50 / 52
050
しおりを挟む
ユリティスが体を密着させてくる。
距離が近づいた分、逆に足が自由が利くようになったことに気づく。
どうせ泣き叫んでも助けが来ないならば……。
私はユリティスが触る反対の足を高く振り上げ、そのまま踵でユリティスの背骨目がけて振り下ろした。
「ぐはっ!」
さすがに渾身の一撃を背骨に食らい、背中を押さえたユリティスが体を起こす。
私は上体を素早く起こすと、足でユリティスの顎を蹴り上げた。
「ああああ、きさまぁ!」
「そこらの令嬢と一緒にしないでちょうだい。こっちはあんたなんかより、よっぽど長く生きているんだから」
どこが急所かぐらいは、私にも分かる。
ただ、ユリティスを蹴り上げた足が痛い。結局頑張っても、体はひ弱な令嬢ってとこが残念過ぎる。
それでも抵抗しないわけにもいかず、私はベッドから飛び降りた。
「待て!」
立ち上がろうとした瞬間、ユリティスの手が髪を掴んだ。
「いったぁぁぁあい! やだ、離して! 離しなさい!」
「お前みたいなやつを生かしておいたことが間違いだった。ユイナの言う通り、初めから殺しておけばよかったよ」
「ふざけないで! そんな自分たちにだけ都合のいい話、通るわけないでしょう」
髪の根元を持ちダメージ軽減を試みても、ユリティスの手はぐいぐいと力を強め、手繰り寄せる。
「いったーーい。離して!」
「離せと言われて、離すわけがないだろう。いい加減に大人しくしろ。こんな女のどこに、殿下が惹かれたのか、さっぱりわからないな」
「ルド様の悪口は辞めて。それに、自分のコトしか見えない女と、権力のコトしか頭にない馬鹿な奴より、私も十分マシだと思いますけど?」
もうどうせ殺されるなら、言いたいことも言ってやる。
まったく、ホントにこの転生は何なのだろう。
せっかく社畜を卒業したというのに、勘違いヤンデレルートからに入ったと思ったら、権力争いで殺害フラグ?
冗談じゃないわ。前世で何をしたって言うのよ。っていうか、これ運とかの問題だけじゃないでしょう。
ただこんな時ですら願うのは、一目だけでもルドに会いたいという思いだけ。
もっと素直になれていたら選択を間違えなければ、こんなことにはなっていなかったのかな。
そう考えると全てが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
受け入れてもらえないことばかり考えて、私はなにもしてこなかったのだから。
「貴様、今すぐ殺してやる」
「ルド……さま……」
会いたいよ。会いたかった……もう一度だけでも。ただ、あなたに。
ユリティスは腰に差していた剣を抜き放った。
目を瞑るしか、私には出来なかった。
切られたら痛いのだろう。などと思いつつも、その瞬間はついには来なかった。
その代わりに、金属と金属の擦れるような甲高い音が部屋の中に響き渡る。
「!?」
恐る恐る目を開けると、視界いっぱいに望んでいた人の背中があった。
「ル……ド様?」
今すぐに抱き着きたくなる気持ちを必死に抑える。
先ほど剣を持っていたユリティスはどうしたのかと肩越しに覗けば、腕を押さえうずくまったユリティスが見える。
ルドも剣を構えているところを見ると、ルドが弾き飛ばしたのだろう。
私、助かったの? もう大丈夫ってと? ルド様が本当に助けに来てくれたの?
