上 下
3 / 10

003

しおりを挟む
 父である王のいる謁見の間には、すでに他の大臣たちも控えていた。皆誰もが、私の顔を見た瞬間に視線を逸らす。

 なんなのよ、その態度は。一応、私この国の第二王女なんですけど?

 入って来た瞬間に目を逸らすとか、失礼極まりないわ。

 別に上から目線で説教する気なんてさらさらないけど、フツーに人としてダメでしょう。

 まったくもぅ。


「参りましたお父様」


 内心とは裏腹に、あくまで優雅に私は微笑む。



「来たかエリザ」

「はい。何やらお急ぎとのことで……」

「うむ」


 父は私の顔を見るなり、何かを言いかけたまま下を向いた。そして、自慢の白い顎髭を何度も触っている。

 基本、父は今までこれでもかというほど私を甘やかせてきた。

 それもそう、私はこの父譲りのハニーブロンドの長い髪にブルーの瞳。

 父はどちらかといえば、自分によく似てそして美人な私のことを愛していたと思う。

 だからこそ、一応結婚適齢期であっても婚約者すらいない箱入り娘なわけだし。


「なにやら、私の結婚が決まったとかなんとか?」


 このままではらちが明かないため、こちらから切り出す。

 そして父の周りの大臣たちの顔を見れば、益々目線を合わせようとはしなかった。


「お父様?」

「うむ……」

「誰か、状況を説明出来ないのですか?」

「いや、わしからしよう」

「はい、お父様」

「お前の結婚が決まったんだ」

「お相手はどなたなのですの?」


 王女と言う立場上、政略結婚は免れないなぁとは薄々思ってはいたけど。

 普通だと、婚約期間を経てからの結婚となるハズ。それがいきなり結婚だなんて……。


「隣国のアゼル王だ」

「は?」


 我ながら、らしくない言葉だと思う。でも思わず素が出てしまうほどの、それは爆弾発言だった。

 隣国アゼルは戦の好きな好色王が治める国。

 確か王様は齢60を過ぎていたハズ。しかも王妃はすでに12人ほどいたんじゃないかしら。

 そんな人のところに嫁げですって? 冗談でしょう。

 
「よりによって、60過ぎの狒々爺ひひじじいの13番目の王妃にだなんて」

 こっちは初婚なのよ。それにまだ17歳。中身は違うけど。

 しかもこの国一番の美女と言ってもいいくらいなのに、じいさんロリコンすぎでしょう。

 向こうの世界だったら、絶対に捕まる案件だからね。

 うわぁ、ないわ。うん、絶対にない。

 でも、こんなに言いにくそうに切り出すってことは相当のことがあったってことよね。

 一応、聞くだけは聞くけど。


「エリザ、すまない」

「お父様、すまないでは分かりません。きちんと経緯を説明なさって下さい」


 もちろん納得できない内容なら、絶対に破棄させてやるんだから。

 内心息巻く自分を抑えつつ、あくまでも可憐で儚げな王女の表情を私は浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。 そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。 ※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様 ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない

七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい! かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。 『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが...... どうやら私は恋愛がド下手らしい。 *この作品は小説家になろう様にも掲載しています

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

処理中です...