45 / 52
045
しおりを挟む
「レオはいつから……違うか……。ずっと記憶が」
「ありました。典型的な転生者でしたからね。ただ僕の場合は死んだとこを認めたくなかったというか、信じられなかった……。だからレオナルドという人間になってからも、姉上のように振る舞うことは出来なかった」
「レオは過去が、前世が幸せだったのかな?」
「そうですね、そうかもしれません。でもここでも幸せでかなったわけではないんです。何せ姉上は一番の僕の理解者でしたからね」
レオはただ悲しそうに笑った。
確かにそれならば私は一番の理解者だったわね。同じ転生者であり、先にここで生を受けて生きてきたのだあから。
「でもそうね……きっと、アーシエにとってもレオが一番の理解者だったんじゃないかな」
「そうですかねぇ。それなら僕も嬉しいんですがね」
「過去を生きることも過去が美しいことも悪いことではないわ。前の人格がある以上、今を受け入れられないのも分かる」
今だから余計に分かる。
「レオはレオで、私にとっては頼りになる優しい弟よ?」
「まったく、貴女という人は……」
前髪をくしゃくしゃとしながら、レオは下を向いた。
私は立ちあがるとレオの隣に腰かけ、そして肩を抱いた。
過去が幸せだったら、今を受け入れられない気持ちは分かる。私は過去がダメすぎたから気にならないだけで、きっとレオはそうではなかったのね。
受け入れてしまえば、認めてしまうことになるから。
自分が死んでしまったってことを……。
「記憶がなくても変わらないのですね」
「根本は同じだからじゃないのかな」
「敵いませんよ」
「そぅ? これでもダメダメすぎて、結構凹むのよ」
「どこが、ですか?」
「そうねぇ……あの方が誰に愛してるって言ってるのかって。私はアーシエではないのに、愛してると言われれば言われるほど苦しくなって……ルド様を騙していることにキツくなって」
でもそれでも自分のことを言うことが出来ないことに、苦しくなるばかりだった。
「卑怯なのよ、私。ルド様のことが好きだって気づいた時から。私はアーシエじゃないのに、アーシエのフリをしてあの人の愛情を一心に集めたてたの」
「それは悪いことなのですか?」
「でもアーシエじゃないのよ」
「いいえ、貴女はアーシエですよ」
「でも記憶が、アーシエはこの中にいないのよ!」
いないからこそ、苦しくなる。レオの言う通り転生者というのならば、アーシエだった私の過去はどこに消えてしまったというの?
「そこなんですよ。問題は」
レオがゆっくり顔を上げ私を見た。
まるで魂を覗くようなその瞳に一瞬、体がビクりと震える。
「あの毒が原因ではないかと探りを入れていたんです」
「毒? 毒って……ああ、あのユイナ令嬢に盛られたかもしれないっていう、あの毒!」
「そうです。あれは初めから致死性の毒ではないと踏んでいたんです。だってそうでしょう? 本人も口にしなければいけない毒に致死性など使うわけがない」
「確かにそうね。それにもし毒の出所が分かってしまったとして、貴族の殺害は確実に死刑になってしまう」
「そうです。だから致死性ではなく、姉上をある意味殺すための毒薬」
死なせずに殺すってどういうことなのだろう。
でも現実にアーシエとしての記憶がなくなってしまっているわけだし、毒を飲んだことは事実なのよね。
「推測された毒は、人格を破壊するという特殊なものだったのではないかと」
「人格? それってある意味、致死性と同じくらい危険なんじゃないの?」
だって人格がなくなったら、記憶なんかよりもずっと大変じゃないのよ。
自分が自分でなくなるっていうか、ほぼ廃人状態になっちゃうんじゃないのかな、そんなの。
「記憶を消すだけなら、戻る可能性もある。しかも記憶がなくなっても、殿下が構わないと言ってしまえばそれまでじゃないですか?」
「そうね……確かにルド様なら、そう言うかもしれない」
だって病むほど愛していたんだもの。どうしてもルドはアーシエを手に入れたかったとしたら、記憶なんて些細なことだと思う。
だってあとからいくらでも、記憶なんて埋めていけばいいわけだし。
むしろ記憶がない方が、自分の思い通りにもなるわけだし。
そう考えると記憶がなくなったって、ルドにはまったく効果なさそうね。
「ありました。典型的な転生者でしたからね。ただ僕の場合は死んだとこを認めたくなかったというか、信じられなかった……。だからレオナルドという人間になってからも、姉上のように振る舞うことは出来なかった」
「レオは過去が、前世が幸せだったのかな?」
「そうですね、そうかもしれません。でもここでも幸せでかなったわけではないんです。何せ姉上は一番の僕の理解者でしたからね」
レオはただ悲しそうに笑った。
確かにそれならば私は一番の理解者だったわね。同じ転生者であり、先にここで生を受けて生きてきたのだあから。
「でもそうね……きっと、アーシエにとってもレオが一番の理解者だったんじゃないかな」
「そうですかねぇ。それなら僕も嬉しいんですがね」
「過去を生きることも過去が美しいことも悪いことではないわ。前の人格がある以上、今を受け入れられないのも分かる」
今だから余計に分かる。
「レオはレオで、私にとっては頼りになる優しい弟よ?」
「まったく、貴女という人は……」
前髪をくしゃくしゃとしながら、レオは下を向いた。
私は立ちあがるとレオの隣に腰かけ、そして肩を抱いた。
過去が幸せだったら、今を受け入れられない気持ちは分かる。私は過去がダメすぎたから気にならないだけで、きっとレオはそうではなかったのね。
受け入れてしまえば、認めてしまうことになるから。
自分が死んでしまったってことを……。
「記憶がなくても変わらないのですね」
「根本は同じだからじゃないのかな」
「敵いませんよ」
「そぅ? これでもダメダメすぎて、結構凹むのよ」
「どこが、ですか?」
「そうねぇ……あの方が誰に愛してるって言ってるのかって。私はアーシエではないのに、愛してると言われれば言われるほど苦しくなって……ルド様を騙していることにキツくなって」
でもそれでも自分のことを言うことが出来ないことに、苦しくなるばかりだった。
「卑怯なのよ、私。ルド様のことが好きだって気づいた時から。私はアーシエじゃないのに、アーシエのフリをしてあの人の愛情を一心に集めたてたの」
「それは悪いことなのですか?」
「でもアーシエじゃないのよ」
「いいえ、貴女はアーシエですよ」
「でも記憶が、アーシエはこの中にいないのよ!」
いないからこそ、苦しくなる。レオの言う通り転生者というのならば、アーシエだった私の過去はどこに消えてしまったというの?
「そこなんですよ。問題は」
レオがゆっくり顔を上げ私を見た。
まるで魂を覗くようなその瞳に一瞬、体がビクりと震える。
「あの毒が原因ではないかと探りを入れていたんです」
「毒? 毒って……ああ、あのユイナ令嬢に盛られたかもしれないっていう、あの毒!」
「そうです。あれは初めから致死性の毒ではないと踏んでいたんです。だってそうでしょう? 本人も口にしなければいけない毒に致死性など使うわけがない」
「確かにそうね。それにもし毒の出所が分かってしまったとして、貴族の殺害は確実に死刑になってしまう」
「そうです。だから致死性ではなく、姉上をある意味殺すための毒薬」
死なせずに殺すってどういうことなのだろう。
でも現実にアーシエとしての記憶がなくなってしまっているわけだし、毒を飲んだことは事実なのよね。
「推測された毒は、人格を破壊するという特殊なものだったのではないかと」
「人格? それってある意味、致死性と同じくらい危険なんじゃないの?」
だって人格がなくなったら、記憶なんかよりもずっと大変じゃないのよ。
自分が自分でなくなるっていうか、ほぼ廃人状態になっちゃうんじゃないのかな、そんなの。
「記憶を消すだけなら、戻る可能性もある。しかも記憶がなくなっても、殿下が構わないと言ってしまえばそれまでじゃないですか?」
「そうね……確かにルド様なら、そう言うかもしれない」
だって病むほど愛していたんだもの。どうしてもルドはアーシエを手に入れたかったとしたら、記憶なんて些細なことだと思う。
だってあとからいくらでも、記憶なんて埋めていけばいいわけだし。
むしろ記憶がない方が、自分の思い通りにもなるわけだし。
そう考えると記憶がなくなったって、ルドにはまったく効果なさそうね。
1
お気に入りに追加
868
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
【完結】騙された? 貴方の仰る通りにしただけですが
ユユ
恋愛
10歳の時に婚約した彼は
今 更私に婚約破棄を告げる。
ふ〜ん。
いいわ。破棄ね。
喜んで破棄を受け入れる令嬢は
本来の姿を取り戻す。
* 作り話です。
* 完結済みの作品を一話ずつ掲載します。
* 暇つぶしにどうぞ。
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる