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まゆみの場合 3
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「え、なに……今、なんて言ったの、あなた」
嘘よね……。きっと、聞き間違えたんだわ。だってそうでしょう。どう考えたっておかしいもの。
冷静にならないと。この人がそんなこというワケがないわ。離婚して欲しいだなんて。
聞き返しても夫はただ床に額をこすりつけているだけだ。
「嘘よね? 私と離婚したいだなんて。あっちは遊びなんでしょう?」
「……すまない……養育費も慰謝料も払う」
「ねぇ、分かってるの? ねぇ、私たちの子どもが出来たのに。子どもが……なんでよ」
「すまない」
「なんで! あっちの女の子どもはよくって、私じゃダメなのよ。なんのために、なんのために……」
「向こうの妊娠が分かって、すぐ離婚を切り出そうと思ったんだ。でもタイミングを見計らってるうちに、お前が妊娠したって……。びっくりしちゃって、中々言い出すタイミングが余計になくなってしまったんだ」
「あのさ。その前の問題だよね。どうして私がいるのに、浮気して、挙句に相手が妊娠ってなるのよ。順番が全部おかしいでしょう」
「すまない」
「すまないじゃ分からない! そんなんじゃ、分からないわよ……。どうして……」
幸せな家族だと思っていたのは私だけだったってことなのね。
この子が出来ようができまいが、彼にとっては幸せな家族ではなかったってこと。
でもそれならせめて、こんな形になる前に言って欲しかった。
せめてこの子が出来る前だったら、もしかしたら私だって許せたかもしれないのに。
欲しかったものはたった一つだけ。
家族三人で幸せに……家族のちゃんとした、どこにでもあるような幸せが欲しかっただけなのに。
養育費をもらえても、なんだというの?
お金だけ払って、私が欲しかった幸せは全部取られてしまうの?
そんなものいらない。そんなもの欲しくない。
家族三人、家族三人……そう、三人……。
「あなたなんていらないわ」
「すまない、ちゃんとお金は、お金は払うから!」
「お金? そんなものいらない。私が欲しかったのは家族三人の幸せな生活」
「それは本当にすまないと思ってる」
「あなたはいらない。でも……父親がいないと、家族三人にならないものね」
「え?」
私はそう言いながら、サイドテーブルの上に置いてあったとても大きな花瓶を両手で持ち上げ、そのまま夫の頭の上に落とした。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ」
「あなたはいらないわ。でもそうね……中身を抜いて、AIでも詰め込んだらちゃんと完璧な父親が出来上がると思うのよね」
「や、やめてくれぇぇぇぇ! ああああ」
何度も何度も、私は力いっぱい花瓶を振り下ろす。
彼が動かなくなるまで。
家族の幸せを省みない、中身なんてもう必要はない。これからはAIの時代ですものね。
外身だけ綺麗にしてから、全部入れ替えてしまえばいいわ。
そうしたらもう、きっと完璧。私がずっと欲しかった幸せな家族三人の出来上がりね。
私は家族三人で食卓を囲む姿を想像し、ただ幸せな気持ちでいっぱいになった。
嘘よね……。きっと、聞き間違えたんだわ。だってそうでしょう。どう考えたっておかしいもの。
冷静にならないと。この人がそんなこというワケがないわ。離婚して欲しいだなんて。
聞き返しても夫はただ床に額をこすりつけているだけだ。
「嘘よね? 私と離婚したいだなんて。あっちは遊びなんでしょう?」
「……すまない……養育費も慰謝料も払う」
「ねぇ、分かってるの? ねぇ、私たちの子どもが出来たのに。子どもが……なんでよ」
「すまない」
「なんで! あっちの女の子どもはよくって、私じゃダメなのよ。なんのために、なんのために……」
「向こうの妊娠が分かって、すぐ離婚を切り出そうと思ったんだ。でもタイミングを見計らってるうちに、お前が妊娠したって……。びっくりしちゃって、中々言い出すタイミングが余計になくなってしまったんだ」
「あのさ。その前の問題だよね。どうして私がいるのに、浮気して、挙句に相手が妊娠ってなるのよ。順番が全部おかしいでしょう」
「すまない」
「すまないじゃ分からない! そんなんじゃ、分からないわよ……。どうして……」
幸せな家族だと思っていたのは私だけだったってことなのね。
この子が出来ようができまいが、彼にとっては幸せな家族ではなかったってこと。
でもそれならせめて、こんな形になる前に言って欲しかった。
せめてこの子が出来る前だったら、もしかしたら私だって許せたかもしれないのに。
欲しかったものはたった一つだけ。
家族三人で幸せに……家族のちゃんとした、どこにでもあるような幸せが欲しかっただけなのに。
養育費をもらえても、なんだというの?
お金だけ払って、私が欲しかった幸せは全部取られてしまうの?
そんなものいらない。そんなもの欲しくない。
家族三人、家族三人……そう、三人……。
「あなたなんていらないわ」
「すまない、ちゃんとお金は、お金は払うから!」
「お金? そんなものいらない。私が欲しかったのは家族三人の幸せな生活」
「それは本当にすまないと思ってる」
「あなたはいらない。でも……父親がいないと、家族三人にならないものね」
「え?」
私はそう言いながら、サイドテーブルの上に置いてあったとても大きな花瓶を両手で持ち上げ、そのまま夫の頭の上に落とした。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ」
「あなたはいらないわ。でもそうね……中身を抜いて、AIでも詰め込んだらちゃんと完璧な父親が出来上がると思うのよね」
「や、やめてくれぇぇぇぇ! ああああ」
何度も何度も、私は力いっぱい花瓶を振り下ろす。
彼が動かなくなるまで。
家族の幸せを省みない、中身なんてもう必要はない。これからはAIの時代ですものね。
外身だけ綺麗にしてから、全部入れ替えてしまえばいいわ。
そうしたらもう、きっと完璧。私がずっと欲しかった幸せな家族三人の出来上がりね。
私は家族三人で食卓を囲む姿を想像し、ただ幸せな気持ちでいっぱいになった。
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