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032 言いたいことは声に出してハッキリと
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「だって……言ってもらったことないんだもの……」
「なにを、ですか?」
「好きだって……愛してるって……」
「一回もですか?」
「うん」
シェナは大きな大きなため息を付いた。
私は口を尖らせて抗議する。
何もため息なんてつかなくてもいいじゃない。
知ってるわよ、子どもみたいなこと言ってるって。
でも一度だって言われたことないのよ。
そう、一回だって。
愛の言葉もない。初夜もない。スキンシップだって最低限。
これで愛されてるなんてどうして思えるのよ。
「それをランド様に聞かれたことはありますか? その文句や不満を告げたことは?」
「あるわけないじゃない」
「言わないで伝わるとでもお思いですか? まったく……お二人ともどうしようもないですね。いい歳した大人なのですから、ちゃんとして下さいませんと」
「そんなこと言ったって。ワガママだとか、ウザいとか、重いとか思われたくないし」
「で、その結果がこれですか?」
「……ぅん。そうね」
先ほどよりもかなり大きな、それこそ肺の中の空気を全て出し尽くすようなため息をシェナはついた。
そして眉間を抑えながら、フルフルと頭を何度も横にふる。
「なによぅ」
「変なとこに臆病ですよね。普段なーんにも気にしませんのに」
「好きな人には別なのよ」
「それで言いたいことを呑み込んで、溜め込んで、苦しくなってたら意味ないですよね?」
「……ぅん。分かってる」
「分かっているのならば、なぜ言わないのですか?」
なぜ、か。
言いたいことを言って、嫌な顔されたくなかった。
今まで優しかったものが、全て消えてしまったら。
私はそれが怖かったんだ。
ランドのことが本当に好きだったから。
この関係が嘘で成り立っていたとしても、壊したくなかった。
でも、それは裏を返せばランドを信じていなかったってこと。
信じられなかったってことだ。
「怖かったの……失うのが。怖くて怖くて……。でも私らしくないよね」
「そうですね。少なくともわたしの知るお嬢様ではありませんね」
「そうだよね……」
こんなんじゃ、過去の私みたいじゃない。
顔色をうかがって、愛されている不安にかられて、ただ小さくなっていた私と。
「そんな自分が嫌いで嫌いで、私らしくミレイヌとして生きるために頑張ってきたのに。本当にらしくないな」
「では、どうすればミレイヌ様らしくなりますか?」
シェナはまるでいたずらっ子のように、悪い笑みを浮かべていた。
私もそれにつられて、微笑み返す。
「そうね。乗り込みましょうか」
「城にですか?」
「ええ。もちろんよ。私はランド様の妻です。全てを知る権利も、問い詰める権利もあるんですから!!」
こんなとこでウジウジ悩んでたのでは、私らしくないもの。
聞きたいことはちゃんと自分で聞かないと。
たとえそれが貴族らしくなくたって、私らしくあればそれでいい。
ちゃんとランドの言葉で全てを聞いて、そこから考えればいいんだわ。
「城でだって誰の前だって、私は言いたいことも聞きたいこともハッキリさせる。行くわよ、シェナ!」
「それでこそ、うちのお嬢様ですわ」
「だーかーら、お嬢様じゃもうないんだってば」
「はいはい。奥様」
シェナの言葉に、胸の中がポカポカと温かくなる。
初めて奥様って言ってくれた。
それだけでなんだか、もう勝てる気がしていた。
◇ ◇ ◇
城の中はいつにもまして慌ただしく、人の出入りが激しかった。
行き交う官僚たちや、貴族たちは私を見ると驚いた表情を浮かべつつも誰一人声をかけては来なかった。
声をかけずらいのか、この忙しい最中に関わりたくないのか。
言わずともその表情が、それを告げていた。
「騎士団の方たちにお話をつけてもらったから部屋に通されましたけど、何だかバタバタですね」
王城の一室にやっと通された私たちは、ランド様や他の方を呼ぶとのことで、ここで待つように指示された。
待てとはいっても、やることがなくただ部屋に通されただけで二人でボーッと先ほどからソファーに座っているだけ。
まぁこれすらも、騎士団を捕まえたからこそなんだけど。
いくら関わりたくないからって、声かける人たちみんな、逃げてくこともないのに。
別に食べはしないわよ。
「思ってた通りだけど、貴族の出入りが激しいわね」
「まかりなりにもスキャンダルかもしれない案件、ですからね」
「でも私も一応は当事者なのよー? ほら、三角関係の」
「三角かどうかもわからないじゃないですか。実際四角かもしれないですし。結局、そんな感じでミレイヌ様を呼べるほど、まだ話が進んでないんじゃないですか?」
「めんどくさそう」
確かにシェナの言うことには、一理ある。
あまりに突拍子もないことすぎて、現状把握をしたいんだろうけど。
でもそれにしたって、妻にも事情を聞くものじゃないのかな?
