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 どれだけ意識を失っていたのだろうか。

 もしかすると時間にしたら、ほんの数分のことなのかもしれない。

 背中を何かに蹴られる感覚で、私はぼんやりとする意識を取り戻した。


「ああ、まだ生きていたのですね」


 見上げるとそこには、私と同じ顔をしたエレーネがいた。

 そして何とも残念だと言わんばかりに、盛大なため息をつく。

 私は一瞬、エレーネの言った言葉の意味が理解できず、瞬きをした。

 まだ? それってどういう意味なの?


「あー、でも全然動けないところを見ると、禁忌だった生命力の魔力変換を行ったんですねお姉さま」

「え……レーネ?」

「やだ、汚い手なんてわたしに伸ばさないで下さいな」


 やや小馬鹿にしたように、エレーネは地に伸ばした私の手を踏みつけた。


「ああああぁぁ!」


 痛みと胸の痛み、そして感じたことのない感情が全身を締め付ける。

 どうして? なんで? 私はエレーネのために身代わりになったというのに。


「あはははは。笑える。全くワケが分からないといった顔ですね、お姉さま」

「ぅぅぅぅ」

「やだ、ホントに惨めすぎるわ。こんなことなら一思いに死んでしまった方が、聖女としての華がありましたのに~。ざーんねん」

「なん、で?」

「あら、ホントに分からないんですの? そんなの決まってるじゃないですか。目障りだったからですよ、お姉さま」

「めざ……わり?」

「だってそうでしょう? 同じ顔で、同じ聖女? 冗談じゃないわ。わたしの方があんたなんかよりもずっとずっと優れているのに!」


 エレーネは屈みこみながら、私を見た。

 ただ憎しみに溢れるようなその瞳が私を写す。

 いつからこの子の瞳は、こんなにも濁ってしまったのだろう。いつからこんな風に私を憎んでいたのだろう。

 今日まで私はずっと隣にいたのに、全く気づきもしなかった。

 踏まれた手が痛みを感じないほど、ただ悲しみが頬を伝い落ちる。


「邪魔だったのですよ。ずっとずっと、ずーーっと、ね。この世界に崇拝されるべき聖女はわたし一人で充分。だからとっとと死んでくださっていいのですよ?」

「私は……エレーネのこと……」

「可愛い妹? 冗談ではないわ。同じ顔だからこそ、嫌なのよ! とっとと死んで。そのために、これを計画したんだから」

「どういう、こと? まさか、あ……なた!」


 計画した? これを?

 
「お姉さまは、いつもとーっても偽善的でしたからね。きっとわたしの代わりに術を使ってくださると思ってたんですよ」

「そんなこと、もし……」

「ああ、国が滅びたらって説教ですの? やだやだ。さすがにその時はどうにかしましたわ。でもほら、現実お姉さまは死にかけてくれてるじゃないですの」


 心底嬉しそうに笑うエレーネは、自分のしたことを少しも悪びれる様子はない。

 私に力を使わせて死なせるためだけに結界に亀裂をいれるなんて、狂ってる。

 もし封印が間に合わなければ、大惨事になっていたというのに。

 そんなこと、この子には何にも関係ないのね。

 同じ聖女としてずっと二人で生きてきて、同じものを見て、同じ方向を向いていると思っていた。

 でも現実はそうではなかった。

 むしろまったくの逆。エレーネは自分だけが聖女として崇められたかっただなんて。

 絶望が、さらに私の力を奪っていくようだった。
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