異世界転移してすぐ奴隷とか聞いてないよ

10話〈熊獣人＝ウィリアム・バーナード〉

　今俺の腕の中に居る愛しい番は羽のような重さで驚くが、更にその細さに驚愕する。腹には古い物から新しい物まで沢山の痣がある一体どんな扱いを受けてきたのか...。帝国に居る孤児でもこんな酷くはない。10～13歳くらいの子供が、ちょっとした力で壊れてしまいそうな程細く、不安そうに自分の身体を抱きしめている様は俺の番でなくとも、獣人として、熊族として庇護欲が生まれる。

　抱き上げる際にちらっと見えてしまったが、俺の番は男の子みたいだ。髪は長いし、細いから見るまでどちらか分からなかった。年端もいかぬ少年だが一部の変態たちに受けそうな見た目をしている。奴隷である時点で予想話できるが、恐らく......考えても仕方ない。

「あ、あの。ご主人様？僕歩けるので、その...おろしてもらえませんか？」

　考えたくもない想像を遮るように小鳥のように高く美しい声色が耳に届く。少女と少年の間のような幼い可愛げのある声で、おどおどとしているが、俺を見上げ伺うように目を合わせてご主人様？と言う姿は可愛い。だが先ほどの考えが当たっているようで、ズンと胸の中の黒い感情が重たくなる。

「話は俺の家に着いてからだ」

　裸の番を人の目があるところで歩かせる気はない。この国では奴隷は服を着ていなくても正式な場でなければ許されているが、裸足で歩かせたくもないし、この国を番の視界に入れたくない。せめて俺の借りている家でないと無理だ。番が見つかった以上、一度帝国に戻りたい。このジャマーナ王国にいる以上奴隷から解放することが難しい。

　少年が俺の顔じっと見ている事に気が付いた。俺に怯えているようではないが、不安そうに見上げてくる。

――――かわいい。

　つい先ほど見つけた番がこの短時間で俺の中で絶対守るべき存在になっている。番が特別なのは獣人の中では当たり前だが、こんなにもハッキリと分かるとは思っていなかった。

　そんな熊族としての性質にもぴったりと合った、庇護欲をそそる小動物みたいな少年の不安そうな瞳は微睡み始めた。

　俺だけに無防備な姿を見せてくれるなら大歓迎だが、番の少年の危機感のなさに少しばかり動揺してしまう。

　少年が半分寝始めたところで俺の家に着きドアを開ける。その音で少年はビクッと効果音が付きそうな勢いで起き辺りを見渡している。

「ついたぞ」

　一応声を掛けてリビングのイスに丁寧に下ろす。

「ありがとう、ございます。ご主人様」

　そういう彼の声は急に強張り、先ほどのふにゃふにゃとした無防備な姿からは想像できないほど、真剣に俺の動きを追っている。

　お前さんの警戒心が何で反応するか俺にはよくわからん。