だって妻なんだし。
あー。身内の証言は~みたいなコトあるのかな。
でもランドが熱愛などないと否定したら、話し合いは平行線な気がするのに。
そんな平行線の話してても意味ないんじゃないかな。
「ねぇ、シェナ……」
シェナに声をかけたとき、部屋をノックする音が響いた。
「なにを、ですか?」
「好きだって……愛してるって……」
「一回もですか?」
「うん」
シェナは大きな大きなため息を付いた。
私は口を尖らせて抗議する。
何もため息なんてつかなくてもいいじゃない。
知ってるわよ、子どもみたいなこと言ってるって。
でも一度だって言われたことないのよ。
そう、一回だって。
愛の言葉もない。初夜もない。スキンシップだって最低限。
これで愛されてるなんてどうして思えるのよ。
「それをランド様に聞かれたことはありますか? その文句や不満を告げたことは?」
「あるわけないじゃない」
「言わないで伝わるとでもお思いですか? まったく……お二人ともどうしようもないですね。いい歳した大人なのですから、ちゃんとして下さいませんと」
「そんなこと言ったって。ワガママだとか、ウザいとか、重いとか思われたくないし」
「で、その結果がこれですか?」
「……ぅん。そうね」
先ほどよりもかなり大きな、それこそ肺の中の空気を全て出し尽くすようなため息をシェナはついた。
そして眉間を抑えながら、フルフルと頭を何度も横にふる。
「なによぅ」
「変なとこに臆病ですよね。普段なーんにも気にしませんのに」
「好きな人には別なのよ」
「それで言いたいことを呑み込んで、溜め込んで、苦しくなってたら意味ないですよね?」
「……ぅん。分かってる」
「分かっているのならば、なぜ言わないのですか?」
なぜ、か。
言いたいことを言って、嫌な顔されたくなかった。
今まで優しかったものが、全て消えてしまったら。
私はそれが怖かったんだ。
ランドのことが本当に好きだったから。
この関係が嘘で成り立っていたとしても、壊したくなかった。
でも、それは裏を返せばランドを信じていなかったってこと。
信じられなかったってことだ。
「怖かったの……失うのが。怖くて怖くて……。でも私らしくないよね」
「そうですね。少なくともわたしの知るお嬢様ではありませんね」
「そうだよね……」
こんなんじゃ、過去の私みたいじゃない。
顔色をうかがって、愛されている不安にかられて、ただ小さくなっていた私と。
「そんな自分が嫌いで嫌いで、私らしくミレイヌとして生きるために頑張ってきたのに。本当にらしくないな」
「では、どうすればミレイヌ様らしくなりますか?」
シェナはまるでいたずらっ子のように、悪い笑みを浮かべていた。
私もそれにつられて、微笑み返す。
「そうね。乗り込みましょうか」
「城にですか?」
「ええ。もちろんよ。私はランド様の妻です。全てを知る権利も、問い詰める権利もあるんですから!!」
こんなとこでウジウジ悩んでたのでは、私らしくないもの。
聞きたいことはちゃんと自分で聞かないと。
たとえそれが貴族らしくなくたって、私らしくあればそれでいい。
ちゃんとランドの言葉で全てを聞いて、そこから考えればいいんだわ。
「城でだって誰の前だって、私は言いたいことも聞きたいこともハッキリさせる。行くわよ、シェナ!」
「それでこそ、うちのお嬢様ですわ」
「だーかーら、お嬢様じゃもうないんだってば」
「はいはい。奥様」
シェナの言葉に、胸の中がポカポカと温かくなる。
初めて奥様って言ってくれた。
それだけでなんだか、もう勝てる気がしていた。
◇ ◇ ◇
城の中はいつにもまして慌ただしく、人の出入りが激しかった。
行き交う官僚たちや、貴族たちは私を見ると驚いた表情を浮かべつつも誰一人声をかけては来なかった。
声をかけずらいのか、この忙しい最中に関わりたくないのか。
言わずともその表情が、それを告げていた。
「騎士団の方たちにお話をつけてもらったから部屋に通されましたけど、何だかバタバタですね」
王城の一室にやっと通された私たちは、ランド様や他の方を呼ぶとのことで、ここで待つように指示された。
待てとはいっても、やることがなくただ部屋に通されただけで二人でボーッと先ほどからソファーに座っているだけ。
まぁこれすらも、騎士団を捕まえたからこそなんだけど。
いくら関わりたくないからって、声かける人たちみんな、逃げてくこともないのに。
別に食べはしないわよ。
「思ってた通りだけど、貴族の出入りが激しいわね」
「まかりなりにもスキャンダルかもしれない案件、ですからね」
「でも私も一応は当事者なのよー? ほら、三角関係の」
「三角かどうかもわからないじゃないですか。実際四角かもしれないですし。結局、そんな感じでミレイヌ様を呼べるほど、まだ話が進んでないんじゃないですか?」
「めんどくさそう」
確かにシェナの言うことには、一理ある。
あまりに突拍子もないことすぎて、現状把握をしたいんだろうけど。
でもそれにしたって、妻にも事情を聞くものじゃないのかな?
だって妻なんだし。
あー。身内の証言は~みたいなコトあるのかな。
でもランドが熱愛などないと否定したら、話し合いは平行線な気がするのに。
そんな平行線の話してても意味ないんじゃないかな。
「ねぇ、シェナ……」
シェナに声をかけたとき、部屋をノックする音が響いた。
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