26 / 38
025 過ぎたる愛
しおりを挟む
「どうして止めるんだミレイヌ」
「普通止めますから」
「なぜだ? うちの可愛い可愛い妹がいじめられてるのなら、兄としてガツンとやってやらねばなるまい」
「そんなことしたら、余計に大事になります」
だいたい家の力なんて借りたら負けた気になるから、絶対に嫌。
自分にされたことは、自分でやり返したいし。
「別に大事になってもかまわないだろう。向こうがそれほどのことをしてきているのだから」
「そうかもしれませんが、それは私がやり返せば済むことです」
「だが……」
「お兄様。お兄様たちが私のことをどれだけ愛して下さっているのかは知っています」
「もちろんだ。こんなに可愛い妹など他にいるものか。ミレイヌが生まれた時、天使が下りて来たのかと家族全員が思ったよ」
そうね。
実家ではいつも天使のようだって、すごくみんな私のことを溺愛してくれていた。
だからこそ、勘違いしちゃったんだもの。
「愛して下さったことは、何よりも感謝しています。それが私にとってどれだけ救いだったことか。でも、そればっかりではダメなんです」
「愛することの何がダメだというんだい」
「愛することではなく、愛して下さっているのなら、ちゃんと悪いことも言っていただかないと。そうでなければ、私も気づけません」
気づかなかったからこそ、今がある。
でもそれは家族だけのせいではないのも分かってる。
愛してくれた家族には、本当に感謝しているから。
でも甘やかされるだけでは、きっとダメ。
私にはなりたい自分があって、目標があるから。
「気づくというのは」
「私が外で何と言われていたか、お兄様は知っていらっしゃいましたよね?」
「それは……」
視線を外し、困ったように口元を抑えるあたりからして、兄はやっぱり知っていたんだ。
「私が白豚令嬢などと呼ばれていたのに、どうして止めなかったのですか?」
「もちろん! 言っていた奴らにはちゃんと分からせてきたさ。ミレイヌがいかに天使かってことを」
「そうではなくて、です! まずは私にちゃんと説明をして、摂生に努めさすべきだったのではないですか?」
「あんなに幸せそうに食べるミレイヌを止めろと?」
「それも優しさです。過ぎたるは~ですよ。太れば太るほど健康も損ないます。お兄様は私が早死にしても良いのですか?」
そこまではっきりと言って、やっと兄は分かったようだった。
そしてそんな風に初めて兄に小言を言う私を、呆然と見ている。
悪気がない分、誰も止めなかったからね。
私もそれで幸せだったし。
だからこそ、ちゃんとここで辞めないと。
なあなあにしては、絶対に抜け出せなくなってしまうから。
「……すまなかったミレイヌ。そこまで考えたことはなかったよ」
「いいんです。私もお兄様たちからの愛がすごく嬉しかったんです。でもそれをただ無限に受け取っていくのはダメだって思えるようになったんです」
「あんなに小さかったミレイヌが本当に大人になってしまったんだな」
兄は私の頭を撫でながら、目を細めた。
その瞳はどこか悲しそうに揺れている。
「ふふふ。もう結婚までしたんですよ」
「それすらボクには信じられないよ」
「私より、お兄様もちゃんと良い方を見つけて下さいな」
「ん-。ミレイヌよりも可愛い子が見つからないから困ったもんだよ」
まったく兄馬鹿も困ったもんだわ。
ああでも、もしかしたらデブ専だったりするのかしら。
私を可愛い可愛いとかいうぐらいだし。
「お兄様はどんな方が好きなのですか?」
「そうだなぁ。食べ物を美味しそうに食べてくれる子かな」
あー。そうなると、貴族では少し難しいかもしれないわね。
みんな顔にも出さず静かに食べるのがマナーだし。
そう考えると、私は貴族令嬢としては失格なのよね。
すぐ顔に出ちゃうから。
「ああそうだ。お土産をミレイヌにたくさん持ってきたのだけど、受け取ってくれるかい?」
「そうですね。せっかくお兄様が買ってきて下さったものなので、屋敷の皆でいただきますわ。一人だと太ってしまいますから」
「そうしておくれ」
今日のお詫びを兼ねて、みんなで食べればいいわ。
兄が買ってきてくれるものはどれも目新しいものばかりで、すごく美味しいから。
「そうだ! お兄様にお願いしたいものがあるんですの!」
「なんだいミレイヌ。すぐに言ってくれ! 可愛い妹のお願いならばどんなことでも叶えよう」
「お兄様に探して欲しいものがあって」
「すぐ行ってくる!」
私からのお願いに、兄は水を得た魚のような瞳で飛びつく。
そしてそのお願いを叶えるために、また来るとだけ残し早々に屋敷を後にした。
「普通止めますから」
「なぜだ? うちの可愛い可愛い妹がいじめられてるのなら、兄としてガツンとやってやらねばなるまい」
「そんなことしたら、余計に大事になります」
だいたい家の力なんて借りたら負けた気になるから、絶対に嫌。
自分にされたことは、自分でやり返したいし。
「別に大事になってもかまわないだろう。向こうがそれほどのことをしてきているのだから」
「そうかもしれませんが、それは私がやり返せば済むことです」
「だが……」
「お兄様。お兄様たちが私のことをどれだけ愛して下さっているのかは知っています」
