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もし無事に帰ることが出来たら、ルドに謝ってから伝えよう。
今の私はアーシエではない。
でもそれでも、誰よりもあなたを愛していると。
もしそれでだめになるのならば、仕方のないことだときっと諦められる。
今のままアーシエを演じて苦しくなるより、真実を告げる方がずっとマシだ。
だって愛しているから。もう止めようのないぐらいに。
「貴女、あの薬は効いていたというコトなのね」
「ええ、おかげ様で。もっとも、ユイナ令嬢が望むような、右も左も分からぬようなか弱い少女ではなくて、申し訳ないですわ」
「ホント、忌々しい」
「そう文句を言われましても、私は私ですので」
これは変えられない。そう、これだけは。だからずっと苦しかった。アーシエも、もしかしたらそうだったのだろうか……。
「これはすごいな。まさか、あの薬の効果があった上で、この態度とは」
それまで沈黙を保っていたユリティスが、声を上げた。まるでモルモットでも見るように、私を捉えた瞳は興味津々だ。
「だからお兄様、殺してどこかに埋めてしまった方がいいと言ったではないですか!」
ユイナ令嬢はユリティスの腕を掴み、左右に揺らす。
端から見れば微笑ましい兄妹関係なのかもしれないが、言っている内容があまりに物騒すぎる。
そんなコトぐらいで、簡単に人を殺すという発想が出て来るなんて……。
「貴族殺しは発覚した場合のリスクが高いと、何度も教えただろう? たとえ、アーシエ嬢がこんな性格であっても、まだ計画が破綻したわけでない。大丈夫だよ」
「ホントに大丈夫ですの、お兄様」
「ああ、もちろんだ。おまえを王妃にさせてあげるよ」
「まぁ、うれしい」
ユリティスは自分の腕に絡みつく妹に、目を細めた。
シスコンというやつだろうか。妹の言うことなら、なんでもといった感じかしら。
ある意味微笑ましいのだろうけど、状況を考えたら一ミリも微笑ましくないのよね。そういう兄弟妹仲は、もっと別の形で発揮してほしかったわ。
「でもコレはどうするんですの?」
「強情なココロなど、へし折ってしまえばいいんだよ。そうすれば、どんなことも従順に聞くよういなる」
ユリティスの瞳は、暗い炎を称えていた。
あの日のルド以上にそれを感じるのは、おそらく私がユリティスを拒絶しているからだろう。
その笑みのまま私に近づいてくるユリティスに、私は一歩ずつ後退していく。
部屋は大して広くはない。しかもここは二階だ。窓の外を横目で確認するも木などもなく、到底飛び降りれそうにはない。
「どこまで逃げられるとでも?」
くすくすと嫌味に似た笑い声をあげる。
彼のしようとしていることを考えるだけで、泣き叫びたかった。
彼が穢そうとしているのは私の心なのか躰なのか、それともその両方なのか。
どちらにしても、それを容易に受け入れることなんて出来ない。
「こんな馬鹿げたことをして、本当に足が付かないとでも思っているんですの?」
「その点は問題ないさ。なにせ、公爵家全体で隠ぺいを行っているのだから。まさか疑いだけで、殿下も公爵家を敵に回すことなんて出来ないだろう?」
やはり、公爵様も黒幕の一人だったんだ。
そして殿下がうかつなことでは公爵家を敵に回すことはないと分かった上で、こんな大胆な作戦に打って出た。
ある意味、正解と言えば正解だ。
確固たる証拠がなければいくらルドとはいえ、彼らに手出しできない。
もししてしまえば、自分の立場すら危うくなってしまうから。
「まったく生意気すぎるその性格を自分で恨むことだな」
「生まれる前からコレなので、それは少し無理な相談ですわね」
「貴様……。だいたい殿下があの後すぐに、おまえを抱えて牢屋になど放り込まなければ、やりようがあったものを」
「ルド様が私を牢屋に?」
「ああそうだ。計画では、どこかの部屋に隔離されたおまえを連れ出してそこで他の男をあてがう予定だったというのに」
そうなんだ……。ルドの行動はずっと、一貫していた。牢屋に入れたのも、すべては私に誰も近づけずに私を守るため。
牢屋からあの鳥籠の離宮に移したのも、そう。
ヤンデレなんかではなく、ルドにとっては今までの行動は全て溺愛だったのかもしれない。
それなのに私は……。
カツンとなにかが当たり、思わずよろけた。
倒れるかと思った瞬間、私は自分が座り込んだのがベッドの縁だということに気づく。
まずい。考えながら逃げていたせいで、よりによってベッドに座り込むだなんて。
「なんだ。案外聞きわけがいいじゃないか」
「ふざけないで」
ベッドにそのまま押し倒そうとするユリティスに対し、蹴り飛ばす勢いで抵抗をする。
「大人しくしろ」
「いや、離してー」
ただ対格差があるため、あっという間に抑え込まれてしまう。
「どれだけ抵抗しても無駄だ。今後口答えなど出来ないように、しっかりと躾けてやるよ」
「私はルド様のモノなのです。その汚い手を離しなさい」
ユリティスの右手が私の両手を頭の上でまとめ上げられた。
触らないで。
嫌だ。
唇を噛みしめ、泣き出しそうになるのを堪える。
嫌だ。
ルド以外の人に触られるのが、こんなにも嫌なモノだとは思わなかった。
助けて……。お願い……。
足をバタつかせどれだけ抵抗をしても、ユリティスを払いのけることは出来ない。
「ルド様、助けてーーー」
届かないと分かっていても、私は助けを求めていた。
自分でもびっくりするような大きな声。
ああ、こんなに大きな声、出せるんだ。
ふと冷静になった瞬間、涙が溢れてきた。
今の私はアーシエではない。
でもそれでも、誰よりもあなたを愛していると。
もしそれでだめになるのならば、仕方のないことだときっと諦められる。
今のままアーシエを演じて苦しくなるより、真実を告げる方がずっとマシだ。
だって愛しているから。もう止めようのないぐらいに。
「貴女、あの薬は効いていたというコトなのね」
「ええ、おかげ様で。もっとも、ユイナ令嬢が望むような、右も左も分からぬようなか弱い少女ではなくて、申し訳ないですわ」
「ホント、忌々しい」
「そう文句を言われましても、私は私ですので」
これは変えられない。そう、これだけは。だからずっと苦しかった。アーシエも、もしかしたらそうだったのだろうか……。
「これはすごいな。まさか、あの薬の効果があった上で、この態度とは」
それまで沈黙を保っていたユリティスが、声を上げた。まるでモルモットでも見るように、私を捉えた瞳は興味津々だ。
「だからお兄様、殺してどこかに埋めてしまった方がいいと言ったではないですか!」
ユイナ令嬢はユリティスの腕を掴み、左右に揺らす。
端から見れば微笑ましい兄妹関係なのかもしれないが、言っている内容があまりに物騒すぎる。
そんなコトぐらいで、簡単に人を殺すという発想が出て来るなんて……。
「貴族殺しは発覚した場合のリスクが高いと、何度も教えただろう? たとえ、アーシエ嬢がこんな性格であっても、まだ計画が破綻したわけでない。大丈夫だよ」
「ホントに大丈夫ですの、お兄様」
「ああ、もちろんだ。おまえを王妃にさせてあげるよ」
「まぁ、うれしい」
ユリティスは自分の腕に絡みつく妹に、目を細めた。
シスコンというやつだろうか。妹の言うことなら、なんでもといった感じかしら。
ある意味微笑ましいのだろうけど、状況を考えたら一ミリも微笑ましくないのよね。そういう兄弟妹仲は、もっと別の形で発揮してほしかったわ。
「でもコレはどうするんですの?」
「強情なココロなど、へし折ってしまえばいいんだよ。そうすれば、どんなことも従順に聞くよういなる」
ユリティスの瞳は、暗い炎を称えていた。
あの日のルド以上にそれを感じるのは、おそらく私がユリティスを拒絶しているからだろう。
その笑みのまま私に近づいてくるユリティスに、私は一歩ずつ後退していく。
部屋は大して広くはない。しかもここは二階だ。窓の外を横目で確認するも木などもなく、到底飛び降りれそうにはない。
「どこまで逃げられるとでも?」
くすくすと嫌味に似た笑い声をあげる。
彼のしようとしていることを考えるだけで、泣き叫びたかった。
彼が穢そうとしているのは私の心なのか躰なのか、それともその両方なのか。
どちらにしても、それを容易に受け入れることなんて出来ない。
「こんな馬鹿げたことをして、本当に足が付かないとでも思っているんですの?」
「その点は問題ないさ。なにせ、公爵家全体で隠ぺいを行っているのだから。まさか疑いだけで、殿下も公爵家を敵に回すことなんて出来ないだろう?」
やはり、公爵様も黒幕の一人だったんだ。
そして殿下がうかつなことでは公爵家を敵に回すことはないと分かった上で、こんな大胆な作戦に打って出た。
ある意味、正解と言えば正解だ。
確固たる証拠がなければいくらルドとはいえ、彼らに手出しできない。
もししてしまえば、自分の立場すら危うくなってしまうから。
「まったく生意気すぎるその性格を自分で恨むことだな」
「生まれる前からコレなので、それは少し無理な相談ですわね」
「貴様……。だいたい殿下があの後すぐに、おまえを抱えて牢屋になど放り込まなければ、やりようがあったものを」
「ルド様が私を牢屋に?」
「ああそうだ。計画では、どこかの部屋に隔離されたおまえを連れ出してそこで他の男をあてがう予定だったというのに」
そうなんだ……。ルドの行動はずっと、一貫していた。牢屋に入れたのも、すべては私に誰も近づけずに私を守るため。
牢屋からあの鳥籠の離宮に移したのも、そう。
ヤンデレなんかではなく、ルドにとっては今までの行動は全て溺愛だったのかもしれない。
それなのに私は……。
カツンとなにかが当たり、思わずよろけた。
倒れるかと思った瞬間、私は自分が座り込んだのがベッドの縁だということに気づく。
まずい。考えながら逃げていたせいで、よりによってベッドに座り込むだなんて。
「なんだ。案外聞きわけがいいじゃないか」
「ふざけないで」
ベッドにそのまま押し倒そうとするユリティスに対し、蹴り飛ばす勢いで抵抗をする。
「大人しくしろ」
「いや、離してー」
ただ対格差があるため、あっという間に抑え込まれてしまう。
「どれだけ抵抗しても無駄だ。今後口答えなど出来ないように、しっかりと躾けてやるよ」
「私はルド様のモノなのです。その汚い手を離しなさい」
ユリティスの右手が私の両手を頭の上でまとめ上げられた。
触らないで。
嫌だ。
唇を噛みしめ、泣き出しそうになるのを堪える。
嫌だ。
ルド以外の人に触られるのが、こんなにも嫌なモノだとは思わなかった。
助けて……。お願い……。
足をバタつかせどれだけ抵抗をしても、ユリティスを払いのけることは出来ない。
「ルド様、助けてーーー」
届かないと分かっていても、私は助けを求めていた。
自分でもびっくりするような大きな声。
ああ、こんなに大きな声、出せるんだ。
ふと冷静になった瞬間、涙が溢れてきた。
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