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目標を決めた

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 ブレストと出会ってもう三ヶ月が経つ。森で魔物を倒したことを言ったら凄く心配され怒られたけど、人を助けるためにやったことだからと許してくれ、それから魔物の討伐依頼もやって良い事になったんだよね。それに俺はもう五級に上がったから今日は、森でゴブリン退治だ。

「これで、十体目!」

 前より上手く使えるようになった風の矢で次々とゴブリンを倒し周囲の安全を確認した後、体から魔石と呼ばれる石を取り出し討伐証明になる耳を切り取る。この作業も段々手馴れてきたな。ブレストは生き物を殺す事で俺が落ち込んだりするんじゃないかとか言ってたけど、食わないと死んじゃうし殺さないとこっちがやられる。弱い奴が死んで強い奴が死ぬ、単純だろ?

「ふ~巣を潰したのに結構残ってるもんだな。ま、俺は稼げて嬉しいけどな」

 この三ヶ月間で自分で言うのはあれだけど、成長出来ていると思う。食べ物に困って盗みをする必要は無いし、衛兵に追いかけられる事も無い。今まで自分のことで手一杯だったけど、今ならガキ達に飯を定期的に届けることが出来る。ガキ達と言えば、ブレストがスラムの奴らにも俺と同じように色々教えてくれたおかげで色々な所で下働きが出来るようになったんだよな。そのおかげで飯も食べれるし、服だって買える。本人に言うのは恥ずかしいけど、ブレストには本当に感謝してるんだ。

「さて、そろそろ帰るか。帰ったらガキ達に所に顔を出して、後はブレストが帰ってくるまで鍛錬でもしておこうかな」

 木に登り枝から枝へと飛び移りながら街へと帰り冒険者ギルドに行き、報酬を貰ってガキ達が居るスラムにパンを買って向かった。スラムに着くと何時も寄ってくるガキ達の姿が見えず、変だなと思いながらベルグのジジイの元に行ってみた。ベルグなら何か知ってるだろう

「お~い」
「おう、黒いガキ」
「クロガネだっつうの。ガキ達の姿が見えないけど、どうしたんだ?」
「あいつらは教会に行ったんだよ」
「はぁ?なんでそんなとこに行くんだ?」
「ほれ、前にお偉方が来てスラムの改革を行うとか何とか言ってただろ?」
「あぁ、あの強そうなオッサンか」

 二か月前にこの街の新しい貴族として、凄く強そうなオッサンが来たんだがそのオッサンは貴族には珍しく俺達の事を気に掛けてくれる人でなんでも『ダンジョンでこの街は潤っているんだ。スラムを賄うぐらいの資金はある!それに、貴重な労働力を余らせておくなど以ての外だ!さぁ働け!働いて稼いで飯を食え!そして、優秀な者に育つが良い。ぬわぁっはっはっ』とか何とか言いやがったんだよな。聞いた時には何言ってんだこいつと思ったけど、それからは凄かった。力が有る大人達はそのオッサンに雇われて建築の仕事をしたり、力が弱い子供達は軽い手伝いとして雇われしっかりと賃金も貰えるようになって腹を空かせることは無くなったんだよな。ブレストが色々教えてくれたおかげで、そのオッサンから子供達への評判は中々良いらしい。

「そう、そのオッサンが孤児院の子供と一緒に勉強を出来る場を作ってくれたんだよ」
「うえ~すげぇな」
「将来への投資だとよ。頭の良い奴が考えることは分からんが学べる場があるのは良い事だ」

 ベルグはガキ達の面倒を見ているから嬉しそうだな。俺も体験して分かったことだが、学ぶっていうのは凄い大事なことだと思う。ブレストに色々教えてもらったから、今まで騙されていたことや金を稼ぐ方法を知れたからな。それをガキ達も知れるのは良い事だと思うぜ。こんなにも良くしてくれるから、あのオッサンはガキを狙うクソ変態野郎かもしれないと最初は疑ってたが、ブレスト曰くあのオッサンは有名な冒険者で貴族に成り上がった人らしい。強さも性格も知識さえも一流だから心配すること無いってさ。