「もちろんだ。こんなに可愛い妹など他にいるものか。ミレイヌが生まれた時、天使が下りて来たのかと家族全員が思ったよ」
そうね。
実家ではいつも天使のようだって、すごくみんな私のことを溺愛してくれていた。
だからこそ、勘違いしちゃったんだもの。
「愛して下さったことは、何よりも感謝しています。それが私にとってどれだけ救いだったことか。でも、そればっかりではダメなんです」
「愛することの何がダメだというんだい」
「愛することではなく、愛して下さっているのなら、ちゃんと悪いことも言っていただかないと。そうでなければ、私も気づけません」
気づかなかったからこそ、今がある。
でもそれは家族だけのせいではないのも分かってる。
愛してくれた家族には、本当に感謝しているから。
でも甘やかされるだけでは、きっとダメ。
私にはなりたい自分があって、目標があるから。
「気づくというのは」
「私が外で何と言われていたか、お兄様は知っていらっしゃいましたよね?」
「それは……」
視線を外し、困ったように口元を抑えるあたりからして、兄はやっぱり知っていたんだ。
「私が白豚令嬢などと呼ばれていたのに、どうして止めなかったのですか?」
「もちろん! 言っていた奴らにはちゃんと分からせてきたさ。ミレイヌがいかに天使かってことを」
「そうではなくて、です! まずは私にちゃんと説明をして、摂生に努めさすべきだったのではないですか?」
「あんなに幸せそうに食べるミレイヌを止めろと?」
「それも優しさです。過ぎたるは~ですよ。太れば太るほど健康も損ないます。お兄様は私が早死にしても良いのですか?」
そこまではっきりと言って、やっと兄は分かったようだった。
そしてそんな風に初めて兄に小言を言う私を、呆然と見ている。
悪気がない分、誰も止めなかったからね。
私もそれで幸せだったし。
だからこそ、ちゃんとここで辞めないと。
なあなあにしては、絶対に抜け出せなくなってしまうから。
「……すまなかったミレイヌ。そこまで考えたことはなかったよ」
「いいんです。私もお兄様たちからの愛がすごく嬉しかったんです。でもそれをただ無限に受け取っていくのはダメだって思えるようになったんです」
「あんなに小さかったミレイヌが本当に大人になってしまったんだな」
兄は私の頭を撫でながら、目を細めた。
その瞳はどこか悲しそうに揺れている。
「ふふふ。もう結婚までしたんですよ」
「それすらボクには信じられないよ」
「私より、お兄様もちゃんと良い方を見つけて下さいな」
「ん-。ミレイヌよりも可愛い子が見つからないから困ったもんだよ」
まったく兄馬鹿も困ったもんだわ。
ああでも、もしかしたらデブ専だったりするのかしら。
私を可愛い可愛いとかいうぐらいだし。
「お兄様はどんな方が好きなのですか?」
「そうだなぁ。食べ物を美味しそうに食べてくれる子かな」
あー。そうなると、貴族では少し難しいかもしれないわね。
みんな顔にも出さず静かに食べるのがマナーだし。
そう考えると、私は貴族令嬢としては失格なのよね。
すぐ顔に出ちゃうから。
「ああそうだ。お土産をミレイヌにたくさん持ってきたのだけど、受け取ってくれるかい?」
「そうですね。せっかくお兄様が買ってきて下さったものなので、屋敷の皆でいただきますわ。一人だと太ってしまいますから」
「そうしておくれ」
今日のお詫びを兼ねて、みんなで食べればいいわ。
兄が買ってきてくれるものはどれも目新しいものばかりで、すごく美味しいから。
「そうだ! お兄様にお願いしたいものがあるんですの!」
「なんだいミレイヌ。すぐに言ってくれ! 可愛い妹のお願いならばどんなことでも叶えよう」
「お兄様に探して欲しいものがあって」
「すぐ行ってくる!」
私からのお願いに、兄は水を得た魚のような瞳で飛びつく。
そしてそのお願いを叶えるために、また来るとだけ残し早々に屋敷を後にした。
89
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~
猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。
現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。
現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、
嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、
足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。
愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。
できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、
ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。
この公爵の溺愛は止まりません。
最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる