仮面を被った模倣犯

須藤真守

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東條という女

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「入れ」
面会室に一人の女が入ってくる。
彼女は長身で黒髪ストレートロングの美しい容貌をしており、目は切れ長で妖艶な雰囲気を醸し出していた。
彼女がただの美女ならば、きっとその美麗な容姿に魅了されていたかもしれない。
「私をここから出してもらえないかしら?お礼するわよ?」
「悪いな、そりゃあ無理だ」
「あら、残念」
久瀬は彼女の情報を整理する。

彼女の名前は東條とうじょう明日奈あすな
一連の事件の犯人だ。
「それで?ただお喋りしに来たんじゃないよね?」
「その前にだ」
久瀬は本題に入る前に聞いた。
「なんでここから出たいんだ?」
すると彼女は
「まずは本題から聞いたほうが早いわよ」と言った。
「分かったよ、んじゃあ聞いてやる」

「一昨日のあの事件は本当にお前がやったのか?」
そう尋ねると彼女の少し退屈そうな顔は一気に変わった。

「そうね、率直に言うとアレは私じゃないわ」

やはり久瀬の勘は正しかった。
断定はできないがそう思った。
「それじゃあ、なんで私がここから出たいかについて教えてあげるわ」
「ああ」

そして彼女は答えた。

「私もあなたの捜査に協力させてほしいの」

そう言われて、久瀬から思わず笑みが溢れた。
「殺人鬼が捜査に協力してくれるってか?アンタおもしれーよ。殺人鬼よりも芸人になったほうがお似合いだ」
「そう」
久瀬は笑うのを止めて尋ねた。
「で?仮に捜査に協力して犯人にありつけたとしてだ。アンタはその犯人をどうするってんだ?」

「…フフ、本当は分かってるくせに」

「そうか、ならますます出すワケにはいかねぇな」
そう言うと彼女はつまらなそうに椅子の背もたれにもたれかかった。
「だって人の殺人げいじゅつをパクられっぱなしっていうのは嫌じゃない。それに…」
「…それに?」

「人を殺していいのは自分も殺される覚悟がある者だけよ」

「ほう。アンタにもそれは分かってるんだな」
久瀬は僅かに感心した。
「でも及第点だな。それだけでは人を殺していい理由にならねぇ」
久瀬は椅子から立ち上がり、面会室から立ち去ろうとした。
すると…

「ねぇ」

東條に呼び止められ、振り返る。

「またね」

久瀬は彼女の言葉を無視して、面会室を出た。



久瀬が署のほうまで戻ると、他の刑事たちが鋭い形相で睨んだ。
「チッ!久瀬警部か…」
「聞いたか?まだあの事件追ってるってよ」
「事件は解決したってのにな」
(あーあー。嫌だねぇ、これだから署は嫌いなんだ)
面倒くさそうに自分のデスクにつくと、あの容疑者のファイルを見た。

東條 明日奈〈25〉

性別:女
職業:化粧品会社の事務員
《経歴》
小学1年生の頃に両親を殺害され、1ヶ月に渡り手厚くカウンセリング等を受けさせたが、心的外傷はないと判断されその後、彼女の祖父に引き取られた。

(19年前の事件だな…少し調べてみるか)

久瀬は椅子から腰を上げて、捜査資料管理室へと向かった。
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