43 / 89
第三章
第四十話 宴会騒ぎなギルドの中で
しおりを挟む
「ルカ、この前購入した服たちの中に、ワンピースもいくつかあったわよね」
キースに冒険者ギルドに連れて行ってもらってから1日経ち、昼を過ぎた頃にギルドからの吉報が届いた。
冒険者たちが口にしたことのある魔物の肉が、数種類揃ったというのだ。
あれから1日半くらいしか経っていないというのに。
冒険者っていうのは、本当にすごい人たちばかりなのね。
ギルドからの伝令を帰した私は、屋敷の厨房へ。
お目当ての物をいくつか分けてもらった後、急いで着替えることにした。
「あるにはありますが、あんな地味なものを着ていくのですか?」
貴族の令嬢が着るには、普通のワンピースは確かに地味ね。
でも元々ドレスを着る習慣のない私にはそれで十分。
それにギルドにドレスを着ていくなんて、場違いすぎるのよね。
ルカはブツブツ言いながらも、衣装ケースから比較的フリルの多い水色のワンピースを取り出す。
今から厨房に入るから、もっと汚れても大丈夫なのがいいんだけど。
私これ以上言うとルカがヘソを曲げてしまいそうね。
まぁ、これでも問題はないでしょう。
「女性もののズボンもあればいいのに」
「ズボンですか! あんなものは、農村部の人ですら女性は履かないですよ。アイリスお嬢様は、冒険者か何かになってしまうのですか?」
ワンピースを抱えたまま、ルカがすでに涙目になっている。
「そうじゃないのよ、ルカ。そういうファッションもあってもいいんじゃないかなーっていう意味よ」
ここまで露骨に嫌がられるなんて。
そうか。ん-。貴族の女性にズボンは難しいのね。
誰が何を着てもいいと思うのに。
貴族も楽じゃないわね。
「アイリスお嬢様のそのアイディアは、どこから出てくるのですか?」
「なんとなくよ。今まであんまり自分から外に出ることも、他の人に関わることもしてこなかったでしょ。いろんなことに目を向けるようになったから、いろいろと思いつくようになったのよ」
「お変わりになりましたね、お嬢様。それも、とても良い方に。チェリー様のご婚約が決まってからでしょうか。ルカは、とてもうれしく思います」
「ありがとう。さあ、急いでギルドに向かわないと。ルカも手伝ってくれるかしら?」
「もちろんです」
変わった、か。改めて、誰かに言われると、やっぱり嬉しいモノね。
変わろうと思っていろいろやっていても、自分だけでは中々判断がつかないし。
ルカはにこやかな笑みを浮かべながら、私にワンピースを渡すと髪を綺麗に結い上げてくれる。
装飾品などは付けず、そのまま着替えると馬車に荷物を載せてギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇
ギルドにはすでに20人くらいの人が集まっていた。
会場は、やや打ち上げ会のような雰囲気だ。
そして私とルカが入ってくるなり、そのにぎやかな室内に歓声が上がる。
えっと、私はここへ何しに来たのだろうか。
一瞬、入ってくる場所を間違えてしまったかのような錯覚を覚えた。
「お、お嬢様、これはどんな感じなのですか?」
私の横にぴったりくっついたルカが、小さな声で私に尋ねた。
私もそれが聞きたいのだが、ルカはこんな場所になど来たことはないだろう。
かくいう私も2回目でしかないのだが。
どんな感じと言われても、フレンドリーな感じとしか表現が出来ないわよね。
「おお! アイリス嬢、来てくれたか」
手を上げながら、一際大きな男性が奥の部屋から出てきた。
ギルド長だ。彼を見るなり、冒険者たちは少し静かになる。
なんか、先生と生徒みたいね。
入ってきた途端に静かになるなんて。
「いえ、急ぎ頼んでおいた品を用意して下さり、ありがとうございます。さっそく試してみたいのですが、どこかで調理出来そうな場所はありますか?」
「奥にキッチンがある。手伝いも付けるから、そこで作ってくれ。味見を待っている奴らが、これ以上うるさくならないうちに」
ギルド長の言葉に、その場にいた人たちはにこやかだ。
彼らはみんな味見に集まった人間らしい。
どうりでお祭り騒ぎのはずだ。
しかし彼らがわざわざ捕ってきてくれた魔物なのだから、一番に食べる権利は彼らにこそある。
問題は、美味しく作れるといいんだけど。
にわかな記憶と、高校の調理実習レベルの腕しかないし。
「料理の腕はあまり期待しないで下さいね。でも、急いで作ってきますから」
冒険者たちの方を向き、首をかしげながらにこやかに微笑むと、歓声が上がった。
「みんな楽しみにしているから頑張らないとね、ルカ」
こんなにも魔物料理を楽しみにしてもらっているなんて、予想外ね。
これだけ期待が集まったのなら、気合を入れないと。
「……アイリス嬢はもしかして、無自覚か?」
「はい、お嬢様は全くの無自覚な上に、自己評価がとても低い方でいらっしゃいます」
視線を冒険者たちからルカたちの方へ向ける。
そこには、いつの間にかルカとギルド長が仲良さげにこそこそと会話していた。
なんでルカとギルド長?
