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 幾日も前から、雨期でもないのに降り続く雨。

 そのせいでこの広い王都にはいろんな報告が上がっていた。

 土砂崩れや川の氾濫、そのために幾人もの命が失われていく。

 異変を感じ取った王家と教会は、国の隅々までに兵や人を派遣した。

 そこで一つの異変が見つかった。

 王都の最北にある北の山の麓には、大昔に初代聖女が施した結界の大魔方陣が敷かれている。

 その魔方陣に亀裂が入っているというものだった。

 大神官は今置かれた王都の状況を、ただ分かりやすく端的に説明していく。

 このままでは王都だけではなく、この大陸をも滅びるかもしれないことをーー


「大神官様、その話は本当なのですか?」


 私たち姉妹以外にも、ほぼ全ての神職の者たちを集めた聖堂には小さな声で話すたくさんの声で溢れていた。

 先ほどされた大神官の話を、誰もが信じられなかった……いや、信じたくなどなかったから、だ。

 初代聖女は、私たちからすればほぼ伝説上のお方だ。

 凄まじい魔力と、恐ろしい戦闘力を持って、仲間と共に北の地に厄災と呼ばれた魔物たちを封じ込めた人。

 魔法も剣も使えたというのだから、相当な強さだったと思う。

 この時代にも魔力と言うものは残ってはいるものの、厄災を封じ込めた頃よりどんどんその力はこの地から消失しつつある。

 だからこそ、魔力を扱うことが出来る私たち姉妹は聖女としてこの教会に迎えられた。

 
「聖女イリーナ、残念ながらその質問は本当だと答えるしかないのだよ」

「そんな……」


 落胆する大神官の言葉に、ざわつきは大きくなるばかり。

 誰もが皆、不安でしかなかった。

 だってもう、初代聖女のような力を持つ者は誰もいないから。

 そう私たち姉妹ですら、おそらくその足元にもおよびはしない。

 そしてもちろんそのことは、この教会関係者なら誰もが知っていた。


「でも、その大魔方陣を敷きなおせば良いだけではないんですかー?」

「エレーネ、でも敷き直すって言っても私たちでは……」

「だって大神官様の話では、まだ完全に破られたワケではないんでしょう? それなら、今ある大魔方陣の上に重ねちゃえば何とかなるんじゃないかなぁ」

「重ねる……」


 確かに今は亀裂が入っただけの状態で、全部が破られてしまったわけではない。

 前の大魔方陣を繋ぎ合わせるように塞いだり、上からもう一枚被せてしまえればなんとかなるのかしら。


「さすが聖女エレーネ」

「聖女エレーネは聡明でいらっしゃる」


 ざわつく声が、妹を褒めたたえる声に変わった。

 確かに妹の言うように、それが出来るのならそんなに大きな魔力がない私たちでも出来るかもしれない。


「可能かもしれないし、可能ではないかもしれない」

「それはどういう意味ですか?」


 大神官様にしては、ずいぶん歯切れの悪い言い方だった。

 可能かどうかわからないというより、むしろその言い方ではほぼ無理と言っているようだわ。


「封印の大魔方陣自体、発動させるのにとても多くの魔力が必要なのだ。しかも、先程の聖女エレーネが言った通りに術を行うのならば聖女は北の地に行かなければならない」

「大きな魔力に……しかも、北の地で儀式を行う」


 つまり、だ。

 おそらくこの術の発動は、私には難しいと遠巻きに言っているのね。

 しかも北の地で術を展開……。今、北の地は溢れた厄災により魔物が多くいると聞くし。

 そんな地に、エレーネが赴くだなんて無茶だわ。


「北の地に行くのはさすがに危険すぎるのでは?」

「いや、それよりももっと大きな問題があるのだよ聖女イリーネ」


 大神官はその視線を落とし、私たち姉妹から目を背けた。
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