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「そうだ。さっき思ってすっかり他の会話をしていて忘れていたんだけど、どうしてルド様はお手紙をくれなかったのかしら」

「んー。お忙しかったからではないのですか?」

「そうかな……」

「ルド様からお手紙のお返事が欲しかったのですか? ああでも、せっかくお花までつけられたのに、そのことにも何もなかったでしたからね」

「別にお手紙が欲しかったとか、お花の感想が欲しかったってわけじゃないんだけどさぁ」

「ふふふ。お嬢様、可愛らしいですね」

「もう。からかってはダメよ」

「すみません。つい、あまりにも可愛らしくて」


 元から可愛らしいサラに言われるのって、なんだか恥ずかしいわね。

 でも、本当に手紙がもらえなかったからいじけているってわけではないんだけどな。

 ただそう。なんていうか、ルドなら忙しくても手紙で返してくれる気がしたのよね。

 だからわざわざ花までつけたんだもの。

 それが王宮の侍女に、『遠くない範囲でなら許可する』だなんて伝言。

 事務的っていうか、ルドらしくないっていうか。なんか……。ああ、モヤモヤするぅぅ。

 でも絶対にいじけてなんていないんだもん。違うんだもん。そんな子どもみたいなこと、私は言わないんだもん。

 頬を少し膨らませたまま、離宮の外へと続く扉を私は開けた。

 涼やかな風が髪を撫で、ドレスの裾を揺らす。風は小春日和というように、柔らかく温かい。花の香りもどこからか流れてきていた。

 先ほどまでのもやもやした気持ちが、全て風に乗って飛んで行くようだった。

 
「わぁ、気持ちいい」


 風が気持ちいいし、花の匂いが風にのって運ばれてくる。

 どうやら目の前の垣根がある裏側には、お風呂に浮かべていた薔薇や他の花たちが咲いているようだ。

 空もどこまでも高く、雲も少ない。

 
「外は気持ちいいわね。ルド様ともお散歩したいなぁ」

「そうですね、お嬢様」


 思わず本音が零れ落ちる。

 でも本当のことなんだから、これは仕方ない。

 ルドと一緒だったら、きっともっと奥のお庭までお散歩出来るわけだし。

 どうせなら異世界を満喫してみたい。


「ああ、でもお庭にテーブルを出してもらってルド様とお茶をしてもいいわね。せっかくいい天気なんだもん。ルド様は次いつがお休みなのかなぁ」

「それも良さそうですね」

「でもルド様は外とか嫌いかなぁ。ルド様は何が好きなんだろう」

「どうですかねぇ」

「ルド様って太陽の光よりも月の光の方が似合うのよね」

「お嬢様、さっきから殿下のことを連呼していますよ」

「深い意味はないのー」

「わたしは全然あってもいいと思うのですけどね~」

「もう、サラのいぢわるぅ。絶対にないもーん。たぶん、そぅ、ないはずだもん」

「お嬢様、それ」

「もー、だめ」

「認めてあげた方が気持ちが楽になることもあるのですよ、お嬢様」

「むぅ。ちがうもーん」

「ホント、お嬢様は可愛らしいですね。殿下がお好きになられるはずですわ」

 
 サラのが十分に可愛いのに。もぅ。

 恥ずかしくなってそそくさと歩く私の数歩後ろをサラが着いてくる。

 そんなにルドのことを連呼していたのかな。でもほら、ルドしか親しい人もいないし。

 ともかく今はこのつかの間の自由を満喫しよう。

 意外にも離宮は大きい。

 二階建てで、私が住んでいたマンションの二倍くらいあるんじゃないかな。

 これをきょろきょろと辺りを見渡しながらのんびり歩けば、けっこうな時間になるような気もする。

 明日はルドが許可してくれたら、離宮の中の探検をしてみてもいいわね。

 毎日ただあの部屋だけだと息が詰まってしまう。

 離宮を見上げれば、かなりの数の窓があった。

 私がいたのは一番奥の二階のお部屋だ。ルドがカーテンを閉めているせいで外が見えなかったし。

 きっとあの部屋、本当は日当たりが一番いいんだろうな。窓の前に木などもないし。遮るものがなく、遠くまで見渡せることだろう。

 もしかしたら庭とかも全部見れるようになってるんじゃないかな。

 ルドも変ね。どうせ閉じ込めておきたいのなら、窓のない部屋にすればいいのに。鳥籠と言いつつも、一番いい部屋にするなんてまったく……。


「ふふふ」

「急にどうしたんですか、お嬢様」

「んー。なんでもないわ。明日は離宮の中の探検をしてみたいわね」

「それは冒険みたいで楽しそうですね」

「でしょー」

 
 そう言って振り返り、サラを見た私の視界の切れ端に、見慣れた髪色の男性が入る。

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