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鬱蒼と茂る木々。蒸し返し、肌に纏わりつくような熱気。
私は何度も木の根や泥に足を取られながらも、ただ前に進んだ。
少しでも早く。
焦る気持ちを抑えかき分けるように進むと、急に森が開けた。
その開けた空間だけはまるで異次元のように、音もなく、空気がひんやりとしている。
「ここが封印の地? すごいわね」
山壁を綺麗にそぎ落としたような岩肌には封印の紋章が浮かび上がり、その前に祭壇があった。
「ああ。これは……」
よく見れば封印には所々亀裂のようなものが縦に無数走っている。
中から出来た傷なのか、外から出来てしまったものなのか。
ともすればこの岩肌ごと、崩れ落ちてしまうのではないかという感覚を覚えた。
そしてゆっくりと祭壇に近づくにつれ、封印の奥にから溢れてくる魔力のような力が私を押し戻そうとする。
「ダメよ、イリーナ……。逃げたらエレーネも騎士様たちもみんな助けられないわ。私がしっかりしないと」
両頬を叩き気合を入れると、祭壇の中央に跪き祈りをささげる。
「聖なる御力は聖なる結界となりて、悪しき者たちを阻まん。ホーリーバリア!」
祈りを捧げた腕を結界へと伸ばすと、網目状の術式展開が岩肌を覆っていく。
そしてそれと同時に体内にある魔力をごっそりと奪っていった。
ああ、でも……。
元ある封印に重ねるようにかけた結界は、私の魔力全てを注いでも覆いつくすことは出来ない。
「くぅっっっ!」
魔力だけではない、生命力を注ぎ込んでもこれでは無理だわ。
諦めちゃダメだと言いながらも、心が折れそうな自分がいる。
私にエレーネほどの魔力があったら……。もう少し力があれば……。
でもそんな泣き言は誰の耳に届くこともない。本来は禁止されている生命量の魔力変換を行って、全て使い切ったとしてもこのままではどうにもならない。
私は元の封印を覆いつくすことを諦め、代わりに魔力を糸のように細く縒り、元の結界を縫い合わせていく。
「かはっ! くっ、まだ、なのに……後、少し、まだ……ダメよ」
抜けて行く力と比例するように、何かが心臓を締め上げていく。
そしてその苦しみに口を開けば、口から血がにじみ出す。
ダメよ。あと少し、もう少しなの。
だからお願い。体よ、持ちこたえて。
ゆっくりと丁寧に刺繍を施すように、魔力の糸で綻びた結界が縫い合わされていった。
そしてすべての亀裂箇所に魔力の糸が行きわたると、封印の結界が強く輝き出した。
その光はこの開けた空間から空にキーンという甲高い音をたてて、飛び立ってく。
「ふふふ良かった。なんとか……もったみたい、ね」
息を吹き返した結界を見届けると、私は意識を失った。
私は何度も木の根や泥に足を取られながらも、ただ前に進んだ。
少しでも早く。
焦る気持ちを抑えかき分けるように進むと、急に森が開けた。
その開けた空間だけはまるで異次元のように、音もなく、空気がひんやりとしている。
「ここが封印の地? すごいわね」
山壁を綺麗にそぎ落としたような岩肌には封印の紋章が浮かび上がり、その前に祭壇があった。
「ああ。これは……」
よく見れば封印には所々亀裂のようなものが縦に無数走っている。
中から出来た傷なのか、外から出来てしまったものなのか。
ともすればこの岩肌ごと、崩れ落ちてしまうのではないかという感覚を覚えた。
そしてゆっくりと祭壇に近づくにつれ、封印の奥にから溢れてくる魔力のような力が私を押し戻そうとする。
「ダメよ、イリーナ……。逃げたらエレーネも騎士様たちもみんな助けられないわ。私がしっかりしないと」
両頬を叩き気合を入れると、祭壇の中央に跪き祈りをささげる。
「聖なる御力は聖なる結界となりて、悪しき者たちを阻まん。ホーリーバリア!」
祈りを捧げた腕を結界へと伸ばすと、網目状の術式展開が岩肌を覆っていく。
そしてそれと同時に体内にある魔力をごっそりと奪っていった。
ああ、でも……。
元ある封印に重ねるようにかけた結界は、私の魔力全てを注いでも覆いつくすことは出来ない。
「くぅっっっ!」
魔力だけではない、生命力を注ぎ込んでもこれでは無理だわ。
諦めちゃダメだと言いながらも、心が折れそうな自分がいる。
私にエレーネほどの魔力があったら……。もう少し力があれば……。
でもそんな泣き言は誰の耳に届くこともない。本来は禁止されている生命量の魔力変換を行って、全て使い切ったとしてもこのままではどうにもならない。
私は元の封印を覆いつくすことを諦め、代わりに魔力を糸のように細く縒り、元の結界を縫い合わせていく。
「かはっ! くっ、まだ、なのに……後、少し、まだ……ダメよ」
抜けて行く力と比例するように、何かが心臓を締め上げていく。
そしてその苦しみに口を開けば、口から血がにじみ出す。
ダメよ。あと少し、もう少しなの。
だからお願い。体よ、持ちこたえて。
ゆっくりと丁寧に刺繍を施すように、魔力の糸で綻びた結界が縫い合わされていった。
そしてすべての亀裂箇所に魔力の糸が行きわたると、封印の結界が強く輝き出した。
その光はこの開けた空間から空にキーンという甲高い音をたてて、飛び立ってく。
「ふふふ良かった。なんとか……もったみたい、ね」
息を吹き返した結界を見届けると、私は意識を失った。
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