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くらくらと眩暈を覚えるのは、きっと馬車に無理やり押し込められたせいだけではないだろう。
地を這いつくばるとはよく言ったもので、アレンたちに連れてこられた彼の屋敷につくなり、その腕を引かれ執務室へと来た。
そしてそのまま乱暴に腕を離され、私は今地べたに座り込んでいる。
「ホント、いいざまね」
「……」
「あら、今度はだんまり?」
そうですね。すでにしゃべるのすら、こっちはめんどくさいのです。馬鹿を相手にしても何の得にもなりませんので。
ユノンたちが人質に取られてなかったら、もっといくらでもやりようがあるのに。
今は抵抗することも、逃げ出すことも正直出来ない。やっぱり護衛は必須だったなぁ。さすがにここまで実力行使に出るとは思わなかったのよね。
仮にも貴族だし。身内だからっていうよりも、こんなことが明るみになったらタダでは済まされないから。
だからさすがにって思ってたんだけど。馬鹿はその上を行くってことね。
うん。次からは覚えておこう。もっとも、この二人よりも馬鹿な人間がいれば、の話だけど。
「恐怖で声も出ないのか、オリビア」
恐怖ねぇ。正直、馬鹿がどこまでやってくるか分からない恐怖ならあるわね。犯罪って二文字の意味とか、知ってるのかしら。
「黙っててもどうでもいいんですわ。アレン様、ほらアレにサインさせちゃいましょう」
「そうだな、シーラ」
んんん? なんか言い始めたし。アレって、何かしら。いい予感はしないんだけど。
とりあえずはその用意されたものを見るしかないのよね。
アレンはシーラに言われて、自分の机の上から何やら契約書のようなものを取り出す。そして投げ捨てるように私の前に落とした。
読めってことなのかしら。
「サインしろ! 今すぐにだ!」
読まずにサインする馬鹿がどこの世の中にいるのかしら。こんな怪しげなモノなど、読んでもサインはしないんだけど。
「どうしてですか?」
「書いてある通りだからだ」
「読んでもいないので、書いてある通りと言われても分かりません」
「分からなくてもいいからサインをしろ! お前はおれの言うことが聞けないのか」
「聞く聞かないではなく、知らないものを出されてサインをする者がどこにいるのですか。そして、私はアレン様のモノではございません。でしたら、読みもせずになど無理があるのではないですか?」
自分から捨てても、まだ私は自分のモノだって思っているのかしら。ほんっとーに、何様なんだろう。あ、おれ様か……。
頭上でわめくアレンをよそに、私はその書類を拾い上げて目を通した。
えっと、なになに。雇用契約書?
その馬鹿げたともいえる契約書には、私をこの侯爵家で使用人として雇うというものだった。しかも終身雇用であり、お給金はほぼなし。
そのかわりこの屋敷にタダで住まわせ、衣食住は保障してやる、と。
契約解除は雇用主からのみしか出来ず、結婚や恋愛禁止まで盛り込まれていた。
また休みもなく、許可のない外出も禁止。
おそらくこの契約書はアレンとシーラが二人で考えたものなのだろう。
読んだあと、二人の顔を見ればにやにやと魂胆が透けてみえる。
こんな契約書、よく考えたものね。こんなにひどいものは初めて見たわ。でもあの顔からして、よく書けてるだろうって言いたいんだろうなぁ。
「さぁ、読んだんだろう。サインしろ」
「……お断りいたします」
「なんだと! 読む時間を与えてやったというのに」
「こういうものは、シーラにサインさせたらよろしいのではないですか?」
「なんですって。どうしてそこでわたしの名前が出てくるのよ。お姉さま、とうとう頭がおかしくなってしまったんではないですの?」
「だってアレン様との結婚内容が、まさにコレだもの」
「「なっ」」
見事に二人の声が重なった。
書いてて気づかなかったのかなぁ。こんなある意味奴隷契約みたいな書類が、この結婚そのものだって。
地を這いつくばるとはよく言ったもので、アレンたちに連れてこられた彼の屋敷につくなり、その腕を引かれ執務室へと来た。
そしてそのまま乱暴に腕を離され、私は今地べたに座り込んでいる。
「ホント、いいざまね」
「……」
「あら、今度はだんまり?」
そうですね。すでにしゃべるのすら、こっちはめんどくさいのです。馬鹿を相手にしても何の得にもなりませんので。
ユノンたちが人質に取られてなかったら、もっといくらでもやりようがあるのに。
今は抵抗することも、逃げ出すことも正直出来ない。やっぱり護衛は必須だったなぁ。さすがにここまで実力行使に出るとは思わなかったのよね。
仮にも貴族だし。身内だからっていうよりも、こんなことが明るみになったらタダでは済まされないから。
だからさすがにって思ってたんだけど。馬鹿はその上を行くってことね。
うん。次からは覚えておこう。もっとも、この二人よりも馬鹿な人間がいれば、の話だけど。
「恐怖で声も出ないのか、オリビア」
恐怖ねぇ。正直、馬鹿がどこまでやってくるか分からない恐怖ならあるわね。犯罪って二文字の意味とか、知ってるのかしら。
「黙っててもどうでもいいんですわ。アレン様、ほらアレにサインさせちゃいましょう」
「そうだな、シーラ」
んんん? なんか言い始めたし。アレって、何かしら。いい予感はしないんだけど。
とりあえずはその用意されたものを見るしかないのよね。
アレンはシーラに言われて、自分の机の上から何やら契約書のようなものを取り出す。そして投げ捨てるように私の前に落とした。
読めってことなのかしら。
「サインしろ! 今すぐにだ!」
読まずにサインする馬鹿がどこの世の中にいるのかしら。こんな怪しげなモノなど、読んでもサインはしないんだけど。
「どうしてですか?」
「書いてある通りだからだ」
「読んでもいないので、書いてある通りと言われても分かりません」
「分からなくてもいいからサインをしろ! お前はおれの言うことが聞けないのか」
「聞く聞かないではなく、知らないものを出されてサインをする者がどこにいるのですか。そして、私はアレン様のモノではございません。でしたら、読みもせずになど無理があるのではないですか?」
自分から捨てても、まだ私は自分のモノだって思っているのかしら。ほんっとーに、何様なんだろう。あ、おれ様か……。
頭上でわめくアレンをよそに、私はその書類を拾い上げて目を通した。
えっと、なになに。雇用契約書?
その馬鹿げたともいえる契約書には、私をこの侯爵家で使用人として雇うというものだった。しかも終身雇用であり、お給金はほぼなし。
そのかわりこの屋敷にタダで住まわせ、衣食住は保障してやる、と。
契約解除は雇用主からのみしか出来ず、結婚や恋愛禁止まで盛り込まれていた。
また休みもなく、許可のない外出も禁止。
おそらくこの契約書はアレンとシーラが二人で考えたものなのだろう。
読んだあと、二人の顔を見ればにやにやと魂胆が透けてみえる。
こんな契約書、よく考えたものね。こんなにひどいものは初めて見たわ。でもあの顔からして、よく書けてるだろうって言いたいんだろうなぁ。
「さぁ、読んだんだろう。サインしろ」
「……お断りいたします」
「なんだと! 読む時間を与えてやったというのに」
「こういうものは、シーラにサインさせたらよろしいのではないですか?」
「なんですって。どうしてそこでわたしの名前が出てくるのよ。お姉さま、とうとう頭がおかしくなってしまったんではないですの?」
「だってアレン様との結婚内容が、まさにコレだもの」
「「なっ」」
見事に二人の声が重なった。
書いてて気づかなかったのかなぁ。こんなある意味奴隷契約みたいな書類が、この結婚そのものだって。
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