二回目の私よりも仲良しだなんて。
ぶぅ。
「全く困ったものだ」
「はい、全く困ったものです」
「え、何、なに? 二人でなんの話をしているの?」
さっきから、じとっとした目で2人に見つめられている。
なんとも居心地の悪い感じだ。
無自覚って言われても、全く意味が分からないし。
二人とも、私にも分かるように説明してくれればいいのに。
どうやら、その気はないらしい。
「もーーー。とにかく、さっさと始めましょう」
視線を無視し、そのまま奥の部屋へ進み出す。
今は魔物料理を完成が先。
別に、のけ者にされたからって拗ねてるワケじゃないんだから。
キースに冒険者ギルドに連れて行ってもらってから1日経ち、昼を過ぎた頃にギルドからの吉報が届いた。
冒険者たちが口にしたことのある魔物の肉が、数種類揃ったというのだ。
あれから1日半くらいしか経っていないというのに。
冒険者っていうのは、本当にすごい人たちばかりなのね。
ギルドからの伝令を帰した私は、屋敷の厨房へ。
お目当ての物をいくつか分けてもらった後、急いで着替えることにした。
「あるにはありますが、あんな地味なものを着ていくのですか?」
貴族の令嬢が着るには、普通のワンピースは確かに地味ね。
でも元々ドレスを着る習慣のない私にはそれで十分。
それにギルドにドレスを着ていくなんて、場違いすぎるのよね。
ルカはブツブツ言いながらも、衣装ケースから比較的フリルの多い水色のワンピースを取り出す。
今から厨房に入るから、もっと汚れても大丈夫なのがいいんだけど。
私これ以上言うとルカがヘソを曲げてしまいそうね。
まぁ、これでも問題はないでしょう。
「女性もののズボンもあればいいのに」
「ズボンですか! あんなものは、農村部の人ですら女性は履かないですよ。アイリスお嬢様は、冒険者か何かになってしまうのですか?」
ワンピースを抱えたまま、ルカがすでに涙目になっている。
「そうじゃないのよ、ルカ。そういうファッションもあってもいいんじゃないかなーっていう意味よ」
ここまで露骨に嫌がられるなんて。
そうか。ん-。貴族の女性にズボンは難しいのね。
誰が何を着てもいいと思うのに。
貴族も楽じゃないわね。
「アイリスお嬢様のそのアイディアは、どこから出てくるのですか?」
「なんとなくよ。今まであんまり自分から外に出ることも、他の人に関わることもしてこなかったでしょ。いろんなことに目を向けるようになったから、いろいろと思いつくようになったのよ」
「お変わりになりましたね、お嬢様。それも、とても良い方に。チェリー様のご婚約が決まってからでしょうか。ルカは、とてもうれしく思います」
「ありがとう。さあ、急いでギルドに向かわないと。ルカも手伝ってくれるかしら?」
「もちろんです」
変わった、か。改めて、誰かに言われると、やっぱり嬉しいモノね。
変わろうと思っていろいろやっていても、自分だけでは中々判断がつかないし。
ルカはにこやかな笑みを浮かべながら、私にワンピースを渡すと髪を綺麗に結い上げてくれる。
装飾品などは付けず、そのまま着替えると馬車に荷物を載せてギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇
ギルドにはすでに20人くらいの人が集まっていた。
会場は、やや打ち上げ会のような雰囲気だ。
そして私とルカが入ってくるなり、そのにぎやかな室内に歓声が上がる。
えっと、私はここへ何しに来たのだろうか。
一瞬、入ってくる場所を間違えてしまったかのような錯覚を覚えた。
「お、お嬢様、これはどんな感じなのですか?」
私の横にぴったりくっついたルカが、小さな声で私に尋ねた。
私もそれが聞きたいのだが、ルカはこんな場所になど来たことはないだろう。
かくいう私も2回目でしかないのだが。
どんな感じと言われても、フレンドリーな感じとしか表現が出来ないわよね。
「おお! アイリス嬢、来てくれたか」
手を上げながら、一際大きな男性が奥の部屋から出てきた。
ギルド長だ。彼を見るなり、冒険者たちは少し静かになる。
なんか、先生と生徒みたいね。
入ってきた途端に静かになるなんて。
「いえ、急ぎ頼んでおいた品を用意して下さり、ありがとうございます。さっそく試してみたいのですが、どこかで調理出来そうな場所はありますか?」
「奥にキッチンがある。手伝いも付けるから、そこで作ってくれ。味見を待っている奴らが、これ以上うるさくならないうちに」
ギルド長の言葉に、その場にいた人たちはにこやかだ。
彼らはみんな味見に集まった人間らしい。
どうりでお祭り騒ぎのはずだ。
しかし彼らがわざわざ捕ってきてくれた魔物なのだから、一番に食べる権利は彼らにこそある。
問題は、美味しく作れるといいんだけど。
にわかな記憶と、高校の調理実習レベルの腕しかないし。
「料理の腕はあまり期待しないで下さいね。でも、急いで作ってきますから」
冒険者たちの方を向き、首をかしげながらにこやかに微笑むと、歓声が上がった。
「みんな楽しみにしているから頑張らないとね、ルカ」
こんなにも魔物料理を楽しみにしてもらっているなんて、予想外ね。
これだけ期待が集まったのなら、気合を入れないと。
「……アイリス嬢はもしかして、無自覚か?」
「はい、お嬢様は全くの無自覚な上に、自己評価がとても低い方でいらっしゃいます」
視線を冒険者たちからルカたちの方へ向ける。
そこには、いつの間にかルカとギルド長が仲良さげにこそこそと会話していた。
なんでルカとギルド長?
二回目の私よりも仲良しだなんて。
ぶぅ。
「全く困ったものだ」
「はい、全く困ったものです」
「え、何、なに? 二人でなんの話をしているの?」
さっきから、じとっとした目で2人に見つめられている。
なんとも居心地の悪い感じだ。
無自覚って言われても、全く意味が分からないし。
二人とも、私にも分かるように説明してくれればいいのに。
どうやら、その気はないらしい。
「もーーー。とにかく、さっさと始めましょう」
視線を無視し、そのまま奥の部屋へ進み出す。
今は魔物料理を完成が先。
別に、のけ者にされたからって拗ねてるワケじゃないんだから。
1
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる