異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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038 みんなでお祭り騒ぎ

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「このまま持ち歩くには結構な額だが、どうする?」
「あー、確かに。どうすればいいですかね?」

 ボクはランタスを見上げる。
 買い物とかするには、多少持っていなきゃダメだけど、さすがに金貨を持ち歩くのは怖すぎる。

「銀貨と銅貨を20枚ずつもあれば大丈夫だろう。あとは預けた方がいいと思うが」
「預ける? どこかに預けれるんですか?」
「ああ、冒険者カードがあればギルドにも預けられる」

 ギルドって、そんなこともしてくれるんだ。
 確かに冒険者ギルドなら、ほとんどの街に存在している。
 
 各地にあるから、一番便利かも。

「冒険者カードあります! 預けたいです!」
「ルルドはギルドに預けるのは初めてか?」
「はい」
「初回なら、名前とか金額をこの紙に記載してくれ」

 バッグから冒険者カードを取り出し、ザイオンが持ってきた紙と鉛筆を前にふと止まる。
 すっかり忘れていたけど、ボクこの世界の文字書けないんだった。

 なんとか読むことは出来るんだけど、一度も習ったことがないから。
 象形文字みたいで、書ける気もしないし。

「あ……あの」

 ボクが言いかけるよりも前に、ランタスがボクのカードを見ながら名前や番号を記載してくれた。

 書けないって、なんとなく気づいてたんだ。
 でも言わずにやってくれるところが、優しいとこ。

 ボクもいつか、ランタスのようにスマートに出来る人になりたいな。

 そして銀貨と銅貨を20枚ずつ抜いた金額も、そこに書いてくれる。

 ボクはザイオンに促されるまま、預けない分のお金をバッグにしまった。
 思ったより、ずっしりとした重みがある。

 あっちの世界は紙のお金もそうだけど、キャッシュレスだったから、なんか新鮮な気分。
 子どものころ、貯金箱の中に貯めていたお金を持ち出しているみたい。

「最後に、ココにサインで出来るか? サインは記号でも、なんでも本人が認識できるものでいい」

 ランタスに言われて、開いている欄を確認する。
 四角く、ハンコでも押すような空白。

 なんて書こうかな。
 荷物受け取る時とかに書くようなものだよね。

 ボクは少し考えたあと、カタカナで『ルルド』と書いた。
 サインだし、ボクだけが分かればいいよね。

 ボクが書いたサインをランタスは興味深く見つめている。
 獣人の言葉って思ったかな。

 ごめんね、獣人語の方がもっと分からないんだ。
 なんてことは言えないけど。

「綺麗なサインだな」
「ありがとうございます、これぐらいしか書けなくて」
「いや、十分だろう」
「じゃあ、ルルド。これで預かりは完了だ。引き出したい時は、ギルドで冒険者カードを出して受付に言えばいい」
「ありがとうございます、ザイオンさん」
「いや。こちらこそ、本当にいろいろすまなかった」

 金庫にお金を入れたあと、ボクの目の前まで来ると、ザイオンは深々と頭を下げた。
 
「あ、あの。そんな、いいんです。気にしないでください。特に何かを頑張ったわけでもないですし」

 ボクは慌てて立ち上がり、ザイオンの肩に手を置く。
 しかしそれでもザイオンは頭を下げたままだった。

「頑張る頑張らないじゃなく、ルルドによってこの街が救われたことには変わりない。だから本当にありがとう」
「……よかったです。ちゃんとみんな救うことが出来て」

 ボクの言葉に、ザイオンはようやく顔を上げた。
 疲れてはいるけれども、その顔はホッとしている。

 明日からちゃんと寝れるといいな。
 そして少しずつ活気を取り戻しているこの街が、早く元通りになりますように。

 心からそう思った。

「さて、そろそろ主役を返さないと、あいつらここまで流れ込みそうだな」

 ザイオンはため息をつく。

「それよりも、ガルドのヤツが全部食べてしまってないかが問題だ」

 二人の言葉に、ボクはさっきのギルド内の様子を思い出す。

「あー、さっきの」
「街を救った英雄と祝賀会がしたいんだとさ」
「英雄だなんて、ボクそんなんじゃないのに」
「いいんだ。あいつらは、ただ単にこじつけお祭り騒ぎがしたいだけだ」

 あー。ただでさえ疲れているだろうザイオンの目が……。
 
「そうだな。ルルドが言うなら、それもありだろう」
「仕方ない。片づけも収拾も、あとでシーラを呼べばいいさ。きっと怒ってくれるはずだ」
「ふふふ、それ」

 なんだか本当にお祭り騒ぎのようで、ボクはわくわくしてきた。
 
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