これ、都合のいい夢じゃないよね。
体中から感じる痛みは、確かに現実を伴っている。
そっか、これも現実なんだ。なんだ……そこまで私、運に見放されてなかったのかな。
ふふふ。ルド様だ……。ちゃんと私の目の前にいる。
この瞬間を待っていたかのように、数名の騎士たちも部屋になだれ込んで来た。
「アーシエ!」
「ルド様……会いたかった……」
ルドの声が遠くから聞こえた。
そしてその温かな腕に抱きとめられる。
「ああ、よかった。アーシエ、君が無事で」
もう離れたくない。
そんな思いの中、私は意識の糸を手放した。
距離が近づいた分、逆に足が自由が利くようになったことに気づく。
どうせ泣き叫んでも助けが来ないならば……。
私はユリティスが触る反対の足を高く振り上げ、そのまま踵でユリティスの背骨目がけて振り下ろした。
「ぐはっ!」
さすがに渾身の一撃を背骨に食らい、背中を押さえたユリティスが体を起こす。
私は上体を素早く起こすと、足でユリティスの顎を蹴り上げた。
「ああああ、きさまぁ!」
「そこらの令嬢と一緒にしないでちょうだい。こっちはあんたなんかより、よっぽど長く生きているんだから」
どこが急所かぐらいは、私にも分かる。
ただ、ユリティスを蹴り上げた足が痛い。結局頑張っても、体はひ弱な令嬢ってとこが残念過ぎる。
それでも抵抗しないわけにもいかず、私はベッドから飛び降りた。
「待て!」
立ち上がろうとした瞬間、ユリティスの手が髪を掴んだ。
「いったぁぁぁあい! やだ、離して! 離しなさい!」
「お前みたいなやつを生かしておいたことが間違いだった。ユイナの言う通り、初めから殺しておけばよかったよ」
「ふざけないで! そんな自分たちにだけ都合のいい話、通るわけないでしょう」
髪の根元を持ちダメージ軽減を試みても、ユリティスの手はぐいぐいと力を強め、手繰り寄せる。
「いったーーい。離して!」
「離せと言われて、離すわけがないだろう。いい加減に大人しくしろ。こんな女のどこに、殿下が惹かれたのか、さっぱりわからないな」
「ルド様の悪口は辞めて。それに、自分のコトしか見えない女と、権力のコトしか頭にない馬鹿な奴より、私も十分マシだと思いますけど?」
もうどうせ殺されるなら、言いたいことも言ってやる。
まったく、ホントにこの転生は何なのだろう。
せっかく社畜を卒業したというのに、勘違いヤンデレルートからに入ったと思ったら、権力争いで殺害フラグ?
冗談じゃないわ。前世で何をしたって言うのよ。っていうか、これ運とかの問題だけじゃないでしょう。
ただこんな時ですら願うのは、一目だけでもルドに会いたいという思いだけ。
もっと素直になれていたら選択を間違えなければ、こんなことにはなっていなかったのかな。
そう考えると全てが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
受け入れてもらえないことばかり考えて、私はなにもしてこなかったのだから。
「貴様、今すぐ殺してやる」
「ルド……さま……」
会いたいよ。会いたかった……もう一度だけでも。ただ、あなたに。
ユリティスは腰に差していた剣を抜き放った。
目を瞑るしか、私には出来なかった。
切られたら痛いのだろう。などと思いつつも、その瞬間はついには来なかった。
その代わりに、金属と金属の擦れるような甲高い音が部屋の中に響き渡る。
「!?」
恐る恐る目を開けると、視界いっぱいに望んでいた人の背中があった。
「ル……ド様?」
今すぐに抱き着きたくなる気持ちを必死に抑える。
先ほど剣を持っていたユリティスはどうしたのかと肩越しに覗けば、腕を押さえうずくまったユリティスが見える。
ルドも剣を構えているところを見ると、ルドが弾き飛ばしたのだろう。
私、助かったの? もう大丈夫ってと? ルド様が本当に助けに来てくれたの?
これ、都合のいい夢じゃないよね。
体中から感じる痛みは、確かに現実を伴っている。
そっか、これも現実なんだ。なんだ……そこまで私、運に見放されてなかったのかな。
ふふふ。ルド様だ……。ちゃんと私の目の前にいる。
この瞬間を待っていたかのように、数名の騎士たちも部屋になだれ込んで来た。
「アーシエ!」
「ルド様……会いたかった……」
ルドの声が遠くから聞こえた。
そしてその温かな腕に抱きとめられる。
「ああ、よかった。アーシエ、君が無事で」
もう離れたくない。
そんな思いの中、私は意識の糸を手放した。
2
お気に入りに追加
868
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
【完結】騙された? 貴方の仰る通りにしただけですが
ユユ
恋愛
10歳の時に婚約した彼は
今 更私に婚約破棄を告げる。
ふ〜ん。
いいわ。破棄ね。
喜んで破棄を受け入れる令嬢は
本来の姿を取り戻す。
* 作り話です。
* 完結済みの作品を一話ずつ掲載します。
* 暇つぶしにどうぞ。
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる