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「レオはいつから……違うか……。ずっと記憶が」

「ありました。典型的な転生者でしたからね。ただ僕の場合は死んだとこを認めたくなかったというか、信じられなかった……。だからレオナルドという人間になってからも、姉上のように振る舞うことは出来なかった」

「レオは過去が、前世が幸せだったのかな?」

「そうですね、そうかもしれません。でもここでも幸せでかなったわけではないんです。何せ姉上は一番の僕の理解者でしたからね」


 レオはただ悲しそうに笑った。

 確かにそれならば私は一番の理解者だったわね。同じ転生者であり、先にここで生を受けて生きてきたのだあから。


「でもそうね……きっと、アーシエにとってもレオが一番の理解者だったんじゃないかな」

「そうですかねぇ。それなら僕も嬉しいんですがね」

「過去を生きることも過去が美しいことも悪いことではないわ。前の人格がある以上、今を受け入れられないのも分かる」


 今だから余計に分かる。


「レオはレオで、私にとっては頼りになる優しい弟よ?」

「まったく、貴女という人は……」


 前髪をくしゃくしゃとしながら、レオは下を向いた。

 私は立ちあがるとレオの隣に腰かけ、そして肩を抱いた。

 過去が幸せだったら、今を受け入れられない気持ちは分かる。私は過去がダメすぎたから気にならないだけで、きっとレオはそうではなかったのね。

 受け入れてしまえば、認めてしまうことになるから。

 自分が死んでしまったってことを……。


「記憶がなくても変わらないのですね」

「根本は同じだからじゃないのかな」

「敵いませんよ」

「そぅ? これでもダメダメすぎて、結構凹むのよ」

「どこが、ですか?」

「そうねぇ……あの方が誰に愛してるって言ってるのかって。私はアーシエではないのに、愛してると言われれば言われるほど苦しくなって……ルド様を騙していることにキツくなって」


 でもそれでも自分のことを言うことが出来ないことに、苦しくなるばかりだった。


「卑怯なのよ、私。ルド様のことが好きだって気づいた時から。私はアーシエじゃないのに、アーシエのフリをしてあの人の愛情を一心に集めたてたの」

「それは悪いことなのですか?」

「でもアーシエじゃないのよ」

「いいえ、貴女はアーシエですよ」

「でも記憶が、アーシエはこの中にいないのよ!」


 いないからこそ、苦しくなる。レオの言う通り転生者というのならば、アーシエだった私の過去はどこに消えてしまったというの?


「そこなんですよ。問題は」


 レオがゆっくり顔を上げ私を見た。

 まるで魂を覗くようなその瞳に一瞬、体がビクりと震える。


「あの毒が原因ではないかと探りを入れていたんです」

「毒? 毒って……ああ、あのユイナ令嬢に盛られたかもしれないっていう、あの毒!」

「そうです。あれは初めから致死性の毒ではないと踏んでいたんです。だってそうでしょう? 本人も口にしなければいけない毒に致死性など使うわけがない」

「確かにそうね。それにもし毒の出所が分かってしまったとして、貴族の殺害は確実に死刑になってしまう」

「そうです。だから致死性ではなく、姉上をある意味殺すための毒薬」


 死なせずに殺すってどういうことなのだろう。

 でも現実にアーシエとしての記憶がなくなってしまっているわけだし、毒を飲んだことは事実なのよね。


「推測された毒は、人格を破壊するという特殊なものだったのではないかと」

「人格? それってある意味、致死性と同じくらい危険なんじゃないの?」


 だって人格がなくなったら、記憶なんかよりもずっと大変じゃないのよ。

 自分が自分でなくなるっていうか、ほぼ廃人状態になっちゃうんじゃないのかな、そんなの。


「記憶を消すだけなら、戻る可能性もある。しかも記憶がなくなっても、殿下が構わないと言ってしまえばそれまでじゃないですか?」

「そうね……確かにルド様なら、そう言うかもしれない」


 だって病むほど愛していたんだもの。どうしてもルドはアーシエを手に入れたかったとしたら、記憶なんて些細なことだと思う。

 だってあとからいくらでも、記憶なんて埋めていけばいいわけだし。

 むしろ記憶がない方が、自分の思い通りにもなるわけだし。

 そう考えると記憶がなくなったって、ルドにはまったく効果なさそうね。
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