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023 私だけ振り回されて

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 夜会で一通り貴族たちへの挨拶を終える頃には、すっかり私は疲弊していた。

 ただ自分の結婚式についての謝罪をして、とっとと帰ろうと思っていたのに。
 マルクの行動のせいでその話はかき消され、婚約の話に切り替わってしまったから。

 今まで婚約者を持たなかったマルクに対するみんなの興味は、私に一身に降り注いでしまった。
 こんな展開も、こんな経験も生まれて初のこと。
 いろんな令嬢たちに囲まれて馴れ初めや、どのように求婚されたのかなど聞かれる日が来るとは思わなかったわ。

 しかも相手はマルクだし。

 令嬢たちからしてみればマルクはかなりの優良物件であって、しかも難攻不落とされてきた。
 それがぽっと出の、しかもしがない男爵令嬢が~となれば、話のネタにならないわけはないものね。

 それをされてるこっちは、全くいい迷惑なんだけど。

 だいたい、ありもしない夢物語のような求婚話をマルクはいつ思いついたんだか。
 頭の良い宰相様は、私なんかとは思考回路が違いすぎるわね。

「たくさんの方たちに囲まれて、疲れましたか?」

 安定に私と話す時のマルクの表情は優しい。
 死ぬほど疲れました。と言いかけて、私は思いとどまる。
 なんか私だけが振り回されて疲れているって、自分から言うのもなんか癪なのよね。

 マルクは一ミリも疲れていなさそうな顔をしているし。
 なんなのこの差は。
 宰相ってどう考えても文系のやさ男ってイメージなのに、マルクはそのイメージには当てはまらないのよね。
 なんならアレンと喧嘩したって、負けなさそうだし。

「ほんの少し……。ある程度、あの子たちの行動は予想がついていたのですが、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったので」
「ああ。あいつらはかなり酷かったですね。あれは今後どうにかしないとダメだね」
「そうですねぇ。でもまぁ、それ以上の展開で私はびっくりしたんですけど?」

 そうよ。だーーーーれがどう考えたっておかしいでしょう。
 昨日は寝取られからの婚約破棄で、本日新しい婚約者が出来ました?
 しかもお相手は幼馴染であり、アレンなんかよりずっと身分も良くて顔も良くてお金持ちの宰相様だなんて。

 それにずっと私のことを想っていたから今まで婚約をしなかった?
 どこの物語なのよ。いや、その当人になってしまったのだけど……。
 そう、そのお相手なのよね、私。

「そうですか? 俺はまさに天啓だと思いましたけどね。今を逃したら、もうダメになってしまうって」
「んんん? 天啓? 今を逃したら?」
「そうですよ。降ってわいたように君の婚約破棄があったからね。これを逃したらもう二度と、こんなチャンスは来ないだろうから」

「えっと、それは国王様の件で、という見方でよろしいのでしょうか?」
「陛下? それはなんのことだい?」
「え、だってさっき……」

 シラを切る気なのかしら。
 仕方なく乗ってしまった船ですから、もう降りられそうもないし、お芝居は続けてあげるけれども。
 そうだけれども!
 ちゃんとワケくらい聞かせてもらわないと割に合わないわよ。
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