44 / 52
044
しおりを挟む
私は日記をぱたりと閉じた。
これがアーシエとルドとの出会い。出会ったその次の日には、アーシエを婚約者候補とルドがしたのだ。
そうだ……。候補者は二人だった。侯爵家の令嬢であったアーシエと、公爵家の令嬢であったユイナ様。
ある意味三角関係は、あの時から始まっていたんだ。
「……ただ、これ……日記というには……」
日付も書かれている、普通の日記。
しかしその内容が、当時子どもだったアーシエが書いていたにしてはずいぶんと大人びている。
パラパラと数ページめくっても、同じように日にちは飛んでいるものの、その日起きたことを書いているようだっだ。
「ん-、なにかな……さっきから……」
日記から伝わる、漠然たる違和感。
その日の出来事とそぐわないような大人びた感想以外にも、もっと根本的ななにか。
「とにかくコレは持って帰らないとね」
そう言って日記をカバンに入れようとした時、手からするりと日記が落ちる。
「もぅ」
拾い上げようとした時に、そのページに目が留まった。内容ではない。先ほどから感じていた違和感は、文字だ。
「これ、日本語……」
日記に書かれていた文字は、この世界の文字ではない。
全てが日本語で書かれていた。
「まって……これはどういうことなの?」
アーシエが日本語を使えていた。それが事実ならば、答えはもう一つしかない。しかしそれを答えとするには、問題がある。
まずは記憶だ。なぜ今、どうして……。
私は居ても立っても居られなくなり、そのまま日記を抱え走り出した。
◇ ◇ ◇
走る私に使用人たちが驚いた表情で私に道をあける。
しかし余裕のない私は、それすらも気にかけることなくレオの部屋へなだれ込んだ。
「レオ! 教えて! 私は何だったの」
「どうしたんですか、そんなに慌てて」
「だって、だって日記が! 日本語が!」
ページを開き、レオに見せるように掲げた。
レオはちらりと視線を日記に向けたあと、深くため息をつく。
「とりあえず落ち着いて下さい姉上。座って話しましょう」
「……わかったわ」
言いたい言葉を一度飲み込み、私は促されるままにレオの部屋のソファーへ腰かけた。
「まずどこからせつめいした方がいいというか……でも一番はそうですね、姉上は憑依者などではなく、転生者なのですよ」
憑依者じゃなくて、私は転生者……。それなら私はずっと、初めからアーシエだったってことになる。
確かにそれなら、日記の文字が日本語であることの説明はつく。だけど、その説明だと私はアーシエに生まれてきて育ってきたということ。
でも現実今は、私は美奈であってアーシエとしての記憶など欠片もない。ただ体が思えていることだけは、なんとなく分かるレベルなのに。
「私が転生者だなんて……。だって、アーシエとしての記憶も何もないのよ? 私は前世の記憶しか持ち合わせてないし」
「そうですね。確かに、今の姉上は美奈さんであってアーシエ姉さんではない」
「難しいよレオ。もう少し分かりやすく説明して」
「ん-。美奈さんはアーシエとしてこの世界に生まれ変わった。姉上は初めは混乱していたものの、ルド殿下に出会ってアーシエとして、この世界の貴族令嬢としてきちんと生きることを決めた」
「私がアーシエとして?」
「そうです。殿下の婚約者としてふさわしくなるために、過去は封印してアーシエとして生きる道をということです」
ルドのために、美奈だった過去を封印してアーシエとして生きる。
ん-。ある意味、ちゃんと第二の人生をって感じだったのかな。ルドのために、貴族令嬢としてきちんとしようとしていたんだ。
「姉上は本当にすごいですよ。過去など振り返ることなく、アーシエそのものとして生きることを決め、実際その通りに生きてきたのですから」
「ねぇ、さっきからその言い方だと……」
私はやや暗くなったレオの顔を見た。
過去を思い出すように話しているのに、なんだろう。レオからはまるで、アーシエを羨ましく思っていたように聞こえてくる。
そう。ずっとおかしいと思っていたのよね。だって、レオはアーシエの過去を知るばかりか、きちんと美奈って発音も出来るのだもの。
「レオももしかして私と同じ転生者なの?」
私の言葉に、レオはただうつむくように頷いた。
これがアーシエとルドとの出会い。出会ったその次の日には、アーシエを婚約者候補とルドがしたのだ。
そうだ……。候補者は二人だった。侯爵家の令嬢であったアーシエと、公爵家の令嬢であったユイナ様。
ある意味三角関係は、あの時から始まっていたんだ。
「……ただ、これ……日記というには……」
日付も書かれている、普通の日記。
しかしその内容が、当時子どもだったアーシエが書いていたにしてはずいぶんと大人びている。
パラパラと数ページめくっても、同じように日にちは飛んでいるものの、その日起きたことを書いているようだっだ。
「ん-、なにかな……さっきから……」
日記から伝わる、漠然たる違和感。
その日の出来事とそぐわないような大人びた感想以外にも、もっと根本的ななにか。
「とにかくコレは持って帰らないとね」
そう言って日記をカバンに入れようとした時、手からするりと日記が落ちる。
「もぅ」
拾い上げようとした時に、そのページに目が留まった。内容ではない。先ほどから感じていた違和感は、文字だ。
「これ、日本語……」
日記に書かれていた文字は、この世界の文字ではない。
全てが日本語で書かれていた。
「まって……これはどういうことなの?」
アーシエが日本語を使えていた。それが事実ならば、答えはもう一つしかない。しかしそれを答えとするには、問題がある。
まずは記憶だ。なぜ今、どうして……。
私は居ても立っても居られなくなり、そのまま日記を抱え走り出した。
◇ ◇ ◇
走る私に使用人たちが驚いた表情で私に道をあける。
しかし余裕のない私は、それすらも気にかけることなくレオの部屋へなだれ込んだ。
「レオ! 教えて! 私は何だったの」
「どうしたんですか、そんなに慌てて」
「だって、だって日記が! 日本語が!」
ページを開き、レオに見せるように掲げた。
レオはちらりと視線を日記に向けたあと、深くため息をつく。
「とりあえず落ち着いて下さい姉上。座って話しましょう」
「……わかったわ」
言いたい言葉を一度飲み込み、私は促されるままにレオの部屋のソファーへ腰かけた。
「まずどこからせつめいした方がいいというか……でも一番はそうですね、姉上は憑依者などではなく、転生者なのですよ」
憑依者じゃなくて、私は転生者……。それなら私はずっと、初めからアーシエだったってことになる。
確かにそれなら、日記の文字が日本語であることの説明はつく。だけど、その説明だと私はアーシエに生まれてきて育ってきたということ。
でも現実今は、私は美奈であってアーシエとしての記憶など欠片もない。ただ体が思えていることだけは、なんとなく分かるレベルなのに。
「私が転生者だなんて……。だって、アーシエとしての記憶も何もないのよ? 私は前世の記憶しか持ち合わせてないし」
「そうですね。確かに、今の姉上は美奈さんであってアーシエ姉さんではない」
「難しいよレオ。もう少し分かりやすく説明して」
「ん-。美奈さんはアーシエとしてこの世界に生まれ変わった。姉上は初めは混乱していたものの、ルド殿下に出会ってアーシエとして、この世界の貴族令嬢としてきちんと生きることを決めた」
「私がアーシエとして?」
「そうです。殿下の婚約者としてふさわしくなるために、過去は封印してアーシエとして生きる道をということです」
ルドのために、美奈だった過去を封印してアーシエとして生きる。
ん-。ある意味、ちゃんと第二の人生をって感じだったのかな。ルドのために、貴族令嬢としてきちんとしようとしていたんだ。
「姉上は本当にすごいですよ。過去など振り返ることなく、アーシエそのものとして生きることを決め、実際その通りに生きてきたのですから」
「ねぇ、さっきからその言い方だと……」
私はやや暗くなったレオの顔を見た。
過去を思い出すように話しているのに、なんだろう。レオからはまるで、アーシエを羨ましく思っていたように聞こえてくる。
そう。ずっとおかしいと思っていたのよね。だって、レオはアーシエの過去を知るばかりか、きちんと美奈って発音も出来るのだもの。
「レオももしかして私と同じ転生者なの?」
私の言葉に、レオはただうつむくように頷いた。
2
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
推しの悪役令嬢を幸せにします!
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、ここは大好きだった漫画の世界だと気付いた。ちなみに推しキャラは悪役令嬢。推しを近くで拝みたいし、せっかくなら仲良くなりたい!
それに悪役令嬢の婚約者は私のお兄様だから、義姉妹になるなら主人公より推しの悪役令嬢の方がいい。
自分の幸せはそっちのけで推しを幸せにするために動いていたはずが、周りから溺愛され、いつのまにかお兄様の親友と婚約していた。
悪役令嬢は執事様と恋愛したい
みおな
恋愛
私、アイリス・クラウディアは、10歳から15歳までをずっとループしている。
それは、10歳の時に出会う王子様に恋をして、そして毎回断罪されるからだ。
ずっと、好きだった王子様に、毎回何をどうしても断罪されてしまう私は、今回決意した。
もう王子様なんかいらない!
私は執事のシキのことが好きになりました。
そう思ってるのに、今度は王子が私を諦めてくれません?
*****
『悪役令嬢はヒロインのR18フラグを叩き折る』の改定版です。
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。
でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。
果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか?
ハッピーエンド目指して頑張ります。
小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる