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第三章

第四十話 宴会騒ぎなギルドの中で

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「ルカ、この前購入した服たちの中に、ワンピースもいくつかあったわよね」


 キースに冒険者ギルドに連れて行ってもらってから1日経ち、昼を過ぎた頃にギルドからの吉報が届いた。

 冒険者たちが口にしたことのある魔物の肉が、数種類揃ったというのだ。

 あれから1日半くらいしか経っていないというのに。

 冒険者っていうのは、本当にすごい人たちばかりなのね。

 ギルドからの伝令を帰した私は、屋敷の厨房へ。

 お目当ての物をいくつか分けてもらった後、急いで着替えることにした。
 

「あるにはありますが、あんな地味なものを着ていくのですか?」


 貴族の令嬢が着るには、普通のワンピースは確かに地味ね。

 でも元々ドレスを着る習慣のない私にはそれで十分。

 それにギルドにドレスを着ていくなんて、場違いすぎるのよね。

 ルカはブツブツ言いながらも、衣装ケースから比較的フリルの多い水色のワンピースを取り出す。

 今から厨房に入るから、もっと汚れても大丈夫なのがいいんだけど。

 私これ以上言うとルカがヘソを曲げてしまいそうね。

 まぁ、これでも問題はないでしょう。


「女性もののズボンもあればいいのに」

「ズボンですか! あんなものは、農村部の人ですら女性は履かないですよ。アイリスお嬢様は、冒険者か何かになってしまうのですか?」


 ワンピースを抱えたまま、ルカがすでに涙目になっている。


「そうじゃないのよ、ルカ。そういうファッションもあってもいいんじゃないかなーっていう意味よ」


 ここまで露骨に嫌がられるなんて。

 そうか。ん-。貴族の女性にズボンは難しいのね。

 誰が何を着てもいいと思うのに。

 貴族も楽じゃないわね。


「アイリスお嬢様のそのアイディアは、どこから出てくるのですか?」

「なんとなくよ。今まであんまり自分から外に出ることも、他の人に関わることもしてこなかったでしょ。いろんなことに目を向けるようになったから、いろいろと思いつくようになったのよ」

「お変わりになりましたね、お嬢様。それも、とても良い方に。チェリー様のご婚約が決まってからでしょうか。ルカは、とてもうれしく思います」

「ありがとう。さあ、急いでギルドに向かわないと。ルカも手伝ってくれるかしら?」

「もちろんです」

 
 変わった、か。改めて、誰かに言われると、やっぱり嬉しいモノね。

 変わろうと思っていろいろやっていても、自分だけでは中々判断がつかないし。

 ルカはにこやかな笑みを浮かべながら、私にワンピースを渡すと髪を綺麗に結い上げてくれる。

 装飾品などは付けず、そのまま着替えると馬車に荷物を載せてギルドへと向かった。


   ◇   ◇   ◇


 ギルドにはすでに20人くらいの人が集まっていた。

 会場は、やや打ち上げ会のような雰囲気だ。

 そして私とルカが入ってくるなり、そのにぎやかな室内に歓声が上がる。

 えっと、私はここへ何しに来たのだろうか。

 一瞬、入ってくる場所を間違えてしまったかのような錯覚を覚えた。


「お、お嬢様、これはどんな感じなのですか?」


 私の横にぴったりくっついたルカが、小さな声で私に尋ねた。

 私もそれが聞きたいのだが、ルカはこんな場所になど来たことはないだろう。

 かくいう私も2回目でしかないのだが。

 どんな感じと言われても、フレンドリーな感じとしか表現が出来ないわよね。


「おお! アイリス嬢、来てくれたか」


 手を上げながら、一際大きな男性が奥の部屋から出てきた。

 ギルド長だ。彼を見るなり、冒険者たちは少し静かになる。

 なんか、先生と生徒みたいね。

 入ってきた途端に静かになるなんて。


「いえ、急ぎ頼んでおいた品を用意して下さり、ありがとうございます。さっそく試してみたいのですが、どこかで調理出来そうな場所はありますか?」

「奥にキッチンがある。手伝いも付けるから、そこで作ってくれ。味見を待っている奴らが、これ以上うるさくならないうちに」


 ギルド長の言葉に、その場にいた人たちはにこやかだ。

 彼らはみんな味見に集まった人間らしい。

 どうりでお祭り騒ぎのはずだ。

 しかし彼らがわざわざ捕ってきてくれた魔物なのだから、一番に食べる権利は彼らにこそある。

 問題は、美味しく作れるといいんだけど。

 にわかな記憶と、高校の調理実習レベルの腕しかないし。


「料理の腕はあまり期待しないで下さいね。でも、急いで作ってきますから」


 冒険者たちの方を向き、首をかしげながらにこやかに微笑むと、歓声が上がった。


「みんな楽しみにしているから頑張らないとね、ルカ」


 こんなにも魔物料理を楽しみにしてもらっているなんて、予想外ね。

 これだけ期待が集まったのなら、気合を入れないと。


「……アイリス嬢はもしかして、無自覚か?」

「はい、お嬢様は全くの無自覚な上に、自己評価がとても低い方でいらっしゃいます」


 視線を冒険者たちからルカたちの方へ向ける。

 そこには、いつの間にかルカとギルド長が仲良さげにこそこそと会話していた。

 なんでルカとギルド長?
 
 二回目の私よりも仲良しだなんて。

 ぶぅ。


「全く困ったものだ」

「はい、全く困ったものです」

「え、何、なに? 二人でなんの話をしているの?」


 さっきから、じとっとした目で2人に見つめられている。

 なんとも居心地の悪い感じだ。

 無自覚って言われても、全く意味が分からないし。

 二人とも、私にも分かるように説明してくれればいいのに。

 どうやら、その気はないらしい。


「もーーー。とにかく、さっさと始めましょう」


 視線を無視し、そのまま奥の部屋へ進み出す。

 今は魔物料理を完成が先。

 別に、のけ者にされたからって拗ねてるワケじゃないんだから。 
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