「そうだな、んじゃあこれガキ達に渡しておいてくれ」
「おう、いつもありがとな。・・・・なぁクロガネ」

 パンを渡して去ろうと思ったら、ベルグに引き留められた。

「初めて名前呼んだな、なんだ?」
「お前はあの陽の光のような兄ちゃんの言う通り、普通のやつとは違う」
「はぁ?いきなりなんだよ」
「小せぇ時からお前は利口で物事の理解が早かった。自分が捨てられて嫌われて一人で生きて行かないとすぐに理解して、身を守るために技術と作戦、度胸まで身に着けやがってこのスラムを出て一人で生き延びやがった。まだガキで自分ひとりで大変だって言うのにスラムから離れたガキの面倒まで見て守りやがってほんとお前は賢いぜ」
「・・・・」
「このスラムで生きていくのがどれだけ大変かお前は分かってるだろ?街の連中からはゴミ扱いされ、仕事をしようにもスラムってだけで犯罪者呼ばわりだ。そのせいで金は稼げない、飯は買えないだから何人も死んでいく」

 ここ最近良い生活が出来てるからって忘れちゃいねーよ。俺達が生きていくのは大変で薬だって手に入らないから病気になっちまったら死を待つしかない。大怪我でもしてみろ、運よく生き残ったとしても世話をする程余裕がある奴はいない。死なない為に飯は盗むしか無い生活を忘れることなんて出来ないさ。

「お前は俺達を守るために色々な事をしてくれた。攫われたガキを探し出し捕まりそうな奴を逃がし、金が入ったら俺達に飯をくれる。そんな優しいお前を俺達はずっと利用してた」
「世話になったからそれを返してるだけだ。利用なんて言うんじゃねーよ」

 まだ役に立つことを何も出来ずそのまま死んでいくはずだった俺を拾って育ててくれたのはベルグだ。だから、その礼を返してるだけだ。

「クロガネ、お前は俺達に良くしてくれるが俺達に縛られて良い存在じゃない」
「縛られてなんか」
「縛られてるさ、いや俺達が縛ってると言った方が良いな。あの兄ちゃんと会ってからお前は何を教えてもらっただの、外には見たことも無い動物や美しい場所があるんだと凄く楽しそうじゃねぇか。お前には、外の世界を見に行く力が有るんだ。散々しばりつけておいてどの面が言ってるんだと思うが、お前はもう自由なれ。好きに生きて良いんだ」
「・・・・」

 確かにブレストに外の事を色々聞いて憧れる気持ちが無いと言ったら嘘になるが、ここまで面倒を見てもらった奴らを見捨てたりはしない。ガキ達の事だって心配だし、今は良くなっているかもしれないがそれが何時まで続くかも分からないだろ?

「まだ心配だって顔してんな。だがな、お前ほど天才じゃないが俺達だってここまで生き延びてきたんだ。お前が居なくても何とか生き抜いてみせるさ、俺達の事を舐めるなよ?」
「そんなガリガリの姿で言ったってカッコ良くないぜ」
「ふんっ口が減らないな」
「・・・・俺は見捨てたりしないぜ」
「見捨てろって言ってるんじゃねーよ。ただお前の生きる道を選べって言ってるんだ。冒険者として好きに生きろ」
「・・・・」

 今まで見たことが無い程真剣な顔で言うベルグに俺は何も言えず、そのまま宿に戻ることにした。好きに生きろって言われてもな・・・・宿に戻った俺はベットに寝転がりベルグに言われたことを考えるが、頭がぐちゃぐちゃで纏まらない!はぁ・・・・どうすれば良いんだ?

「クロガネ、おいもう夕方だぞ」
「んぁ?」
「寝てるなんて珍しいな、どうした?疲れたか?」

 考えている内にいつのまにか寝てしまったようで、ブレストに起こされ外を見ると横になった時には明るかった空は赤く染まっていた。うわ・・・・寝すぎだろ俺。

「体調でも悪いのか?」
「いや、別に」
「なんか元気ないな、どうしたんだ?」

 俺じゃよく分からないことだから、ブレストに相談したら何か分かるかもな。俺は今日ベルグに言われたことを話すとブレストは俺の横に座った。

「なるほどな~ベルグさんの気持ちは分かるな~」
「そうなのか?ベルグは俺が邪魔になったのか?」
「そんな訳ないだろ、大切に思ってるからそう言うんだ。そうだな~例えばだぞクロガネが助けた子供達が大きくなって苦労して稼いだ金を恩返しとして差し出してきたらどう思う?」
「俺は自分で稼げるから要らないし自分の為に使えって思う」

 俺は恩返しが欲しくて助けた訳じゃないし、頑張って稼いだ金なんだから大切に使えよな。

「それがベルグさんが考えてることだ。クロガネはもう立派に金を稼いで自分が好きなように生きれられるのに、恩返しとして身を削ってしまう。それはベルグさんにとって、複雑な気持ちなんだと思うぜ」
「・・・・」
「もっと良い将来を選べるのに、自分達の所為でそれを無くしてしまう。それは、親にとって凄く悲しい事なんだ。自分達を気にせず、楽しい人生を歩んで欲しい。それが親心ってやつなんじゃねーかな?」
「勝手に俺の将来を決めるなよ」
「親ってのは子供のことを心配する生き物だ。諦めな」

 別に俺はベルグの子供じゃ無いけどな。まぁ俺を捨てた奴らは親とは言えないから、親が誰かと言われたらベルグだけどさ・・・・

「まぁ結局はクロガネが本当にやりたいことをしろってことだ。クロガネ、お前はこれから何がしたいんだ?」

 ブレストはベットから降りて俺の前に膝をつくと目を合わせながら言う。

「俺は・・・・本当は色々な所に冒険しに行きたい。もっと冒険者の事をブレストから教えて貰いたいしダンジョンにだって一緒に入ってみたい。もっともっと強くなって、話でしか聞いたことが無い場所に行って色々な事を見てみたい。だけど、みんなが心配だ」
「そうか・・・・俺もクロガネと色々な場所に行ってみたいと思ってるぜ。だから、その心配なことを少しでも減らそうか」

 本当は街や冒険者の話を聞いている時から外の世界で、色々な場所を見てみたいとずっと思っていたんだ。だけど、俺には力が無いしガキ達の事も心配だから諦めてたけど、ブレストから知らないことを知るのは凄く楽しくて、もっと色々なものを見て周りたいと思ってしまった。ガキ達は毎日大変なのに俺は冒険に出たいって考えるなんて酷い奴だ。

「俺、最低だよな。ガキ達のことを見捨てるなんて」
「そんなこと無い。子供達は喜んで応援してくれると思うぜ」
「本当にそう思う?」
「あぁ、今度会ったら聞いてみろ。寂しがるだろうけど、凄く喜んでくれると思うぜ」

 そうだったら良いな・・・・

「俺はクロガネがやりたいことを全力で応援してやる。だが、街を出て冒険をするなら実力が必要だ。だから、こうしよう。この街のダンジョンの最下層のボスを倒せたら一緒に色々な場所を巡る旅に出ようぜ」
「良いの?」
「おう、ビシバシ鍛えてやるから覚悟しろよ」
「・・・・どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「クロガネは・・・・弟に似てるんだよ」
「弟?」
「あぁ・・・・それにクロガネは一流の冒険者になるって見込んでいるんだからな。丁度俺はソロだし将来の仲間に投資だぜ」

 いつも俺の味方をして鍛えてくれるブレストはその言葉を言った時だけ少し寂しそうだった。外に出るきっかけをくれたブレストには、感謝してる。だから、必ずその期待に応えてみせる。
 
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