に何か欲しいのか?」
「ナイフが欲しいんだよ。クロガネは速さを活かした戦い方をするから、出来るだけ軽くて魔力の通りが良い物とか無いか?普通のナイフなんかでも良いんだが、どちらかと言うと魔剣寄りのやつが良いんだ」
「ん~そうだな~そこに並んでるのは大衆向けで面白くないものだからな・・・・」

 壁に並べられている武器達はかなりの品だと思うけど、ボンゴにしてみれば面白みが無いらしい。てか、魔剣寄りってなんだよ。魔剣ってクソ高いと思うんだが!?
 ボンゴは一旦裏に行くと、いくつかのナイフを持ってきてカウンターに並べた。

「まずはこれだな。これはナイフじゃなくダガーだがミスリルを使っているから魔力の通りと切れ味は抜群だぜ。頑丈さも文句ないし何より軽い」

 見せてくれたものは、イリスの鎧のように薄く青白く光る銀色のダガーだった。持ちやすいように鍔があり短い十字架のような形をしている。持ってみると、見た目より軽いが振った時に鍔が気になる。それに俺は隠れて戦う事もあるから光ってるのは少し嫌だ。

「良く持ち替えるから鍔が無い方が好きだな~」
「なるほどな。じゃあ次だ。これは、ダマスカス銅を使ったナイフだ。強度と切れ味は良いが重みがある。魔力の通りはそこそこだ」

 まるで木のような不思議な文様が浮かび上がっているナイフを手に取り、振ってみると確かに重みを感じる。魔力の通りもミスリルほどでは無いが今持っているものより通りやすいけど・・・・なんかしっくり来ないな~

「その顔だと駄目みたいだな」
「凄く良いナイフだとは思うんだけど~」
「しっくりこないか」
「うん」
「武器っつうのはどれだけ優れていても使い手との相性が大事なんだ。性能はそこそこだが使い手と相性が抜群の奴と武器は優秀だが使い手の戦法に合ってない奴が戦えば相性が良い奴が勝つ。武器は自分の身体だからな、その勘は大事にしな」
「分かった!」
「とはいえ、この感じだと他の奴でも駄目そうだな~小僧に合いそうなやつか~」

 別に今あるナイフで不便なことは無いし無理に見つける必要も無いから大丈夫だと言おうとしたらボンゴは俺をじっくり見ると

「小僧、その髪と目ってことは闇属性持ちだよな?」
「・・・・そうだけど」
「完全な黒ともなるともしかすると使えるかもな」

 闇属性が関係あるのか?そう言うと、もう一回裏に行って戻って来たボンゴは何やら頑丈そうに鍵が掛かっている黒い箱を持ってきた。鍵を開けて俺達は中を見ると、持ち手から刀身全てが闇夜を閉じ込めた宝石のようなナイフがそこに入っていた。

「うわ・・・・綺麗だな」
「なんだこのナイフ」
「小僧、試しに指で触れてみな。もし嫌な感じがしたらすぐに手を放すんだ」
「おい、ボンゴ何をさせるつもりだ?まさか呪い持ちじゃないだろうな」
「ちげーよ。ほら試してみな」

 何をさせる気だとボンゴを睨みつけるブレスト。呪いとは偶に物に宿っている制約の魔法であり、一度持ったら一生離せないや持っている間血を段々失っていくなど危険で不便かつ制限されるものが多い。だが、その代わりに武器の性能としては破格の物が多く好んで使う人も居る。このナイフからは嫌な気配はしないし、どっちかというと安らぎを感じる。俺は言われた通り指だけで刀身に触れてみると何処か懐かしい感覚を覚えた。

「大丈夫なのか?」
「予想通りだな」
「持っても良い?」
「好きにしな」

 心配そうにしているブレストとドヤ顔のボンゴ。俺はしっかりと柄を握り二人から少し離れると、いつも使っているように素振りをしてみる。高速で宙を切り刻み投げて左手へ持ち替え逆手にしてみたりと一連の動きをしてみると、まるで体のが繋がっているかのように思い通り軌道を描けるナイフ。なんだこれ・・・・すげぇ。決して握りやすいとは言えない柄なのに手から滑る事無く、一振りが鋭いわりには重さを感じない事に驚きながらも段々笑みが溢れてくる。最後に魔力を通してみると、殆ど抵抗を感じない。両刃で俺好みの柄そしてこの軽さ!

これ、欲しい!!!

「気に入ったみたいだな」
「うん!これ凄い!めっちゃ使いやすい!」
「そうなのか、少し俺も試しても良いか?」
「止めときな。それは俺達が触れるナイフじゃねーからな」
「どういうことだ?」

 俺は興奮を何とか抑えながら箱の中にナイフを戻すと、ブレストが試そうとしたのをボンゴが止める。

「これは闇夜の涙を鍛えたナイフなんだ。闇属性を持ってない奴が触ったら発狂するぞ」
「っっなんつう物を使ってんだよ!!てか、良く使えたな!」
「わしは少しだが闇属性を持ってるからな。まぁそれでも限界までに闇耐性を高めた魔道具を使ってもなお半刻しか触れないがな」
「クロガネ、大丈夫か?何か気持ち悪かったり頭が痛いとか無いか?」
「全然、むしろ楽しいぐらい!」

 闇夜の涙が何か知らないけど、ブレストの反応を見るからになんだか凄く危ない物みたい。そんな感じしなかったけどな~

「わしの人生の中でも、小僧程の髪と目は見たことが無いぐらいだからな。相当闇に愛されてるぞお前さん」
「そうなのか~」
「作ったのは良いが使える奴が居なくて困ってたんだ。買ってみたらどうだ?安くしておくぞ」
「そりゃ使える奴なんて居る訳ないだろ・・・・何で作ったんだよ」
「勿論魔剣の追及の為だ!闇の魔剣なんてドワーフでもわし以外で作れる奴なんてそうそう居ないぞ。ぬわ~はっはっ」
「この魔剣狂が!クロガネ、このナイフは買うなよ!危険すぎる!」

 言い争っている二人は置いといて、俺の心はもう決まっている。今で稼いできた金を全て使ってでもこのナイフを絶対に手に入れる!金が足りなきゃ明日からギルドで依頼を沢山こなして稼いでやる。最後まで反対されたけど何度もお願いして結果から言うと、俺の8割の財産で何とか買うことが出来た俺は専用の鞘と一緒に鍛冶屋を後にするのだった。

「まいどあり~」
「また来るぜ」

 鍛冶屋から出た俺はもう天にも昇る気分でいると、ブレストが疲れた顔をしながら

「まぁ気に入った物があって良かったな。でも、不調を感じたらすぐに捨てろよ」
「うん!」

 宿に帰ってブレストに聞いてみると、なんでも闇夜の雫というのは闇属性の古代竜が住む深淵の森という場所で採れる闇属性が高濃度で蓄積された水晶らしい。この水晶は闇属性を持ってない人が触れれば、闇の狂気と恐怖に飲まれ発狂してしまう程の魔力を持ち、闇属性持っていたとしても少なからず影響を受けるらしい。けど俺は一切そんなこと無いし、次の日まで持っていても影響は無かった。初めて俺の体に感謝した出来事だったぜ。

 あ、ちなみにだけどボンゴの店が魔法で強化されていたのは魔剣狂のボンゴが危ない実験を繰り返すから他の店に影響が出ないようにしているんだって。なにやってんだが・・・・でも、そのおかげで買えたと思うとう~ん複雑!
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