悪役転生を回避したら、隣国の皇后にさせられました。~後宮の陰謀とか、私には無理デス!~

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

文字の大きさ
上 下
5 / 5

005

しおりを挟む
梓睿ズールイいい加減にしないか! この娘は危険も省みず、しかも損得すら考えずに俺を助けたんだぞ」

「……申し訳ございません」

「まだ名前を聞いていなかったね」

「……翠蘭スイランです」

「君の髪と瞳の色にぴったりの美しい名前だ。翠蘭、俺に力を貸してほしいことがあるんだ」

「謹んでお断りいたします」

「そうは言わずに、まず話を聞いて欲しい」


 私はため息を付きながら春蕾を見た。白く長い指に、ややか細い腕。

 私よりも春蕾は華奢であり、どこからどう見ても女性にしか見えない。これで男性……しかも皇帝なのよね。全然そんな風には見えない。

 確か前帝が病気にて急逝されて、弟だった春蕾がそのまま今帝になるしかなかった。

 なんかこう見ると、皇帝の器じゃないっていうか皇帝って人とイメージがかけ離れているわね。


「俺を助けてくれ、翠蘭」


 瞳を潤ませながら、春蕾は真っすぐに私を見た。

 ううう。ある意味卑怯ね。私の性格をさっき知って、断れないと思っているからこんな作戦に出るんでしょう。でもいくら私でもそこまでは優しくないのよ。


「そんな手には引っかからないんですから」

「頼む……この伏魔殿のような中では、中の人間など誰も信じられない。俺には君の助けが必要なんだ」

「……」

「頼む……助けてくれ」


 その瞳も声も、私には悲痛な叫びに思えた。

 それほどまでに……見ず知らずの私に縋りつきたくなるほどの苦しみ。

 私の胸のどこかが小さく痛む。彼の瞳は昔見たことがある。そう……私が捨てた過去に。

 だからこそ、彼を助けることがなにを意味するのか。どんな結果になるのか。分かってはいても、どうすることも出来ない自分がいた。


「分かりました」

「ありがとう翠蘭」


 喜びながら私を抱きしめた春蕾からは、百合の花の匂いがした。


「君が引き受けてくれて嬉しいよ。俺の妃となってこの後宮を制圧してくれ」
 
「「は?」」


 思わず宦官と私の声が重なる。

 今春蕾はなんて言った? いや、助けるなんて簡単に返事はしちゃったけどさぁ。それにしても妃ってなに、妃って。そういうのはビジネスライクでなれるものでもないのよ。


「むーーーーりーーーーー」


 叫ぶ私を無視し、春蕾は誰よりも狡猾そうな笑みを浮かべた。

 騙された。失敗した。そんなことを思うのにさほど時間はかからなかった――
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

太真
2024.02.18 太真

005 永職場とお家をゲット⁉️😅。

2024.02.18 美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

ですです( *´艸`)

解除
二位関りをん

初めまして。作品読まさせていただきました。
続きが気になります!

2023.09.25 美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

はじめまして、りをんさま

すごくすごーーーく嬉しい感想、ありがとうございました。
続きが書けるように頑張ります(>_<)

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。